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第二部 第一七章 弾劾裁判
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しおりを挟む「わたしは無罪であると主張されてもらう。これは、アクセルリオン神に誓ってもいい。この二つの犯罪を主導したわたしではない」
アルガドは犯罪の証拠を突き付けられても、居直り無実を主張していた。
関係者の自白と、物的証拠が揃っても自分の主導と認めない、その性根の腐った根性に対し怒りが湧き上がってくる。
俺と同質の怒りは神殿に詰めかけていた冒険者や住民たちからも感じ取れていた。
「息子の言う通りだ。これは、我がクレストン家を陥れるために仕組まれたことであり、ブラックミルズを領する者としては、住民の叛乱と判断し治安維持のために軍を派遣せねばなるまい。そうなった時はグレイズと申す、お前の命があると思うなよ」
デルガドが息子の犯罪を糊塗しようと、ブラックミルズに対して自らの私兵を派遣し、鎮圧をチラつかせて脅してきていた。
『叛乱』と断定したデルガドの発言に、ざわめきが広がっていく。
領主であるデルガドが討伐軍を派遣するとなれば、街は戦火に晒される可能性がある。
「デルガド殿。悪いが、これは領地内の問題では済まない事態に陥っている。闇市開催や冒険者ギルドを使った脱税は国権を犯しており、それらを隠蔽するための出兵を宰相として認めるわけにはいかない」
「サイアスっ! 出しゃばるなっ! 成り上がりの貴族が我が家の方針に口を出すことができると思うなよっ!」
いがみ合う二人はどうにか相手の弱点を突いて、やり込めようと狙っているようで、現在の形成はサイアス宰相にかなり傾いていた。
そうした二人の対立が、王であるジェネシスの家族を奪ったのであり、今回は最後の血縁である姉を殺しかけていたのだ。
国の主導権争いをする二人に対し、アルガドの行った最後の犯罪を宣告することにした。
「静粛に! これより、アルガド・クレストンが行った王族殺害未遂についての罪状の宣告する」
王族殺しと聞いて、サイアスの顔色が変化していた。
彼としては、デルガドとアルガドを最後の最後で追い落とすための切り札として持っていたかったカードであると思われた。
すでにマリアンからは、サイアス宰相がメラニアの血筋について気付いており、今回のアルガドの婚約への仲介を取り持っていたのだ。
その上で、マリアンを使いアルガドを唆して本来王族であるメラニアを殺害させようとしていた。
「王族だと!? わたしはそのような者を殺害しようとした覚えはないぞっ! 言いがかりだっ! ふざけるなっ!」
「アルガド殿は身に覚えがなさそうなので、言い換えましょう。ヴィーハイブ家令嬢であるメラニア・ヴィーハイブ殺害未遂と言えばご納得して頂けるかと」
俺はメラニアが王族と知らなかったアルガドに分かるように名前を提示してやった。
メラニアの名を聞いたアルガドの顔が青く染まっていく。
彼の認識としてはメラニアは没落貴族の令嬢でしかなかったからだ。
「い、言っていることが理解できかねる。メラニアはヴィーハイブ家の令嬢であり、王族などではないはずだっ!」
「その件は余からアルガドに聞かせてやろうっ!」
神殿の奥に控えていたジェネシスが、アルガドの様子を見て裁判の場に出てきていた。
「冒険者風情がわたしを呼び捨てにするとは! 不遜であるぞ!」
外套のフードを目深に被り冒険者のいで立ちをした小柄なリトルヒューマンの青年を見たアルガドが訝し気な顔をすると、ジェネシスに対して素性を尋ねる。
「余の顔を見忘れたかっ! アルガド・クレストン子爵!!」
目深に被っていた外套を脱ぎ去ると、ジェネシスはアルガドに顔をよく見えるように晒していた。
「…………げぇっ!! へ、陛下っ!?」
「ジェネシス陛下! なにゆえ冒険者の格好をされておられるのですか!?」
「陛下、ブラックミルズにおられると使者殿よりは聞いていたが、冒険者をされていたのか」
サイアスもデルガドもアルガドも、冒険者のいで立ちをしていたジェネシスの姿を見て驚いていた。
そして、神殿に詰め掛けていた住民や冒険者たちも、俺の隣に立つリトルヒューマンの青年がこの国の最高権力者である国王であると知り、一斉に視線を地面に落としていた。
「皆の者、面を上げよ」
視線を落とし、頭を垂れていた者たちが次々に頭をあげていた。
この瞬間、ただの一介の冒険者であるジェネシスから、ファルブラウ王国を束ねる最高権力者であるジェネシス・ファルブラウになっていた。
「こたびは我が実姉であるメラニア・ファルブラウをここにいるアルガド・クレストンが不貞を働いた女として婚約破棄を突き付け、ダンジョンに追いやり、更には暗殺者ギルドから雇った暗殺者まで派遣して殺そうとした件の証人を余が務めることとした」
「メ、メラニア・ファルブラウ!? 陛下、お言葉ですがメラニア嬢はヴィーハイブ家の令嬢であるはず……。少なくとも、そう窺っていたので、アルガドとの婚約を受け入れたのですが……」
デルガドは息子の婚約者が王の実姉であると知らないため、血相を変えてメラニアの素性を確認していた。
「サイアス宰相は知っておるはずだのう。余の母が姉上を政争の中心地であった王城から遠ざけるためにヴィーハイブ家の先代当主に預けたことを」
ジェネシスが、自らの保護者であったサイアスに詰問するような視線を送っていた。
「……私も初耳でございますなぁ……。陛下のご親族は先代王の時にすべて亡くなられていたはず」
サイアスはジェネシスの追及の視線をかわすように視線を逸らしていた。
内にやましい気持ちを秘めているのが透けて見える。
「まぁ、よい。ともかく、メラニア・ヴィーハイブが持つ指輪は、余が母の形見として持つ指輪と対になっておる。これは、余とメラニアが姉弟であるという揺らがぬ証拠である」
ジェネシスに手招きされたメラニアが前に出ると、変身の腕輪で誤魔化していた容姿を解き、例の指輪を差し出していた。
二つの指輪はピッタリと合い、ジェネシスとメラニアの母である実家の紋章を完成させていたのだ。
「そ、そんな。馬鹿な……。メラニアが王族だと……。馬鹿な……」
ピッタリと合わさった指輪の紋章は、継ぐべき者が途絶えたファルブラウ王国でも古くからある有名な貴族家のものであった。
その紋章を確認したアルガドがワナワナと身体を震わせて、全身から滝のような汗を流している。
「その紋章……。まさか、あの家の者が陛下以外に残っていたとは……。先の政争ですべて根絶やしにしたはず……」
デルガドは自らが推した王族と敵対した、ジェネシスの父母の係累に関わるその貴族家の紋章を見て吐き捨てるように呟いていた。
一方、サイアスはマリアンからの連絡が途絶えていたため、メラニアが生きていたという事実を把握していなかっため、焦った表情をしている。
「よって、メラニアは余の実姉であるのだ。つまりは王族である。その王族たるメラニアを不貞の女として追い込んだアルガドの所業、余としては許すことはできぬ」
「陛下、陛下は国を束ねる者であります。私怨にて裁定すれば、他の者の不審を招きますゆえ、ここはわたくしとグレイズ様にお任せくださいませ」
ジェネシスが即刻、アルガドを斬首に処すとすれば、彼の首と胴体は切り離されるが、それを行えばジェネシスの王としての資質を疑問視する者が出てくる可能性がある。
なので、国法にしたがい粛々と裁判の場で処罰を下すべきであった。
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