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日常編
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しおりを挟む酒宴は大盛況のうちに終りを告げ、酒を飲み過ぎた者が酒場の床に倒れ、食い物や酒が床に散乱している。
そんな足の踏み場もなくなった中を歩いて、俺はカウンター席の方へと戻ってきていた。
「お疲れ様でした。みなさん楽しんでおられたようで、私も嬉しくなりましたよ。みんな無事に戻ってこられてよかった」
たらふく酒を飲んで、足元がおぼつかないままカウンター席に座った俺に冷たく冷えた水を差しだしてくれたのはアウリースだった。
「おお、すまねぇな。つい、みんなとだと飲み過ぎちまう。ふぅ、ありがとう。少し、酔いが覚めたようだ」
「それにしてもみなさんは、本当にグレイズさんのことが好きなんですね。奢りとはいえこれだけの人が集まる人なんて滅多にいないですし」
酒場には元々呼んでいた冒険者たち一〇〇人以外に商店街の連中、冒険者ギルドの職員、ヨシュアたちモーラッド一族の暗殺者や、Sランク冒険者などの様々な者たちがいつの間に参加していたのだ。
「みんな、タダ酒をたかりに来ただけで、俺に会いに来たわけじゃないさ」
「そんなことありませんよ。グレイズさんは不思議な魅力がある人ですから、みんなが好きになるんですよ。それこそ、男女問わずにです」
アウリースは俺の隣の席に腰を下ろすと、同じように酔いを覚ますように水を飲んでいた。
お酒はあまり強い方ではないようで、少しだけ飲んだ後は、先ほどまで酒場の床や調理場を一人で粛々と片付けていたのをチラリと見かけていたのだ。
そういった人目に付かない仕事を率先して片付けるのが、アウリースである。
目立つ容姿とは裏腹に、細かい気配りを行える女性であり、商店街の仕事で忙しいメリーや、家事や掃除が若干苦手なファーマ、カーラたちもアウリースには色々とお世話になっているらしい。
そして、王女でもあるメラニアも彼女に色々と教えてもらっているようであった。
「そうなのか? 俺がそんなに好かれているとは思えないが。ほら、例の力もあるし。それよりも、アウリースは色々と気が付いてくれて助かるよ。今も片づけをしてくれていたんだろう?」
「え? ええ、そうですね。私はお酒弱いですし、酔った方の介抱とか、お借りした酒場の後片付けをと思いまして……」
「そういうことが自然とできるアウリースの方が、俺なんかよりもよっぽどみんなに好かれていると思うぞ」
俺の言葉を聞いたアウリースが照れたように顔を赤くしていた。
女性としての魅力に溢れた彼女が照れたように笑うと、男性としてはいささか面痒い。
「グ、グレイズさんもです?」
「ああ、き、嫌いではないぞ」
俺の名を出して聞き返されるとは思ってなかったので、思わず返答がどもってしまった。
焦ったことが俺に恥ずかしさを感じさせ、顔を火照るのが分かった。
なぜかとても気まずいので思わず咳ばらいをしてしまう。
「んんっ!! そうだ。アウリース、これから酔い潰れているみんなを家に送っていこうと思ってるんだが」
「え? あ、はい。いいや、大丈夫です。酒場のマスターが上の宿泊部屋も貸し切りにしてくれてますから、上のお部屋に運んであげるだけで大丈夫ですよ」
「そ、そうか。助かる。色々と世話をかけているな」
「いいんです。私が好きでやっていることですから。例の事件でグレイズさんが怒ってくれたおかげで、今も冒険者できていますし、恩返しをさせてもらっているんで遠慮はなしでお願いしますね」
アウリースがニコリと微笑む。
ムエルとミラの馬鹿がアウリースに対して行った行為に怒り、彼女を連れてムエルたちをぶん殴りにいったのが、能力を封じて以来、初めて他人に力の一端を見せた事件だった。
あれから半年以上が経っているが、アウリースは未だにあの時のことを感謝してくれているらしい。
「あれは俺の問題でもあったからな。アウリースが俺に恩を着る必要はないんだが」
「ダメです。ちゃんと恩返しさせてくださいね。返し終わるまでは私はグレイズさんの傍に居られる理由があるんですから……」
アウリースの言葉尻が小さくなって聞き取れなかったが、言いたいことはある程度理解できたと思う。
彼女はまだ若いので結論を焦る必要はないと思われる。
「なんか言ったか? アウリース、みんなを運ぶのを手伝ってくれ」
自分でも卑怯だとは思うが、一応まだ聞こえてないことにした。
アウリースが幼女女神が赤い糸を結んだ『天啓子』である以上、俺からは離れられないので責任は取るのだが、それでも若い彼女たちには自分のやりたいことをまず優先して欲しいと思ってしまう。
俺との結婚はそういったことをやり尽してからでも遅くないはずであった。
「グ、グレイズさん!? ああ、いえ何でもないです。今すぐ手伝いますね」
そういったアウリースとともに床に倒れ込んでいたファーマやカーラ、メリー、アルマ、セーラ、メラニアたちを次々に酒場の二階の宿泊部屋のベッドに運んで寝かしつけると、俺たちもそれぞれの個室に分かれて眠ることにした。
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