おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

文字の大きさ
60 / 232
第二部 第四章 開花

3

しおりを挟む
 探索行は順調に地底湖エリアを抜け、次の階層である廃墟エリアに到達していた。

 この階層は階層内全てが一つのだだっ広く天井も高い空間に街が作られている。ただ、街はすでにこの階層に住むゴブリンやオークたちによって破壊しつくされ、廃墟と化しており、瓦礫によって道が色々と封鎖され迷宮のように変化している階層なのだ。

「廃墟の影や瓦礫の奥にオークやゴブリンが潜んでいるかも知れないからな。慎重に進んでいこう」

 無言でうなずき警戒態勢に入ったハクとファーマが先頭を進んでいく。すでに魔物の気配は多数感じ取れている。この階層はとにかく雑魚敵の数が尋常でなく多く配置される場所なのだ。

「わふぅうう! (敵来ます!)」

 ハクの尻尾が立ち、敵が近づいてきたことを知らせる。その様子を見たメンバーたちが、すぐさま戦闘態勢に入っていた。

「敵、三〇体くらいこっちに向かって来てるよ。強い子はいないみたい。もうすぐ、角の通路から飛び出してくるよーー!」

 ファーマはすでに気配の強弱で大体の魔物の強さを感じ取れるまでに成長している。俺も気配までは感じ取れるが、敵の強弱となると、そこまでは判別できないでいた。

 追放者アウトキャストの早期警戒要員として、ハクとファーマのコンビはすでにブラックミルズ一のコンビになってきているのかもしれない。

「なら、お任せください。事前攻撃に移ります。ファーマちゃんカウントをよろしく」

 敵集団が近寄ってきていると聞いたアウリースが範囲魔法である火球ファイヤーボールの詠唱に入った。

「オッケー。あと、四、三、二、一、今だよー!!」

「いきます!」

 ファーマのカウントに合わせ、アウリースの火球ファイヤーボールが飛び出していき、角の通路からワラワラと現れたゴブリンたちの集団に着弾して奇襲攻撃となっていた。

「タイミングバッチリね。これは私の出番はないかしら」

「ドンピシャ。ゴブリン三〇体が蒸発して消えた。私たちの仕事ない」

 戦闘に向かおうと動き出していたメリーや支援魔法を準備していたカーラが、アウリースの攻撃の結果を見て動きを止めていた。

 アウリースの放った火球ファイヤーボールは見事に集団の中央を捉え、ゴブリン三〇体を焼き払い蒸発して消し去っていたのである。

「さすがの威力だな。上級魔法とか覚えたら深層階の魔物も一掃できるんじゃないか?」

「グレイズさんのパーティーに入ってからは、前よりももっと成長が早まっている気がします。深層階の魔物を一掃するには、装備の更新と魔法の充実も必要かと思いますので、しっかり稼いでいきますよ」

 アウリースの魔法援護は追放者アウトキャストの重要な火力になっており、彼女の魔法がバージョンアップすれば飛躍的な火力向上にもつながると思われるので、この探索を終えたら装備をワンランク上に更新するか、おばばの魔法書店に行って上級魔法の物色も始めたい。

「アウリースの火力はうちの攻撃力に直結するからな。パーティー資金で装備や魔法を整えようと思う。メリーの店のおかげでかなり資金も溜まってきているしな」

「グレイズさんの言うとおりね。アウリースの攻撃魔法とカーラの精霊魔法は最優先するべきよ。私は予備だから後回しにしてもいいわ。それに装備も中堅冒険者にふさわしい物に変えてもいい時期かもね」

「だけど、お金がかかりますよ。魔法書も安くないし、装備も中堅冒険者クラスになると安くて十数万ウェルとかしますし」

「そう、魔法書高い、装備も高い」

 アウリースもカーラもお小遣いを溜めて、魔法書を充実させているため、値段の高さを知っている。だが、それらの魔法書の代金は各人のギルド口座に補填してあり、結構な額が貯まっているため、装備更新代や新魔法書購入資金として不足はしないはずである。

 だが、装備や魔法書の更新を言い出したメリーには別の思惑があるようだ。

「装備購入代金のスポンサーを募るのよ。スポンサーになってくれた人には、装備の一部に出資者の屋号を書き込む権利を与えるの。そうやって、店の名前を背負って探索すれば、私たちが有名になるにつれて、店の名前も認知されていくわけよ。私たちは装備を安く買えるし、出資者は店の宣伝にもなる。お互いに利の出る話だと思うのね。一応、すでに商店街のみんなにはこの話打診してあって、数軒から応募があるのよ」

