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第二部 第四章 開花
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探索行は順調に地底湖エリアを抜け、次の階層である廃墟エリアに到達していた。
この階層は階層内全てが一つのだだっ広く天井も高い空間に街が作られている。ただ、街はすでにこの階層に住むゴブリンやオークたちによって破壊しつくされ、廃墟と化しており、瓦礫によって道が色々と封鎖され迷宮のように変化している階層なのだ。
「廃墟の影や瓦礫の奥にオークやゴブリンが潜んでいるかも知れないからな。慎重に進んでいこう」
無言でうなずき警戒態勢に入ったハクとファーマが先頭を進んでいく。すでに魔物の気配は多数感じ取れている。この階層はとにかく雑魚敵の数が尋常でなく多く配置される場所なのだ。
「わふぅうう! (敵来ます!)」
ハクの尻尾が立ち、敵が近づいてきたことを知らせる。その様子を見たメンバーたちが、すぐさま戦闘態勢に入っていた。
「敵、三〇体くらいこっちに向かって来てるよ。強い子はいないみたい。もうすぐ、角の通路から飛び出してくるよーー!」
ファーマはすでに気配の強弱で大体の魔物の強さを感じ取れるまでに成長している。俺も気配までは感じ取れるが、敵の強弱となると、そこまでは判別できないでいた。
追放者の早期警戒要員として、ハクとファーマのコンビはすでにブラックミルズ一のコンビになってきているのかもしれない。
「なら、お任せください。事前攻撃に移ります。ファーマちゃんカウントをよろしく」
敵集団が近寄ってきていると聞いたアウリースが範囲魔法である火球の詠唱に入った。
「オッケー。あと、四、三、二、一、今だよー!!」
「いきます!」
ファーマのカウントに合わせ、アウリースの火球が飛び出していき、角の通路からワラワラと現れたゴブリンたちの集団に着弾して奇襲攻撃となっていた。
「タイミングバッチリね。これは私の出番はないかしら」
「ドンピシャ。ゴブリン三〇体が蒸発して消えた。私たちの仕事ない」
戦闘に向かおうと動き出していたメリーや支援魔法を準備していたカーラが、アウリースの攻撃の結果を見て動きを止めていた。
アウリースの放った火球は見事に集団の中央を捉え、ゴブリン三〇体を焼き払い蒸発して消し去っていたのである。
「さすがの威力だな。上級魔法とか覚えたら深層階の魔物も一掃できるんじゃないか?」
「グレイズさんのパーティーに入ってからは、前よりももっと成長が早まっている気がします。深層階の魔物を一掃するには、装備の更新と魔法の充実も必要かと思いますので、しっかり稼いでいきますよ」
アウリースの魔法援護は追放者の重要な火力になっており、彼女の魔法がバージョンアップすれば飛躍的な火力向上にもつながると思われるので、この探索を終えたら装備をワンランク上に更新するか、おばばの魔法書店に行って上級魔法の物色も始めたい。
「アウリースの火力はうちの攻撃力に直結するからな。パーティー資金で装備や魔法を整えようと思う。メリーの店のおかげでかなり資金も溜まってきているしな」
「グレイズさんの言うとおりね。アウリースの攻撃魔法とカーラの精霊魔法は最優先するべきよ。私は予備だから後回しにしてもいいわ。それに装備も中堅冒険者にふさわしい物に変えてもいい時期かもね」
「だけど、お金がかかりますよ。魔法書も安くないし、装備も中堅冒険者クラスになると安くて十数万ウェルとかしますし」
「そう、魔法書高い、装備も高い」
アウリースもカーラもお小遣いを溜めて、魔法書を充実させているため、値段の高さを知っている。だが、それらの魔法書の代金は各人のギルド口座に補填してあり、結構な額が貯まっているため、装備更新代や新魔法書購入資金として不足はしないはずである。
だが、装備や魔法書の更新を言い出したメリーには別の思惑があるようだ。
「装備購入代金のスポンサーを募るのよ。スポンサーになってくれた人には、装備の一部に出資者の屋号を書き込む権利を与えるの。そうやって、店の名前を背負って探索すれば、私たちが有名になるにつれて、店の名前も認知されていくわけよ。私たちは装備を安く買えるし、出資者は店の宣伝にもなる。お互いに利の出る話だと思うのね。一応、すでに商店街のみんなにはこの話打診してあって、数軒から応募があるのよ」
