異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ

文字の大きさ
60 / 85
第3章  新しい試み

17話

しおりを挟む
ライラ陛下と、リック君からジャムの納品(と言って間違いないはず)の仕事を受けて数日。
最初の日曜日がやってきた。
当初、日曜の朝にジャム用の瓶が送られてくる。という話だったが、最初の瓶はすでに預かってきているので届くことは無い。
その日も、特に日々のルーティーンから外れる予定はなく、急な予定が入ることもなく夜を迎えた。
タブレットの通知に気が付き確認すると、ライラ陛下からだった。内容を確認する。

「アプリコットかブルーベリーか…」

このチョイスは完全に気分なんだそうだ。
その時に食べたいと思うジャムを選択しているのだとか。
あの日、なぜその中から一つでいいのか、それでも聞いてみたところ、元々懇意にしているジャム農家もあるのだそう。
なので、急にそこに頼まなくなると軋轢が生じてしまわないかという懸念から、ココロから届いたジャム以外のジャムはそちらから購入するのだと。
という建前。本音はどちらも食べたいからに過ぎないと、語ってくれた。

ということで、今回はアプリコットを選択する。
ブルーベリーは前回使ったので、数はだいぶ減らせた。
けれどアプリコット、杏子は実はまだ1度も使っていないので貯まっていく一方だ。
それと、ライラ陛下とリックに渡す分以外で残ったのはそのままここで使うので、まだ残っているブルーベリーより…という理由もあるが。


翌日、月曜日。
予定通り、ジャム作りを始める。
杏子は種を取り除き、グラニュー糖と混ぜ暫く置いておく。
水気が出たら火にかけ、灰汁を取り除きつつ、途中でレモン汁を加えて煮詰めていく。
煮沸消毒した瓶にそれぞれ詰めて、鍋で沸騰させる。
蓋を締め直して、暫く置いておく。


「よし!じゃあこの間にオヤツを作っちゃおうかな」

せっかくだからジャムを使ったオヤツにしようか。昨日リックにご馳走してもらったからではな…いや、完全に触発されている。

「んー、やっぱりクッキーが妥当かな」

そう考えながら材料を取り出す。
任意加工の便利な機能として、状態を選べる所だ。
今回であればバター。クッキーを作る際、冷蔵庫から取り出すと冷えて固まっているので、常温で柔らかくなるまで待つ必要があるが、この場合「柔らかいバター」と選択すれば、すぐ使える物が出来上がる。

そのバターを使ってプレーン(甘さ控えめ)のクッキー生地を作って、薄く広げる。
その上にブルーベリージャムを薄く伸ばして端から丸めていく。
それを冷蔵庫で冷やしたあとで切って焼けばうずまきクッキーになる。

せっかくなのでもう1つ。
今度はプレーンの生地にジャムを混ぜて纏めずにスプーンで鉄板に落としていく。いわゆるドロップクッキーだ。
少し多めに作ったので、冷めたところで少し包んでおく。
その頃にはジャムを入れた瓶のフタもへこんでいたので、1つをライラ陛下に転送する。
直後、喜びの返信が来たので、少し驚いていた。

「じゃあ、少し出かけてくるね」
「はーい」
「行ってらっしゃいー」
「ンミー?」
「ユキー。良い子で待っててね」

そう言えば、ユキが起きている時に出掛けるのは初めてだ。いつもお昼寝タイムだったから。
どこかへ行ってしまうのかと不安な様子で足元に擦り寄ってくる。何このカワイイ生き物。
思わず抱き上げてしまった。

「大丈夫だよー。すぐ帰って来るから。ほら、皆と遊んでおいで」
「ユキー」
「ユキあそぼー」
「んみゃ!」

チリンチリンと、鈴の音が聞こえてそちらに注意が向く。お気に入りの玩具の音だ。
床に降ろしてあげればそちらへ駆けていく。

「じゃあ、お願いね」
「ん!まかせて!」

ロズが、ポンと胸を叩いている。
その姿を逞しく感じながら、家を出た。

漫画とかではよく、1匹で置いてかれる猫が扉をカリカリしてる描写が描かれていたが、ここでは妖精達と一緒なので寂しくないのが幸いだ。


「こんにちはー」
「あ、ココロさん。いらっしゃいませ!」

リックの家、表側の扉を開けると、作業中だったのかリックがキッチンに立っていた。
その表情は笑顔を浮かべているが、少し様子がおかしい。
出迎えはしたが、その場からは動かず作業を続けている。

「…何かあったの?」
「…実は…」


リックに続いて、二階にある生活空間へと向かう。
急遽客間として用意したという部屋にたどり着いた。

「良いですか?開けますよ…」

ガチャリとドアノブを回せば、中でガタガタッと物音がする。
昼間だというのに薄暗い部屋の中。1つの目がこちらを伺うようにこちらを見ているのが見えた。

「能力持ちの子を、預かってる?」
「はい。子供がやって来るのは初めてなので、今どう対応するか話し合ってる最中なんです」

子供がやって来ることは無いと、話には聞いていた。
理由はハッキリしていない。世界の意思に任せているのだと。
ただ1つハッキリしている事は、その子供を1人にする事は出来ないと言うことだ。

「対応が決まるまでは預かっているんですけど、混乱しているのか警戒心が強くて」
「なるほど…」

ちなみにリックが預かっている理由…ハロルドには2人の兄が居るのに…は、兄弟の中で1番生活能力があるからだと言う。
リックの下の子は、まだ自分の事で精一杯(時々リックが世話しに行っている)のため、さらに幼い子の世話は先ず無理。
そしてお兄さん2人は、仕事は出来るがそれ以外は壊滅的で、それぞれ預かっている家で家政婦さんを雇っているのだとか。


「さぁ、ここに置いておくよ」

締め切られたカーテン。その隙間から、チラリと見える1つの目。
よく見えないがその目の下に、ヒゲのような物がヒクヒクとしている。
中に入ったリックが、テーブルの上に持ってきたおにぎりを置いてくる。

「……」

こちらを警戒しながら、カーテンの隙間からそろりと出てくる。
テーブルの元に向かうと、おにぎりの匂いを嗅いで、安全な事を確認してから勢いよく食べ始めた。

「いつも、こんな感じなんです。警戒はするけど、食欲は旺盛みたいで…」

リックが用意してきたおにぎりをペロリと平らげ、そばに置いてあったお茶に手を伸ばす。
飲む直前、再び鼻をヒクヒクさせて何かの匂いを嗅いでいる。お茶…では無さそうだ。

「?」

チラリと視線がココロへ向く。
ソロリと、警戒はしながもこちらへ近寄ってくる。1歩離れたところで止まったかと思うと、再び鼻をヒクヒクさせる。
何か臭うのだろうかと考えて、ドロップクッキーの存在を思い出す。

「あ。もしかして…これ?」

入れてきた袋を取り出し、差し出す。
一瞬ビクリとするがドロップクッキーが気になるのか、そっと受けとって、サッと逃げていった。

「……」

袋を開けて中の匂いを嗅いでいる。
1つを口に放り込めば、すぐに目をキラキラとさせ、夢中で頬張り始めた。
その姿を見ながら、リックと視線を交差させ、揃って階下へ続く階段へ向かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

神々の寵愛者って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!

碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!? 「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。 そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ! 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...