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しおりを挟む「はぁ、美味しかったぁ」
ごちそうさまでした、と笑顔の涼真だ。
その声音に、表情に、お世辞の色は見当たらない。
心からの賛辞に、瑞は嬉しかった。
おそまつさまでした、と謙遜し、タンブラーの温かいコーヒーを、涼真へ手渡した。
「ありがとう」
「あの……」
「ぅん? 何?」
瑞は、おずおずと涼真に話しかけた。
変な奴だと思われるかもしれない。
でも、願わずにはいられなかった。
「あの……。また、お菓子作ってきてもいいですか?」
「それは、いいけど。なぜ?」
「実は僕、ストレス感じたら、夜中にお菓子作る癖があるんです」
入社して一週間。
瑞は涼真を、すっかり信頼していた。
大手商社から転職してきた理由を、しつこく尋ねることもない。
アルファだ、ベータだ、オメガだ、と差別することもない。
前社で身につけたスキルは、ちゃんと認めてくれる。
そして何より、優しい。
今日だってほら、笑顔でチーズケーキを平らげてくれた。
だから、今まで誰にも話したことのない秘密を、打ち明けた。
「ストレス感じたら、お菓子を作る?」
「はい……」
「食べる、んじゃなくって、作る?」
「ええ。作ってると、無心になれるんです。没頭して、嫌なこと忘れられるんです」
瑞の言葉を、涼真は深刻に受け止めた。
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