おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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第二部 第三章 ブラックミルズ最大の娯楽

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「いよぉ! グレイズ、よく来たな。今日も潜るのか?」

 冒険者ギルドに顔を出すと、朝の受注ラッシュと重なり、冒険者たちがごった返している。

 そんな中で、俺たちを見つけたジェイミーが声かけてきた。

「おっと、グレイズさんたちが潜るみたいだぞ。今日は大目に依頼取るぞ」

「最近、販売員がファーマちゃんや、カーラちゃん、アウリースちゃんから変わっておっさんになって悲しいけどな。いや、別にセーラちゃんが可愛くないって話じゃないぞ」

「『おっさんず』は大ベテランの冒険者だから、色んな相談に乗ってもらえて助かる。今までいた先輩たちの教えてくれた攻略法は、ランクを上げる方法だけで、冒険者としての知恵はほとんど何も教えてくれなかったからな。さすが、ベテランの知恵ってことも教えてくれる」

 周りで依頼を受注していた冒険者たちが、俺たちの姿を見て、今日はダンジョン販売店が開設されると判断し、依頼の受注を増やしていた。

 トップクラスの冒険者たちが一掃され、闇市に関わった者たちも処罰を受けたため、上位クラスの冒険者たちは数を減らし、彼等を目標にしていた中堅以下の冒険者たちは、しばらく右往左往していた。

 ここ十年ほど、『ダンジョン攻略法』を元に、冒険者ギルドのランク審査を上げるのを至上とした冒険者世代がトップクラスを席巻していたが、例の事件後はその価値観が変化し始めていたのだ。

 実力に応じた依頼をこなし、地道にランクを上げるパーティーが増え始めている。

 これは、アルマが推し進めた依頼受注における能力の適正化政策と、納品依頼における依頼料の増額が、冒険者たちに実力以上の背伸びをさせずに済んでおり、更にうちがダンジョン内での補給ポイントとも言うべき販売店を開設したことで、一回の探索で受ける受注数も右肩上がりの数字を出していた。

 低報酬の依頼でも、重複依頼をこなせば危険度の高い依頼の報酬額より多くなることに気付いた冒険者たちは、実力相当の依頼を中心に複数依頼を受けて潜る者が激増しているそうだ。

 おかげで、冒険者側にも多額の依頼料が落ち、冒険者ギルド側も依頼達成数の急激の上昇となり、お互いに利益を出し合って、いい循環が出来上がりつつあった。

「ジェイミー、相変わらず朝は盛況だな。商売は繁盛してそうだ」

 窓口の受付担当の平職員に降格した元ギルドマスタージェイミーが、窓口の受付嬢たちの後ろに立って暇そうにしていた。

 右眼の眼帯と顔の厳つさで、受付窓口に就任早々、クレーム処理と不良案件の斡旋係に任命され、若い冒険者たちからは『悪魔のジェイミー』と呼ばれ恐れられているのだ。

「おかげさまでな。暫定ギルドマスター様が思いのほか優秀だったようだ。オレの仕事はわがままな冒険者に仕事を押し付けることだけになったぞ」

「アルマ、優秀、冒険者実入り増えたと喜んでる」

「アルマさんはファーマのことを褒めてくれるんだー。凄い、凄いってねー、だから、大好きー!」

「アルマさんが暫定ギルドマスターに就任して打ち出した政策は、冒険者たちに有利な物が多かったですからね。支持者も多いみたいですし」

「そうね。冒険者の実入りも増やして、ギルドの利益も出すってのはスゴイことよ」

 ジェイミーがバツの悪そうな顔で肩を竦めていく。

「みんなして、オレをイジメるなっての。現場からはアルマのやった政策が上がってたんだが、幹部職員が結構否定的でな。ギルドマスターだったとはいえ、幹部職員の意向を無視はできなかったとだけ言わせてくれ。闇市でそいつらが一掃されたおかげでアルマも自由にやれてるからな。後任に推しておいて良かった。新任者も結果が出ている政策を簡単には変えられないだろうし、結果を出したアルマを重要ポストに就けるだろうしな。そうなれば、オレにもおこぼれがもらえるだろうよ」

 ギルドマスター時代はことなかれ主義だったジェイミーだが、平職員に降格したことで、結構言いたい放題に言うようになった。

 冒険者上がりで冒険者ギルド職員となり、その後、昇進してギルドマスターに就任したため、後ろ盾がないギルドマスターの悲哀を察してくれと言いたそうにしている。

「そういえば、そろそろ新任のギルドマスターが赴任してくるそうだが。一体どんな人物だ?」

 冒険者ギルドで話題となっていた新ギルドマスターの人となりをジェイミーに聞く。

 聞かれたジェイミーが少しばかり思案顔となっていた。

「う~ん、新ギルドマスターは領主様の嫡男にあたるアルガド様と決まったそうだ。領主の嫡男だが、これまで公的な仕事に就いたことはなかったのだが、オレのチョンボに業を煮やした領主が息子を送り込んできたみたいだな。ただ、利益さえ出してれば、咎めたてられることも無いと思うし、お飾りのギルドマスターだろうさ。運営を仕切るのはアルマってところだな」

