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第二部 第一二章 発覚
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しおりを挟む「ヴィケットと申す者は、余は知らぬが、アルガドと申すのは豚顔のクレストン家の嫡男だな……。一四年前に余の親類縁者を皆殺しにしたクレストン家が、また余の最後の縁者である姉を殺そうとしたとはな……。運命とは皮肉なものだ。カーラさん、すまないけれどこの男を回復させてやってくれ」
ジェネシスがカーラを呼んで、尋問した男の毒を回復するように頼んでいた。
俺たちを殺そうとした者の名は知ることができたが、未だにジェネシスの身分が判明していないのが気になってしょうがない。
ただの駆け出しの冒険者ではないことは理解しているが、かといって何者かと問われると返答に窮してしまう。
だが、うちには好奇心旺盛な者がいるのを思い出していた。
「ジェネシス、何者? 駆け出し冒険者違う。正体現せ。メラニアの弟ならばヴィーハイブ家の者か?」
毒を受けた男を治療しながらカーラは、話を聞いていて疑問に思ったことをジェネシスにぶつけていた。
「わたくしの弟ですか……。ですが、わたくしはヴィーハイブ家の一人娘ですので弟はいないのですが……」
メラニアも自分は一人娘であると言い、弟の存在を否定していた。
「これはすまぬ。余としたことが先走ったようだ。まずは余の正体について皆に謝罪をさせてもらいたい。余はファルブラヴ王国第二三代目の王であるジェネシス・ファルブラウと申す。つまり、この国の王様をさせてもらっておる者だ」
「お、王様!!! ジェネシス、お前吹いていいホラと、吹いたらマズいホラがあるぞっ! よりにもよって王様の名を騙るとは」
俺はジェネシスが王だと告白したことに驚いていた。この国における最高権力者である王が俺の目の前にいる青年だとは全くもって信じられない。
「グレイズさん、余は名を騙っておらぬ。王の証たる神より授けられし短剣はここにあるぞ。グレイズさんには特別に鑑定してもらっても良い。これで余の真贋も判別するであろうからな」
ジェネシスが鎧の奥から取り出した短剣は黄金色の光を発していた。
古来よりこの地に国を建てた初代王がダンジョン主を討伐する際、神より授けられたという伝承がある国宝の短剣と似た形状である。
失礼かと思ったがジェネシスが王の名を騙る偽物ではないかとの疑念を払拭するため、鑑定スキルを発動させていた。
結果は『神器:英雄の短剣』という物が表示されている。
『あー、そういえばそんな神器もありましたねー。この国の初代王は数少ない昇神した神様でしたのを思い出しました。すでに神器の意識体と一緒に神様に名を連ねていますね。どこか、しんどい世界を任されていると思いますが。あっと、これは機密事項でした。なので、この神器は持ち主が昇神したあとの残滓だと思われますが』
鑑定結果を見ていたハクが、サラリととんでもない発言をぶち込んでくる。
ジェネシスが持つ短剣が神となった男の持ち物で、その男はこの国を作り上げた男であることを証明していたのだ。
「マジもんの王様か……」
俺の鑑定結果を聞いて、周囲にいた冒険者たちが即座に地面に頭を擦りつけて平伏していた。
「皆の者、そうかしこまらなくても良い。今は王座を投げ捨て出奔した一介の駆け出し冒険者にすぎぬからな。面を上げよ」
ただ一人だけファーマが平伏せずに首を傾げて周りを見ていた。
「ジェネシス君は王様なんだーすごいねー。って、王様って何ー?」
ファーマの疑問にカーラが素早く答える。
「この国で一番偉い人。ジェネシスが追放って言ったら、私たちこの国に住めなくなる。それくらい偉い人」
「ハッ! ジェネシス君、そんなに偉い人なの!? ファーマ、追放されちゃうの? 嫌だよ。ファーマはみんなと一緒に暮らしたいのー」
ジェネシスの権力の強さを理解したファーマが半泣きでカーラに縋っていた。
さすがに俺も国と喧嘩するのには躊躇があるが、仲間を傷つけるならば、引く気はないつもりだ。
「ファーマ、大丈夫だ。余は共に戦った仲間を『追放』するなどということは言わぬ。命も助けてもらったしな。そなたらには感謝しかないから安心せよ。ファーマだけでなくここにいる者全てに感謝しておる」
