浮気され離婚した大公の悪役後妻に憑依しました

もぁらす

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44話『甘くない夜』

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 治療が終わるころには、私は心底ぐったりしていた。

 屋敷に帰ると、グレイに念押しした甲斐あって別室が用意されていた。

 グレイの機転のきいたことばがレオニスに響いたようだ。

「今日はセレーネ様の容体を最優先に。寝室は別にいたします」

 ようやく私も——ほっと息をつけた。

 ゆっくりと湯浴みをしてから、ダラしなくベッドに大の字になる。


 久しぶりの1人ベッドおおおおお!!


 ようやく“自分の時間”が戻ってきた気がした。

 だが——10分後。

 控えめに、トントン……と扉が叩かれた。

「セレーネ……入ってもいいか?」


 くると思ってた。

 しばらく無視しようかと迷ったが、追い返すに追い返せない空気が漂っていたので——渋々、扉を開ける。

 そこには、包帯と薬草を抱えたレオニスが立っていた。

 ……ものすごくしょんぼりした顔して。


「入っていいか?」

 声のトーンまで弱々しい。

 仕方なく中へ通してあげた。

 レオニスは椅子にも座らず、私の前にそっと跪く。


「今日は……本当にすまなかった」


 真剣に頭を下げる姿は、威厳なんてどこにもない。

(……まあ、これくらい素直に謝るなら許してあげてもいいか。レオニスが悪い事をしたわけじゃないし)

 ふっと息をついた瞬間——

 レオニスの目がふと上がり、私の風呂上がりのバスローブ姿を見て固まった。


「……メイド服……」

「追い出しますよ?」

「……すまない」

 肩が、しゅん……と落ちる。

 バカなの?

 そのまま膝をついたまま、包帯と薬草を大事そうに差し出してきた。

「……治療、させてほしい。余計なことは、絶対にしない」

 私は観念して、足をソファの上にそっと乗せる。

「……当たり前です」

 レオニスの表情がぱっと明るくなった。

 嬉しそうに、でも過剰に触らないように気を張りながら、丁寧に足首へ薬草を当て、包帯を巻いていく。

 その手つきは驚くほど優しくて——

 ふと見上げると、レオニスは私の足に触れたまま、小さく呟いた。

「……今夜もそばにいてほしいと思ってしまった。……だめか?」

「だめです」

「し、寝室は別にするから、実家に戻らないでくれるか?」

「どうしましょう?」


 私は笑顔でそう返すと、


「明日もやる事がたくさんありますから、早く部屋へお戻りになられてください」

 と、容赦なくピシャリと言った。

 レオニスは、私の言葉を受けて一度うつむいた。


「……そうだな。明日もやることが多い」

 自分に言い聞かせるように呟き、包帯を留めた指先をそっと離す。

「これで痛みは少し軽くなるはずだ」

「ありがとうございます」

 素直にそう伝えると、レオニスは動かなくなった。

 そして、ぽつりと言葉を落とした。

「……すまなかった」

 唐突すぎて、私は思わず瞬きをした。

「何をです?」

 きょとん、と首を傾げると、レオニスはわずかに眉を寄せ、視線を落とした。

「……お前を連れてくるべきではなかった」

「え? 何を——」

「危険な目にあわせるために連れて来たわけじゃない」

 低い声が、足先に触れた指先よりもずっと優しく震えていた。

「それは……」

「怪我をさせるつもりも、苦しい思いをさせるつもりもなかった」

 言葉を吐き出すたびに、彼の肩が少しずつ落ちていく。

 私は慌てて首を振った。

「べ、別にレオニスのせいじゃ——」

「俺が許せないのだ。自分を」

 その一言に、胸が詰まった。

 レオニスは拳をぎゅっと握りしめて、しかし視線は私の足首から離さない。


「私は来て良かったと思っているけど、それも否定するの?」

「……」

「過保護すぎる」

「セレーネ……」

「だいたい、水害だって大したことないって言ってたけど、全然大したことあったし、どうして教えてくれなかったの?」

「それは……」

「次からは何でも話して欲しいです。私の負担になるだとか、心配だからとか。そんなことはどうでもいい。エルバートの危機や繁栄に関することは全て共有するのが夫婦なんじゃないんですか?」


 あ、しまった。
 離婚するのに、何言ってるんだ私。

 でも、私にだって思うところがたくさんある。

 来て良かった。

 領民達の笑顔も、安堵した顔も。

 私が少しでも力になれたのなら、来て良かったと思ったんだ。

 石を投げられた事なんて、何も思ってない。

 レオニスが領民達から庇ってくれた時も、一緒に炊き出しを食べた時間も、この現状を辛いと心を痛めていたあなたも。
 
 ちょっと素敵だな、って。思ってる。

 出来ることなら、あなたには幸せになって欲しい。


「善処する」

「期待しています」



 そうして、私は。

 レオニスを部屋から追い出した。



 それとこれは別ぅ!!


 朝にやられた恨み忘れてないからね!!

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