メリーが装備購入代金のスポンサー契約を持ち出してきていた。昔、ブラックミルズの商店街の連中は、贔屓の冒険者たちに屋号を書いた装備などを提供していたことを思い出していた。
各店舗が気に入った冒険者パーティーを支援する話は、俺が丁稚奉公していた時代まで遡ると、よく行われていたことであるが、最近は冒険者との仲が冷え込んでいたため、行われなくなっていたことだ。
メリーが最近になって商店街のメンバーと話し合っていたのはこの事であったのか。商店街の連中もよくオッケーしたな。冒険者たちに投資をするのはコリゴリだと散々言っていたのに。
俺は商店街の連中が冒険者への投資を止めた背景を多少なりとも知っているため、今回のメリーの申し出に驚きを隠せないでいた。
「よく商店街の連中が冒険者である俺たちのスポンサーになるって承諾したな。連中が冒険者からされた仕打ちを考えれば、二度とスポンサー契約はしないと思ったが……」
「ああ、多分、グレイズさんのパーティーじゃなかったら門前払いよ。ここは『商人』グレイズが率いるパーティーだから、商店街の人たちも出資してくれるんだって言ってた」
「俺が率いるから?」
「商売人のグレイズさんなら商売の仁義を通してくれるって言ったわよ。それに、商店街の危機も救ってくれた恩返しもしたいそうよ。グレイズさんは絶対にお金は受け取らなそうだから、無理矢理にでもスポンサー契約したいと申し出ている人たちがいるわけよ」
「そういうことか……。あの時は別に損得じゃなかったんだがな」
長年の付き合いのある商店街の連中とメリーを助けたいと思って、必死に知恵を絞った結果が良い方向に導いてくれただけで、俺のしたことはそれほど大したことでもないのだ。
「まぁ、みんなの好意を無下にするってわけにもいかないし、それに私たちがスポンサー制を復活させれば、駆け出しの子たちも見習って商店街との関係も改善していくかもしれないし、ここは受けるべきよね」
スポンサー制は駆け出しの有望パーティーを資金面で支援して、店の広告塔として商品を他の冒険者に勧めていくという目的で商店街と冒険者の間で結ばれていた契約であった。
冒険者としては駆け出しの辛い時期を資金面で支えてくれた店に感謝し、上級冒険者になってもスポンサー契約を続け店の宣伝を続けて、店の売り上げに貢献していたのだ。
ただ、この十数年の間に流布されたダンジョン攻略法により、冒険者ギルドのランク査定を上げることを至上とした冒険者が増え、スポンサー契約を結んだものの、ランク上昇とともに装備品への店名記載を断り、スポンサー料だけタダどりするという事態が続いたため、商店街側が冒険者へのスポンサー契約を全て打ち切り、断絶が続いていたのだ。
冒険者の方もランク査定さえ上昇してしまえば、稼げるといった間違った風潮が上位冒険者から流布されて幅を利かせいたため、スポンサー制は誰にも活用されなくなっている。
そのため、駆け出しや中堅になり立てのパーティーは資金面で、とてつもない苦労を強いられてパーティーが大半であったのだ。
アルマの行った納品依頼料の増額が無ければ、日の食事にも事欠く駆け出しパーティーが居たのも事実である。
スポンサー制の時代であれば、全パーティーの二割ほどが中堅以上の冒険者に昇格していたが、ダンジョン攻略法の流布以来、中堅以上への昇格実績は右肩下がりを続けているとアルマが嘆いていたのを思い出していた。
「スポンサー制の復活に向けてか……。若い連中はそんな制度があったことも知らないんだろうな。よし、帰ったら契約を結ぶとするか。メリーのことだから準備は整っているんだろ?」
「そうね。準備は万端よ。あとはリーダーとスポンサー契約する子のサインを入れるだけね」
メリーの仕事の早さには毎回脱帽させられる。すでに契約書まで作成し、相手側の了承を得て、あとはサインだけという段階にしてあるようだ。
「分かった。この探索を終えたら契約書読ませてもらって、サインするよ」
「さすが、グレイズさん。判断が早くて助かるわ。じゃあ、依頼達成に向けてバンバン、魔物を狩るとしましょうか」
「「「おー!」」」