「貴族のボンボンがギルドマスターに就任か……。何もないといいけどな」

 俺は新たに赴任してくるギルドマスターに対して、一抹の不安を拭えないでいた。

「あっ! グレイズさぁ~ん! いらっしゃってたんですね」

 窓口でジェイミーと雑談をしていたら、仕事中のアルマが奥から出てきたようで、俺の姿を見つけたことで窓口まで出てきていた。

「よう、アルマ。元気してるようだな。新任のギルドマスターが来るまでは激務が続くだろうけども、身体を壊すなよ」

「グレイズさぁ~ん。早く、暫定ギルドマスターを退任したいですぅ。私みたいな若造が、本当に色々決めちゃっていいんですかね。ジェイミーさんに相談したら、バンバンやれって言うだけですし、他の先輩もガンガン行こうぜってしか言ってくれないし」

 半分涙目で俺に助けを求めてきたアルマであるが、結果が十分に出ているので、ガンガン行っていいと思う。

 どうせ、新任者が来ても実務担当はアルマのままでろうし、ここでガッツリと結果を残して、冒険者ギルドのお偉いさんになっていくだろうさ。

「やっちゃっていいぞ。多くの人に恩恵が出ているからな。自信を持て」

「は、はい。皆さんに喜んで貰いたいので、頑張ります!」

「その意気だ。俺も応援しているからな」

「は、はい!」

 アルマは代行とはいえ、組織の長を経験したことで、格段の成長を見せていた。若干、まだ頼りなさはあるものの、それを補う実行力を備えつつあるようだ。

 その様子を見ていたジェイミーがニヤリと笑っていた。

「グレイズの嫁にどうだ? オレはアルマに一点賭けだぞ」

 なに! ジェイミー貴様もか! というか、アルマは別に違うだろう。

「え!? ジェイミーさん! えっ!? えっ!」

「お飾りのギルドマスターが退任すれば、次期ギルドマスター候補だからな。伴侶の男はそれなりの男でしか無理だろう。このブラックミルズなら、グレイズくらいしか皆が納得しないだろうさ」

 ジェイミーが冷やかすようにニヤニヤとした顔でこちらを見ている。

 商店街の連中だけかと思ったが、例の賭け事は下手をすれば、冒険者ギルド、いや冒険者たちまで拡がっているのかも知れない。

 そう思うと、背中から変な汗が流れだし始めた。

「い、いや、そんな。わたしとグレイズさんが……。そんな、そんなのは」

「アルマ、有能。グレイズの嫁になっても不足ない」

「アルマさんも一緒! やったー!」

「そうですね。アルマさんなら、色々とグレイズさんのお手伝い出来そうですしね」

「アルマがギルドマスターに就任すれば、資本提携を強化してお店を手広くできるわ。良物件と思うわよ」

「あうう、あたし大丈夫かな。みんなすごい人だらけだし」

 いや、だから、なんでそんなに俺の嫁候補を増やすのに熱心なんだ。

 俺は人外の力を持ったおっさんの商人に過ぎないんだぞ。

 アルマがアワアワとしている姿を見た冒険者たちが、更に囃し立てていくのが見えた。

「アルマちゃんはグレイズにゾッコンらしいぞ。こりゃあ、若いやつらにグレイズが背後から刺されるな」

「俺のアルマちゃんを返せ!」

「マジかー! グレイズさん、すでに可愛い嫁いっぱいいるじゃないっすかー! モテすぎですよ!」

「アルマちゃん! グレイズさんに振られても大丈夫! 俺たちがいるから!」

 朝の受注ラッシュで混雑していた冒険者ギルドの受付窓口は混乱が拡大して、収拾がつかなくなり始めていた。

「俺は一足先にダンジョンの入り口で待ってるから、ファーマたちに依頼の受注は任せるぞ! じゃあ、先に行く」

 俺は収拾のつかなくなった場から、依頼の受注をメンバーに任せ、自分一人だけ先にダンジョンの入口へ向かうことにした。

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拙作が第11回アルファポリスファンタジー大賞にて優秀賞を受賞しました。これもひとえに読んでい頂いた方の応援によるものだと思います。今後につきましては発表できる段階が来たら随時発表していくつもりです。今後ともおっさん商人をよろしくお願いします。
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