おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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第二部 第一四章 真実

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「あ、はい。その前に俺たちが、このダンジョンでしていたことを伝えさせてください。お願いします」

 冒険者の男が土下座をして、自分たちがダンジョンでしていたことを言わせて欲しいと申し出てきた。

 彼らはかなりのベテラン冒険者で、冒険者としてもSランクという最高栄誉を受けている者たちであるのだ。

 そんな彼らがしていたことと言えば、魔物討伐だと思われるが……。違うのだろうか……?

 俺は不思議に思って、冒険者の男に話しかける。

「何をしてったって? 俺たちを殺そうとしていたんだろ」

「いえ、それはオマケの依頼でして。本当は闇市に流すためのレアなドロップ品や魔物を捕獲していたんです。だから、ブラックミルズの冒険者ギルドを通さずにダンジョンに潜っていまして……。フラマー商会のヴィケットが仕切る闇市に流していました。すみません。金に目がくらみました」

 冒険者の男が話したのは、現時点のブラックミルズには無いはずの『闇市』の存在があることを示唆したものであった。

 ムエルが仕切っていた闇市は、ジェイミーとその後、新たに就任ギルドマスターのアルガドが闇市の関係者を徹底的に取り締まり壊滅させていたからだ。

 ヴィケットの名を聞いて、まさかとは思っていたが、ブラックミルズにまた闇市ができていたとは……。

「闇市だって? だが、組織は壊滅しているはずだし、やっていると聞いたこともない」

「当たり前です。ヴィケットの奴はブラックミルズの関係者を全て切って、外部の人間を集め、衛兵隊の宿舎で闇市を開催しているので、住民たちが気付くわけもない。それに人の売り買いも切りましたしね。俺たちも衛兵隊の宿舎を根城にして、一切街には出かけるなと酒も女も外から調達してましたから」

 冒険者の男が、自分たちが関与していた闇市の実態を包み隠さずに喋っていた。

 なんと、壊滅したと思われた闇市は、ブラックミルズの関係者の関与を完全にシャットアウトして、外部の人間で全て固め運営されているらしい。

 しかも、街の治安を守るという名目で冒険者ギルドの職員から、治安維持の業務を引き継いだ衛兵隊の宿舎を根城に商売を開催しているとも言っている。

 アルガド肝いりの衛兵隊と、闇市の主催者ヴィケットが繋がっているということが判明した。

「違法な物を売る闇市を取り締まる側の衛兵隊の宿所で売り捌いているということか……。それじゃあ、やたらと衛兵隊の宿舎に商人たちが出入りしていたのは、補給物資を持ち込んでいたわけじゃなくて、違法品の売買をしていたってことかよ……」

 俺は冒険者の男の告白で、ブラックミルズの裏側深くで闇市が復活し拡大しているのを知ってしまった。

 高額なレアアイテムが売られるだけなら、眼を瞑ることもできるが、魔物入りの封印の壺や、違法なポーション、市場に流せないような危ないドロップ装備なども売られている闇市のため見過ごすことはできない。

「はい。なんでも、冒険者ギルドとは話がついているからと、ヴィケットも申しておりました。売り上げの大半を上納する代わりに保護をしてもらっているとか申しておりました。俺たちは売り物用のドロップ装備やドロップ品を深層階から集めるために多額の謝礼金で外から集められた冒険者です」

「あの豚貴族は違法な市を後援しておるということか……。これは由々しき事態だな。姉上の命を狙っただけでなく、違法で危険な物を王国内に売り捌いていたとなると、いかにクレストン家の嫡男とはいえ許せる範囲を逸脱しておる」

 男の話を聞いていたジェネシスが、ギュッと拳を握って怒りの表情を浮かべているのが見える。

 出奔してきたとはいえ、王であることには変わりなく、自国民を危機に晒そうとしているアルガドに対して怒りを覚えたようだ。

 一方、俺もアルガドに抱いていたイメージを一変させた。

 ブラックミルズの治安を回復させた、できるギルドマスターというイメージから、悪党の親玉というイメージに変わっている。

「アルガドがあくどい商売をヴィケットを通じてやらせているということか……。だが、メラニアの件とはどう絡んでくるんだ?」

「恐れながら、そちらは我らが王都でヴィケットから請け負いました。アルガドは寵愛するマリアンを正妻するべく、メラニア様の追放を企んでおり、見事不貞の罪を着せて行方不明なったメラニア様を確実に殺して、完全に婚約をなかったことにしたかったようです。ヴィケットに我らを雇わせてグレイズ殿ともども皆殺しの命令をくだされております」