平伏していた冒険者たちから安堵の声が漏れだしていく。
「ジェネシスがこの国の王だということは理解した。だが、メラニアの弟だというのはどういう意味だ? 王家はヴィーハイブ家とは血が繋がっていないと思うが」
「グレイズさんの疑問はもっともだ。余も最近まで姉の存在がいるとは知らなかったからな。余が王に就く前に起きた王位を争う宮廷内の醜い話を暴露することになるのだが、ここにいる者たちであれば、余は喋ってもよいと思っておる。逆に知って欲しいのだ」
現王であるジェネシスが王位に就く際、色々と宮廷で起きたことは噂では知っているが、遠い宮殿の中で起きたことで詳しくは知らない。
所詮、遠い王都の雲の上の存在の人たちのことであり、田舎に住む俺たちには縁遠い話である。
「ド平民の俺たちが知っていい話かは分からないが、ジェネシスがメラニアの弟だという事実を確認するためには、聞かないと判断はできないと思う」
「うむ、グレイズさんならそう言ってくれると思った。ならばまずは余のことを喋らねばならぬな。余は王位に就く際、起きた政争により親類縁者と言える者がクレストン公爵家の陰謀により暗殺者によって全て死に絶えたと言われていた。その凄惨な政争が起きたのは余がまだ産着を着て泣いていた時だ。父母を失い兄妹も親族もない余は近頃雇い入れた者によって姉の存在を告げられたのだ。その者は余の母の従僕をしていた男であることは確認しておる。その男が言うに余が生まれる前から宰相派とクレストン公爵家の政争の気配が濃厚だったため、母が王位継承権のある長女メラニアの出産を秘し、実家との付き合いがあったヴィーハイブ家の前当主に匿うように依頼したと申していたのだ」
「政争による暗殺の危機を避けるため、ジェネシスの親はメラニアが産まれたことを誰にも内緒にして、ヴィーハイブ家の養女としたのか?」
「わたくしは確かにヴィーハイブ家の養女ですが、父からは祖父が下級貴族の家からもらい受けた子だと聞いております。わたくしが王家の血を継ぐ者とは……信じられませぬ」
メラニアがジェネシスの言葉が信じられないと言いたげに首を振っていた。
改めて二人が並んでいるのを見ると、同じリトルヒューマン種とはいえ雰囲気や容姿が似ているとは思える。
「ならば、証拠を見せるとしよう。メラニアが持つ指輪は余のこの指輪と重なるペアリングになっておると聞いておる。我が母はメラニアの存在を余に伝えるため残したともその従僕の男は言っておった。余はただの形見の指輪かと思っていたが、王座を出奔しメラニアの行方を捜してブラックミルズに来て一目見た時に直感した。メラニアこそ『余の姉』であるとな」
ジェネシスは自らが首からかけていた細かい紋様の入った指輪を取り出すとメラニアに見せていた。
「父からは亡くなる前の祖父がメラニアの生母の形見だと言ってくれた指輪だと聞いておりましたが……」
メラニアは自らの指にはめた指輪をジェネシスの前に差し出す。
その様子を周囲にいた者は固唾を呑んで見守っていた。
メラニアから指輪を受け取ったジェネシスが二つの指輪を重ね合わせていく。
二つの指輪はピッタリと合い、それぞれ独立した紋様は重なり合うと、家紋のように変化していた。
「我が母の実家ケストレルの家紋である。これで、メラニアが余の姉であると証明された。姉上、お会いしとうございました」
ジェネシスはメラニアに頭を垂れて挨拶を行う。
その様子を見ていた周囲の者が一斉にメラニアに頭を下げていた。
「メラニアさん、凄い人?」
「王様のお姉さんだった。メラニア、凄い人。でも、私たち仲間」
「王様のお姉さんだったとは……。メラニアさん、凄いですね。私はもっと頑張らないと」
「あわわ、あたしどうしよう。気軽に話しちゃったけど……怒られないかな」
「まぁ、グレイズさんを好きな子に悪い子はいないから、王様のお姉さんでもドンと来いよ」
メラニアが王様の血族であると判明しても仲間たちは余り驚いていなかった。
いや、セーラだけ慌ててはいるが。
だが、妙な連帯感でみんなメラニアと繋がっているようだ。
俺としてはメラニアの血筋が高貴すぎて立ち眩みがしそうだが、一度、守ると口にしたからには彼女のことは面倒を見る気ではいた。
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