おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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幕間

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※おばば視点

「さて、今日の売上金の分配はこれで終わりだ。みんなにもちゃんと収益が出てるな?」

 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路のグレイズがニコリを笑って、ダンジョンの地下で商店街の連中から預かった物資を売り捌いた売上金の分配を終えていた。

 本当に気のいい男で、わたし自身が年若ければ、婿に迎えたくなるような、いい男でもある。

「ひぇ、ひえ、ひえ。儲かり過ぎて困るくらいじゃわい。フラマー商会もブラックミルズの街から撤退したようじゃし、最近は冒険者たちも礼儀正しくなってきておるからのぅ。前みたいに応援もしてやりやすくなるってものさね。それも、これもグレイズのおかげじゃな」

 グレイズはわたしの誉め言葉を聞くと、ビクリと肩を竦ませて、居心地悪そうにする。

 この子と、この街で出会って三〇年。夫との間に子宝に恵まれなかったわたしには息子と言って過言ではないほどの愛着を感じているが、当の本人は少し面倒臭そうに思っているみたいだと、人づてに聞いてもいる。

「おばばが褒めると、ろくなことに巻き込まれかねないから、そろそろ、俺たちは退散するよ。メリー、ファーマ、カーラ、アウリース。おいとまするぞ。ハクも遊んでないで帰るぞー」

「おばば様、次回の販売希望リストを作っておきましたから、目を通しておいてくださいね。明後日には潜るので超特急でお願いします」

 居心地の悪さを感じたグレイズが商店街の集会所から立ち去ろうと、仲間に声を掛けると、会計役を任せているメリーから次回の調達品一覧を手渡されていた。

 このメリーはわたしの見たところ、商才に優れ、決断力があり、儲けを感じ取る嗅覚に優れているため、グレイズの傍にいれば、その才を発揮して、パーティーの財政を潤してくれると思える。

 年齢的にもグレイズの周りにいる嫁候補では上であるため、年下の仲間から色々と慕われて、面倒を見てやれる度量も持ち合わせているため、是非ともグレイズの伴侶として推したいところではある。

「メリーは人使いが荒いのぅ。わたしを過労死させる気かえ」

「おばば様ー! 死んじゃダメ―! ファーマ悲しいからぁ!」

 わたしが冗談で過労死すると言うと、猫獣人であるファーマが、腰にしがみ付いてウルウルと目に涙を溜めていた。

 歳で行けば、グレイズのパーティーで一番若いファーマも、メリーとは対照的な意味でグレイズに娶せてやりたい子であった。とにかく純真で疑うことを知らず、自らの感情を包み隠さずにさらけ出す彼女は、心を他人に開くことを嫌うグレイズにとっては新鮮であろうし、いい刺激を与え合える存在になれると見ていた。

 年齢こそ若いが獣人種であるため、身体の成熟するスピードは早いので、数年のうちには良い嫁になる可能性も秘めている子であるのだ。

「ファーマ、おばば、中々死なない。そして、死ぬ時はピンコロで逝くはず」

 泣いているファーマを諭したのは、年齢的には一つ上のカーラであった。

 長命な寿命を誇るエルフ種の娘であるが、万事おおらかな性格の者が多いエルフ種において、知識の集積に並々ならぬ意欲を持つ、変わり種のエルフであった。

 エルフにとって幼年期脱した直後という年齢で集落を離れ、人のいる街に出て冒険者になろうと考える変わった思考を持った子であるが、叡智の種族といわれるエルフの本領を発揮して色々な知識の集積に邁進していた。

 長命であるため、歳を取っても見た目が変化せず、長くグレイズの傍で、彼の業績や行動、考え方を収集できるとなると、この子もまた貴重なグレイズの伴侶としては得難い人物であろうと思われる。

「カーラさんも言い過ぎですよ。おばば様が気を悪くされてしまいますから。グレイズさんが常に礼節には礼節を返そうとおっしゃられているはずですよ」

 カーラに忠告をしたのは、魔術師のアウリースであった。

 ちらりと噂を聞いたところでは、例のムエルたちに酷い目にあわされたところをグレイズが助けてやったそうだが、パーティー加入以降の彼女を見ていると、グレイズに心酔しているかのようにも思える。