 俺の疑問に答えるように暗殺者の男が、メラニアを含めたこの一行を狙った理由を告白していく。

 男の話を聞くとメラニアの件は全くのアルガドの私事から派生した事柄であるようだ。

 貴族とはいえ、自らの欲望を優先して家同士の約束事で送り込まれたか弱い女性をいびり倒し、あまつさえ不貞の罪を押し付けて婚約破棄を突きつけ、逃げ出したと思えば暗殺者を送り込むという腐った性根を見せつけられて、強く握った拳で自分の膝を叩く。

「アルガドがそこまで性根の腐った男だったとはな……。俺の眼は節穴だ。少しでもそんな奴をいいギルドマスターだと思うとは……」

「グレイズさん、そんな落ち込まないでくれ。相手が巧妙にやったというだけだ。だが、悪事の尻尾を掴んだからにはキッチリと刑に服してもらうべきだな。で、どうする?」

 ジェネシスも実の姉を殺そうとしたアルガドを許す気はないらしく、俺と同じように拳を固めて怒りを溜め込んでいた。

「ああ、だが相手は大貴族の嫡男だ。こっちがキチンと奴の悪事の証拠を示さないと部下に押し付けて言い逃れされてしまうかもしれん」

「さすがに余も王とはいえアルガドが指示して関与した証拠がキッチリと揃わねばクレストン家の嫡男を弾劾することは難しいが……」

 捕えた男たちの雇い主はヴィケットとなっており、彼らを証拠としてもアルガドが、ヴィケットとの繋がりを否認すればそれ以上の追求はできなくなってしまう。

 なので、ヴィケットを生きたまま捕えてアルガドとの繋がりを吐いてもらわねばならなかった。

 だが、俺とメラニアが生きて帰れば、ヴィケットやアルガドが警戒して色々と隠蔽工作を始めかねないので、俺は一計を案じることにした。

「ジェネシス、それとお前らもちょっと手助けしてくれるか? 今の話を聞いて少しばかり、策を講じたい」

「余にできることなら手伝うが……。こやつらも使うのか? 敵に通じておるぞ」

 ジェネシスが冒険者の男と暗殺者の男を見て怪訝そうな顔をしている。

 敵が送り込んだ相手を使うとなると、裏切りのリスクが発生すると言いたいのだろう。

「いえ、グレイズ殿にはもう絶対に逆らいません。もらった命返せと言われれば返します」

「なんなりと申しつけください。一度は死んでいる身です」

 男たちはノーライフキングに一度奪われた命を復活させた俺に対して、畏敬を抱いているようで反抗心を見せる様子はなかった。

「おお、すまんな。なに命を取る気はない。逆に俺の命を取ったとヴィケットに報告して欲しいんだ。いや、正確にはメラニアと俺のパーティーは、ノーライフキングによって倒されたと言って欲しい。そして、冒険者たちも一緒に魂を喰われて死んだとな。俺たちの装備とともにノーライフキングの配下のドロップ品も一緒に付けてやるから、深層階の第二二階層まで飛ばされていて、そこで全滅していたと伝えればヴィケットも納得するだろうさ。なんせ、報告してきたのがSランク冒険者と腕利きの暗殺者だからな」

「グレイズさんたちと余たち全員を死んだことか……。だが、それじゃあ情報収集しようにも無理があるのでは?」

「衛兵隊の閉鎖さえ解いて貰えば、闇に紛れて脱出できるさ。大所帯だが、郊外にある神殿になら身を隠す場所もある。神殿長には俺から頼むしな。あそこはブラックミルズの住民か冒険者くらいしかこないし、大人数が居ても不思議がられない場所だしな。それに冒険者ギルドも領主でも神殿内までは自由に捜索できない場所だぜ」

「……そうか、神域不介入の法があったな……。余でも神殿内は神殿長の許可がない限り、捜索はできぬからな。なるほど、その手ならアルガドたちに気付かれぬだろうな」

 ジェネシスは顎に手をやりながら考えこんでいる。

「グレイズ殿が言われる通りに私たちはヴィケットに遺品ともいうべき、皆様を装備を届ければ良いのであれば、必ずや成し遂げます。衛兵隊の引き上げも我らにお任せを」

 冒険者の男や暗殺者の男たちは俺の提案を了承し、衛兵隊による封鎖解除も請け負ってくれることを確約してくれていた。
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