おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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アルガド視点

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 ※アルガド視点

 この一〇日間、夜を迎える度にグレイズとその仲間がわたしの寝室に現れ、暴れ回り眠るのを妨げてくる。毎夜、毎夜だ。

 おかげで、一睡もできずうつら、うつらとしながらもゴースト退治を依頼するため冒険者ギルドに毎日顔を出しては、職員に早急に討伐するように指示をだすが、依頼を受けた冒険者が姿を消したかと思うと、翌日の夜にはゴーストとして街をさまよっているとの報告を受け戦慄を覚えた。

 わたしが殺すように指示したグレイズとメラニアを含めた一〇〇名以上の者がゴーストとしてダンジョンから這い出し、ブラックミルズの夜の街を牛耳っているのが現状であるのだ。

 初日に最愛のマリアンを含むメイドたちがグレイズたちによって呪い殺され、死体ごと消え、大いにショックを受けた。

 だが、それ以上にショックだったのは長年仕えたヴィケットまでもが、グレイズに呪い殺されてしまったことであった。

 わたしの考えを忠実に忖度し、実行してくれたヴィケットがいなくなり、闇市は取引停止に陥っている。

 身を守るために自分自身は闇市に関与せずとの方針を貫いたため、ヴィケットの死とともに闇市は何も富を生み出さなくなった。

 睡眠不足と近くに仕えていた者の死によって、わたしの頭は混乱して情報が上手く整理できずにいる。

 そんな風にグレイズのゴーストたちに怯えて、ギルドマスターの執務室で震えていたら、急にドアが勢いよく開かれて心臓が止まりかけた。

「ひぃいいいいいっ!! ば、馬鹿者っ!!! キチンと優しくノックしてから入室せよと申し伝えてあっただろうがっ!!! わたしを殺す気かっ!!」

 衛兵隊から選抜した警護の者は連れてきているが、彼らはグレイズのゴーストに関して全くの無能さを露呈しているため、わたしは苛立ちを募らせていた。

「は、はいっ! すみません……。ですが、緊急事態です。冒険者ギルドの職員がギルドマスターを連れてこいと暴動寸前でして……私たちだけでは押さえられません。お出まし願えないでしょうか」

 護衛を務める衛兵が困り顔でわたしを見ていた。

「なぜ、職員たちがわたしを呼ぶのだ?」

「理由は言いません。ギルドマスターを呼べの一点張りでして……。こちらも今、アルガド様は忙しいと言い返してなだめましたが、強硬な姿勢は変化しませんでした」

「ちっ! 無能どもめが……調子に乗りおって……。グレイズのゴーストすら討伐できぬ癖にいきがりおって。この問題が片付いたら薄給で扱き使ってやるわ」

「アルガド様、階下にお出まし頂けますでしょうか?」

「分かった。すぐ行くから待てと伝えろ」

 護衛の衛兵が階下に集まるギルド職員もとへ走り去っていく。

 わたしは睡眠不足からくる立ち眩みと吐き気、めまいをグッと我慢して、着崩していた冒険者ギルドの制服を着用し直すとフラフラとした足取りで階下に下りていった。

 
 階下のギルド職員室では、すべてのギルド職員が集合しており、人でごった返していた。

 すでに時刻は夕刻近くで一日の業務はもうすぐ終わりを告げる時刻ではあるが、集まっているギルド職員たちとは反対に、冒険者たちはゴースト討伐に夜の街の探索に投入しており、いつもは探索終りで賑わうギルドの喫茶スペースは閑散としている。

 そんな様子の一階を見回していると、ギルド職員でも年嵩のベテラン職員が代表してわたしの前に出てきていた。

「それで、わたしに用とはなんだ。忙しいのだ、手短に申せ」

 体調不良と心身の不調で立っているのすらも辛いが、大事な用があるとギルド職員たちが呼んでいるとのことで無理をしてこの場所まできていた。

「では、できるだけ手短にお伝え申し上げます」

「うむ、そうしてくれると助かる」

「はい。では、お伝え申し上げます。本日付でここにいる冒険者ギルド職員一同、一人残らず退職させてもらうことをギルドマスターのアルガド・クレストン様へご報告申し上げます。なお、現ギルドマスターからの慰留等には応じないことは全職員が同意しておりますので、明日からの業務はアルガド様がお一人で行って下さい。本日までの私たちの給料等は後日書類で送付しますので、指定の口座に振り込みをお願いいたします。入金がない場合は冒険者ギルド本部に裁定を持ち込みますのでご対応のほどよろしくお願いします。では、本日までお世話になりました失礼いたします」

 年嵩の男が言ったことを理解するのに、睡眠不足で動きが鈍っていた頭はかなりの時間を要した。

「え? え? ちょっと待て! 意味が……。おい、待て。待ちたまえ」

 わたしの引き留める声を無視するように業務終了の時刻を越えたことを確認したギルド職員が、一人また一人とギルドを後にしていて帰っていく。

「おっと、忘れていました。これは人数分の『退職届け』です。ご査収くださいませ。老婆心ながら申し上げますと、数日以内に職員を補充して業務を再開しないと冒険者ギルドの支部免許は失効されますので、お早めに募集をかけた方がよろしいかと」

 年嵩の男が呆けて立ち尽くしているわたしに『退職届け』の束を手渡すと、忠告をしてくれていた。

 だが、今起きていることを正確に理解ができずにいるため、彼の助言は耳を通り過ぎていくだけである。

「おいっ! 戻れ! 戻らぬか!! お前らみたいな無能がこの仕事をやめて喰っていけると思うのか!! おいっ!! 戻れと申しておる!! もどれぇえええええええ!!!」

 動きが鈍っている脳味噌がやっと明日からの現状を認識したため、わたしは職員たちを引き留めるための大声をあげていた。

 だが、職員は誰一人としてこちらを振り返る者はなく、足早にギルド内から姿を消していった。

 そして、最後の一人が立ち去ると、閑散としたギルドには護衛として連れてきた衛兵とわたししかいなくなっている。

「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!! ふざけるなぁあっ!!! なんで、わたしがこんな目に合わねばならぬのだぁあああ!!! ちくしょうぅううううううううう!!! ふざけるなぁああ!! クソがぁああああ!!!」

 手渡された『退職届け』の束を怒りに任せて床に投げ捨てる。

 しかし、虚しさだけがわたしの心に響いただけであった。膨大な業務量を自分一人で維持することなど不可能であり、衛兵隊に手伝わせたとしても業務が滞るのは目に見えているからだ。

 マリアンを失い、ヴィケットを失い、闇市を失い、そして今日、ギルドマスターとしての地位もお飾りになった。

 グレイズ亡き後、描いていた優雅な生活はこの一〇日間で音を立てて崩れ去っていったのだ。

 虚しさと徒労感でガックリと床に崩れ落ちてく。

 わたしの……わたしの夢が……終わる……終わってしまう……。

 夢の終わりを自覚すると、それまで我慢していためまいや吐き気が強くなり、そのまま仰向けに倒れこんでしまっていた。

「アルガド様っ! お気を確かに! おいっ! アルガド様が倒れたぞ! 担架と回復術士連れてこいっ!」

 護衛についていた衛兵が焦っている声がどこか遠くに聞こえると、わたしの意識はそこで途切れていた。
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