 実力の高い魔術師である彼女がグレイズの探索の手伝いをすることで、このパーティーはより一層深く潜れるであろうし、献身的な彼女であれば、グレイズの背中を守ることに対して身を賭す覚悟もしているように思えた。

「グレイズはよい嫁候補がたくさんおるのぅ。ブラックミルズの男たちに恨まれて刺されないようにしておくことじゃな」

「おばば、うっさい。嫁じゃないと言っているだろう。大事な仲間だ。さぁ、みんな、帰るぞ。今日の飯は何を作るかなぁ」

 グレイズは照れているのか、耳まで赤くしたかと思うと、足早に集会場を立ち去っていく。

「ああ、グレイズさん。待って。私はいつでもオッケーだからねぇ」

「ファーマもみんなと一緒にケッコンしたいよー。グレイズさーん」

「みんなとなら私も納得。グレイズ、甲斐性あるから大丈夫」

「あらら、皆様、お騒がせしました。また次回の探索の際もよろしくお願いしますね。では、失礼します」

 先に退散したグレイズを追って、嫁候補たちも一緒に集会所の部屋を出ていった。

 そして、残った店主たちが顔をニヤニヤさせて、わたしの方を見てきている。

「グレイズは行ったな。さぁ、おばば、最新のレートを出してくれるか! メリーがパーティー入りして、倍率が変わって来てるだろう?」

 店主の男が集会場に設置されたテーブルから身を乗り出して、グレイズの嫁候補レースの倍率を尋ねてくる。

 ここにいる店主たちは、グレイズの昔馴染みが多く、わたしがグレイズに感じているのと同じような親しみを共有した仲間でもあった。

 すでに両親が他界して身内も無いグレイズにとって、ブラックミルズの街で長く関わったわたしたちが親戚一同みたいなものである。

 親族の甲斐性もあって、いい歳をしたいい男が、いつまでも嫁取りをせずにいるのが、歯痒く感じている連中なのだ。

「そうじゃのう。メリーが二倍、ファーマ五倍、カーラ四倍、アウリースが三倍、そしてアルマが七倍、全嫁は賭け事成立せずってとこじゃなぁ」

「うぉおお、マジかー。ついに全嫁が成立しないところまで落ちたか。みんな、全嫁に賭けすぎだろ!」

「だが、今の調子だと全嫁制覇が一番濃厚だぞ。これを外したら、リスクが……」

「今度、アウリースちゃんにグレイズの押し倒し方を教えてあげないと。黒のセクシー下着と一緒に」

「ちょ! 下着屋! それは卑怯だぞ。だったら、うちは秘密のポーションをファーマちゃんに渡して……」

「ポーション屋! 秘密ってなんだ。秘密っていかがわしいのはいかんぞ! こうなったら、うちも特製の酒をカーラちゃんに持たせて」

「ばっかもーん。揃いも揃っていかがわしい物をもたせるんじゃない。大丈夫だ。ワシが贅を尽くした婚約指輪をメリーに渡して――」

「「「細工屋――――!!」」」

 それぞれの推している子が幸せになれるようにと、アレコレとおせっかいをすることを考えている店主たちを見ていると、笑いがこみあげてきた。

「ひぇ、ひぇ、ひぇ。これほど、人に好かれる奴も珍しいのぅ。うちの旦那もいい男だったが、グレイズもまたいい男だねぇ」

「おばば様、真剣に考えてくださいよー。グレイズももう四〇ですよ。そろそろ、身を固めさせて子作りにさせてやらないと」

 こうして、夜更けまでわたしたちは、あーでもない、こーでもないと言いながら、グレイズの結婚話を酒肴として大いに酒を飲んで楽しむことになったことは、グレイズ本人には内緒にしておくことにした。

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 幕間をお楽しみいただけましたでしょうか? 

 明日より、第二部の開幕となりますので、続けて読んで頂ければ幸いです<m(__)m>
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