 メリーが装備購入代金のスポンサー契約を持ち出してきていた。昔、ブラックミルズの商店街の連中は、贔屓の冒険者たちに屋号を書いた装備などを提供していたことを思い出していた。

 各店舗が気に入った冒険者パーティーを支援する話は、俺が丁稚奉公していた時代まで遡ると、よく行われていたことであるが、最近は冒険者との仲が冷え込んでいたため、行われなくなっていたことだ。

 メリーが最近になって商店街のメンバーと話し合っていたのはこの事であったのか。商店街の連中もよくオッケーしたな。冒険者たちに投資をするのはコリゴリだと散々言っていたのに。

 俺は商店街の連中が冒険者への投資を止めた背景を多少なりとも知っているため、今回のメリーの申し出に驚きを隠せないでいた。

「よく商店街の連中が冒険者である俺たちのスポンサーになるって承諾したな。連中が冒険者からされた仕打ちを考えれば、二度とスポンサー契約はしないと思ったが……」

「ああ、多分、グレイズさんのパーティーじゃなかったら門前払いよ。ここは『商人』グレイズが率いるパーティーだから、商店街の人たちも出資してくれるんだって言ってた」

「俺が率いるから?」

「商売人のグレイズさんなら商売の仁義を通してくれるって言ったわよ。それに、商店街の危機も救ってくれた恩返しもしたいそうよ。グレイズさんは絶対にお金は受け取らなそうだから、無理矢理にでもスポンサー契約したいと申し出ている人たちがいるわけよ」

「そういうことか……。あの時は別に損得じゃなかったんだがな」

 長年の付き合いのある商店街の連中とメリーを助けたいと思って、必死に知恵を絞った結果が良い方向に導いてくれただけで、俺のしたことはそれほど大したことでもないのだ。

「まぁ、みんなの好意を無下にするってわけにもいかないし、それに私たちがスポンサー制を復活させれば、駆け出しの子たちも見習って商店街との関係も改善していくかもしれないし、ここは受けるべきよね」

 スポンサー制は駆け出しの有望パーティーを資金面で支援して、店の広告塔として商品を他の冒険者に勧めていくという目的で商店街と冒険者の間で結ばれていた契約であった。

 冒険者としては駆け出しの辛い時期を資金面で支えてくれた店に感謝し、上級冒険者になってもスポンサー契約を続け店の宣伝を続けて、店の売り上げに貢献していたのだ。

 ただ、この十数年の間に流布されたダンジョン攻略法により、冒険者ギルドのランク査定を上げることを至上とした冒険者が増え、スポンサー契約を結んだものの、ランク上昇とともに装備品への店名記載を断り、スポンサー料だけタダどりするという事態が続いたため、商店街側が冒険者へのスポンサー契約を全て打ち切り、断絶が続いていたのだ。

 冒険者の方もランク査定さえ上昇してしまえば、稼げるといった間違った風潮が上位冒険者から流布されて幅を利かせいたため、スポンサー制は誰にも活用されなくなっている。

 そのため、駆け出しや中堅になり立てのパーティーは資金面で、とてつもない苦労を強いられてパーティーが大半であったのだ。

 アルマの行った納品依頼料の増額が無ければ、日の食事にも事欠く駆け出しパーティーが居たのも事実である。

 スポンサー制の時代であれば、全パーティーの二割ほどが中堅以上の冒険者に昇格していたが、ダンジョン攻略法の流布以来、中堅以上への昇格実績は右肩下がりを続けているとアルマが嘆いていたのを思い出していた。

「スポンサー制の復活に向けてか……。若い連中はそんな制度があったことも知らないんだろうな。よし、帰ったら契約を結ぶとするか。メリーのことだから準備は整っているんだろ?」

「そうね。準備は万端よ。あとはリーダーとスポンサー契約する子のサインを入れるだけね」

 メリーの仕事の早さには毎回脱帽させられる。すでに契約書まで作成し、相手側の了承を得て、あとはサインだけという段階にしてあるようだ。

「分かった。この探索を終えたら契約書読ませてもらって、サインするよ」

「さすが、グレイズさん。判断が早くて助かるわ。じゃあ、依頼達成に向けてバンバン、魔物を狩るとしましょうか」

「「「おー!」」」

 メリーの号令によって、第一二階層の探索が再開されていった。
しおりを挟む
感想 1,071

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。