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第二部 第一一章 脱出行
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しおりを挟むヴァンパイアの率いるレッサーヴァンパイアとレイスの大群を迎撃することに成功した俺たちはドロップ品を手早く集めると、上層への階段がある場所へ向かい移動を再開していた。
すでに俺が一刀でヴァンパイアを撃退したことは、冒険者たちの間に広がっており、通り過ぎる度に喝采を浴びて、ひどく恥ずかしい思いをしていた。
目立つのはガラじゃないんだがな……。
人外の力を見せた自分が思っていた反応とは真逆の対応をされ、照れくささと、恥ずかしさが入り混じる。
俺は列の先頭に戻り、ファーマとハクを引き連れ、再び不死王の宮殿の出口を探して探索を再開していた。
「わふぅう! (そうですよー。いやーヴァンパイアを一刀で首飛ばしですか。いいですねぇ。雑魚敵とはいえ深層階の魔物を一撃死させるのなんて、英雄譚を彩りますね)」
うるさいぞ、ハク。ありゃあ、流れだ。流れ。
ハクに先程の戦闘内容を茶化されて照れくさくなり、話を中断するように探索の歩みを早めていく。
「それにしてもグレイズさんは強いなぁ。ファーマももっと強くならないと、グレイズさんに追いつけないよー」
俺の戦闘の様子を聞いたファーマも更に自分を高めようとする意欲に溢れていた。
「ゆっくりでいいよ。ゆっくりでな。慌てる必要はないぞ」
すでにハクとのコンビとはいえ、深層階での戦闘を無難以上にこなしているのだ。実力的にはAランク冒険者だと言える。
「でも、ファーマはグレイズさんの代わりに戦わないといけないから、もっと、もっと強くならないと」
「ファーマは十分に強いぞ」
そんなことを話しながら、通路を進んでいくと、通路の奥が急に開けており、不死王の宮殿の庭園エリアに到達していた。
中央に噴水が設置され、その噴水を取り囲むように手入れされた木々が広大な範囲で配されているのだが、問題はそれらの噴水や木々が全て禍々しい血の色の彩られているのだ。
真紅の庭園とも言われるこの場所は大量の魔物の湧くHOTスポットとして警戒するべき場所だが、ここまでくれば、上の階層に戻るための階段まではあと一息となっている。
「真っ赤で気持ち悪いね」
「一説にはこの庭園で倒された冒険者たちの生き血を啜るって言われてる場所だからな。ここで倒れた冒険者も多いと思うぞ」
ファーマが真っ赤な水を噴き出す噴水や、血のように赤い花々を見て気味悪がっていた。
外に出ると、待ち構えていたかのように冒険者ゾンビ、スケルトンウォーリアー、ワイト、レッサーヴァンパイア、レイス、ヴァンパイアという集団が現れていた。
「いっぱいいる。数は五〇を超えたみたいだよー」
「待ち伏せしてるみたいだな。飛び出せば、一斉に攻撃を受けそうだし、片付けるのに手間取れば他の場所から援軍が駆け付けてきそうだしな」
「わふう! (みんなで駆け抜けた方がいいかもしれませんねぇ。下手に戦うと余計な犠牲が出るかもしれませんし。あたしは戦いたいですけどね)」
ハクが珍しく戦闘をせずに駆け抜けることを提案してきていた。この後も戦闘が続くことを考えれば、強敵が多いこの階層での戦闘はなるべく少なくしておくべきだと思えた。
だが、駆け抜けるにしても一〇〇名近い冒険者たちの集団であるため、結構な時間の間、敵の気を惹き付けなければならない。
俺が一人で出て、敵を奥に引き付けるか……。
どうするべきか考えているうちに、後続を歩いていたメリーたちも追い付いて来ていた。
「グレイズさんが止まっていたみたいだから、偵察がてら来てみたけど……。敵がいるの?」
「ああ、さっきよりも多い数の敵が待ち受けている。今のところはこっちに気付いていないから、駆け抜けるべきか判断してたところだ」
「この先は見通しが良さそうだものね。敵も集団で襲ってきそう」
メリーは敵の気配を感じ取れないようだが、通路の奥に広がる広大な庭園の様子を見て、危険な場所であると判断した様子である。
「だが、敵を全滅させるのも一苦労だ。下手に手間取ると援軍で身動きが取れなくなる可能性がある」
「そうね。それなら一足で駆け抜けていく方が、損害が少ないかも。派手に敵を引き付けて戦い、その間に駆け抜けてもらうのがいいかも」
「さすが、メリーだ。俺と同じ考えか。よし、俺が敵をいっぱい引き付けるから、その間に出口の階段までみんなを連れて行ってくれ。階段は庭園の突き当りを右側に曲がればあるはずだ」
庭園の駆け抜けるのには七〇〇歩程度の距離があるため、一〇〇名近い冒険者が駆け抜けるためには結構な時間、敵を引き付ける必要がある。
「俺が引き付けている間に駆け抜けるように指示を頼むぞ。メリー」
「本気のグレイズさんなら、少なくとも雑魚にやられる心配はなさそうだしね。グレイさんたちを先頭に駆け出しの子たちから先に行かせるわ。カーラ、アウリース、ファーマ、ハクは警戒要員として残しておく。それでいいわね」
「ああ、それでいい。メリーが後ろでみんなをまとめてくれて助かるよ」
メリーが即座に実行案をまとめると、近くの冒険者を後方に向けて送り出して指示を出していく。
俺はメリーに後を任せ、真紅の庭園に陣取る敵に向けて囮役を行うことにした。
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