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しおりを挟む志乃は目隠しをされ、口にはガムテープを張られて車に詰め込まれていた。
手錠を掛けられ、左右には屈強な男が見張っている。
やがてセダンは停車し、まず男たちが降りた。
ようやく目隠しを外された志乃が見たのは、高層マンション。
(僕を連れ出すように指図した人が、ここに住んでる、ってことだよね)
まだ新しい匂いのするエレベーターに乗り、最上階まで連れていかれた。
豪奢なオートドアの前で、男が一人防犯カメラに向かって話す。
「志乃を、連れてまいりました」
音もなくドアはひとりでに開き、志乃たちは室内へと入った。
奥のリビングで待っていた男に、志乃は目を見開いた。
「待ってたよ、志乃」
「……!?」
口のガムテープが勢いよく剝がされ、志乃は悲鳴をあげた。
「痛い!」
テープを剥いだ男を睨みつけるついでに、声を掛けてきた男も睨んだ。
「速水さん。これは、何の真似かな!?」
「それは、こちらのセリフだ。私に断りもなしに、レンタル恋人を辞めるだなんて」
居所を突き止めるのに、手間がかかった、と郷は悪びれもなく微笑む。
志乃を誘拐した犯人は、彼の常連客・速水 郷だった。
アフターデートも相手をしていた、大企業の若き社長だ。
身勝手な性格そのままに、志乃を自分だけの所有物にしようとしているのだ。
「この部屋は、志乃のために用意したんだ。そして」
君はずっと、ここで幸せに暮らすんだよ。
郷の言葉も表情も、ひどく優しいものだったが、志乃はぞっとした。
(章さん。助けて、章さん……!)
心の中で、悲鳴をあげていた。
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