メリーの号令によって、第一二階層の探索が再開されていった。
この階層は階層内全てが一つのだだっ広く天井も高い空間に街が作られている。ただ、街はすでにこの階層に住むゴブリンやオークたちによって破壊しつくされ、廃墟と化しており、瓦礫によって道が色々と封鎖され迷宮のように変化している階層なのだ。
「廃墟の影や瓦礫の奥にオークやゴブリンが潜んでいるかも知れないからな。慎重に進んでいこう」
無言でうなずき警戒態勢に入ったハクとファーマが先頭を進んでいく。すでに魔物の気配は多数感じ取れている。この階層はとにかく雑魚敵の数が尋常でなく多く配置される場所なのだ。
「わふぅうう! (敵来ます!)」
ハクの尻尾が立ち、敵が近づいてきたことを知らせる。その様子を見たメンバーたちが、すぐさま戦闘態勢に入っていた。
「敵、三〇体くらいこっちに向かって来てるよ。強い子はいないみたい。もうすぐ、角の通路から飛び出してくるよーー!」
ファーマはすでに気配の強弱で大体の魔物の強さを感じ取れるまでに成長している。俺も気配までは感じ取れるが、敵の強弱となると、そこまでは判別できないでいた。
追放者の早期警戒要員として、ハクとファーマのコンビはすでにブラックミルズ一のコンビになってきているのかもしれない。
「なら、お任せください。事前攻撃に移ります。ファーマちゃんカウントをよろしく」
敵集団が近寄ってきていると聞いたアウリースが範囲魔法である火球の詠唱に入った。
「オッケー。あと、四、三、二、一、今だよー!!」
「いきます!」
ファーマのカウントに合わせ、アウリースの火球が飛び出していき、角の通路からワラワラと現れたゴブリンたちの集団に着弾して奇襲攻撃となっていた。
「タイミングバッチリね。これは私の出番はないかしら」
「ドンピシャ。ゴブリン三〇体が蒸発して消えた。私たちの仕事ない」
戦闘に向かおうと動き出していたメリーや支援魔法を準備していたカーラが、アウリースの攻撃の結果を見て動きを止めていた。
アウリースの放った火球は見事に集団の中央を捉え、ゴブリン三〇体を焼き払い蒸発して消し去っていたのである。
「さすがの威力だな。上級魔法とか覚えたら深層階の魔物も一掃できるんじゃないか?」
「グレイズさんのパーティーに入ってからは、前よりももっと成長が早まっている気がします。深層階の魔物を一掃するには、装備の更新と魔法の充実も必要かと思いますので、しっかり稼いでいきますよ」
アウリースの魔法援護は追放者の重要な火力になっており、彼女の魔法がバージョンアップすれば飛躍的な火力向上にもつながると思われるので、この探索を終えたら装備をワンランク上に更新するか、おばばの魔法書店に行って上級魔法の物色も始めたい。
「アウリースの火力はうちの攻撃力に直結するからな。パーティー資金で装備や魔法を整えようと思う。メリーの店のおかげでかなり資金も溜まってきているしな」
「グレイズさんの言うとおりね。アウリースの攻撃魔法とカーラの精霊魔法は最優先するべきよ。私は予備だから後回しにしてもいいわ。それに装備も中堅冒険者にふさわしい物に変えてもいい時期かもね」
「だけど、お金がかかりますよ。魔法書も安くないし、装備も中堅冒険者クラスになると安くて十数万ウェルとかしますし」
「そう、魔法書高い、装備も高い」
アウリースもカーラもお小遣いを溜めて、魔法書を充実させているため、値段の高さを知っている。だが、それらの魔法書の代金は各人のギルド口座に補填してあり、結構な額が貯まっているため、装備更新代や新魔法書購入資金として不足はしないはずである。
だが、装備や魔法書の更新を言い出したメリーには別の思惑があるようだ。
「装備購入代金のスポンサーを募るのよ。スポンサーになってくれた人には、装備の一部に出資者の屋号を書き込む権利を与えるの。そうやって、店の名前を背負って探索すれば、私たちが有名になるにつれて、店の名前も認知されていくわけよ。私たちは装備を安く買えるし、出資者は店の宣伝にもなる。お互いに利の出る話だと思うのね。一応、すでに商店街のみんなにはこの話打診してあって、数軒から応募があるのよ」
メリーが装備購入代金のスポンサー契約を持ち出してきていた。昔、ブラックミルズの商店街の連中は、贔屓の冒険者たちに屋号を書いた装備などを提供していたことを思い出していた。
各店舗が気に入った冒険者パーティーを支援する話は、俺が丁稚奉公していた時代まで遡ると、よく行われていたことであるが、最近は冒険者との仲が冷え込んでいたため、行われなくなっていたことだ。
メリーが最近になって商店街のメンバーと話し合っていたのはこの事であったのか。商店街の連中もよくオッケーしたな。冒険者たちに投資をするのはコリゴリだと散々言っていたのに。
俺は商店街の連中が冒険者への投資を止めた背景を多少なりとも知っているため、今回のメリーの申し出に驚きを隠せないでいた。
「よく商店街の連中が冒険者である俺たちのスポンサーになるって承諾したな。連中が冒険者からされた仕打ちを考えれば、二度とスポンサー契約はしないと思ったが……」
「ああ、多分、グレイズさんのパーティーじゃなかったら門前払いよ。ここは『商人』グレイズが率いるパーティーだから、商店街の人たちも出資してくれるんだって言ってた」
「俺が率いるから?」
「商売人のグレイズさんなら商売の仁義を通してくれるって言ったわよ。それに、商店街の危機も救ってくれた恩返しもしたいそうよ。グレイズさんは絶対にお金は受け取らなそうだから、無理矢理にでもスポンサー契約したいと申し出ている人たちがいるわけよ」
「そういうことか……。あの時は別に損得じゃなかったんだがな」
長年の付き合いのある商店街の連中とメリーを助けたいと思って、必死に知恵を絞った結果が良い方向に導いてくれただけで、俺のしたことはそれほど大したことでもないのだ。
「まぁ、みんなの好意を無下にするってわけにもいかないし、それに私たちがスポンサー制を復活させれば、駆け出しの子たちも見習って商店街との関係も改善していくかもしれないし、ここは受けるべきよね」
スポンサー制は駆け出しの有望パーティーを資金面で支援して、店の広告塔として商品を他の冒険者に勧めていくという目的で商店街と冒険者の間で結ばれていた契約であった。
冒険者としては駆け出しの辛い時期を資金面で支えてくれた店に感謝し、上級冒険者になってもスポンサー契約を続け店の宣伝を続けて、店の売り上げに貢献していたのだ。
ただ、この十数年の間に流布されたダンジョン攻略法により、冒険者ギルドのランク査定を上げることを至上とした冒険者が増え、スポンサー契約を結んだものの、ランク上昇とともに装備品への店名記載を断り、スポンサー料だけタダどりするという事態が続いたため、商店街側が冒険者へのスポンサー契約を全て打ち切り、断絶が続いていたのだ。
冒険者の方もランク査定さえ上昇してしまえば、稼げるといった間違った風潮が上位冒険者から流布されて幅を利かせいたため、スポンサー制は誰にも活用されなくなっている。
そのため、駆け出しや中堅になり立てのパーティーは資金面で、とてつもない苦労を強いられてパーティーが大半であったのだ。
アルマの行った納品依頼料の増額が無ければ、日の食事にも事欠く駆け出しパーティーが居たのも事実である。
スポンサー制の時代であれば、全パーティーの二割ほどが中堅以上の冒険者に昇格していたが、ダンジョン攻略法の流布以来、中堅以上への昇格実績は右肩下がりを続けているとアルマが嘆いていたのを思い出していた。
「スポンサー制の復活に向けてか……。若い連中はそんな制度があったことも知らないんだろうな。よし、帰ったら契約を結ぶとするか。メリーのことだから準備は整っているんだろ?」
「そうね。準備は万端よ。あとはリーダーとスポンサー契約する子のサインを入れるだけね」
メリーの仕事の早さには毎回脱帽させられる。すでに契約書まで作成し、相手側の了承を得て、あとはサインだけという段階にしてあるようだ。
「分かった。この探索を終えたら契約書読ませてもらって、サインするよ」
「さすが、グレイズさん。判断が早くて助かるわ。じゃあ、依頼達成に向けてバンバン、魔物を狩るとしましょうか」
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メリーの号令によって、第一二階層の探索が再開されていった。
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