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日常編 メラニアの召喚術
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しおりを挟む隣の部屋から戻ってきたメラニアは、足首までの丈の長い赤と白の法衣を纏い、右手には綺麗な宝玉がいくつもはめられたブレスレットをはめられていた。
「あの、似合っていますでしょう?」
大貴族となってからも日常の衣服は華美な物を着ず、質素な服を着ているため、冒険者の装備を纏ったメラニアは駆け出しの召喚術士と言われれば、一〇人中の一〇人が冒険者だと思う格好をしている。
ただ、よく見れば挙措に貴族らしさが垣間見えるので、気が付く人は気が付くだろうが。
メラニアが養女として育てられたヴィーハイブ伯爵家は没落しかけていたため、生活は質素であったことも影響しているのだろうが、彼女はあまり派手な生活を好まない性質を見せている。
「ああ、似合っているぞ。どっからどう見ても駆け出し冒険者にしか見えないな」
「背中の文字がもっとよく見えた方がいいですかね? 見えます? グレイズ様?」
くるりと回って背中を見せたメラニアの法衣には例の文字がバッチリと見えている。
ちなみにメラニアの養父であったヘクトル・ヴィーハイブは王であるジェネシスにより、ブラックミルズ以外のブラックミルズ公爵家の領地の総代官に任じられており、領地からあがる資産の管理を任せることになっていた。
これは、公爵位の就任にあたって養家への恩返しがしたいとの願いをジェネシスが認めていたのだ。
養父母は最初、自分たちがメラニアとアルガドの婚約を蹴らなかったことを理由にブラックミルズ公爵家の総代官職を固辞していたが王であるジェネシスの命もあり就任を許諾していた。
メラニアが独立した爵位を得たことで、直系の後継者のいないヴィーハイブ家当主ヘクトルは親族から養子をもらい、ブラックミルズ公爵家の陪臣家となることも決定している。
意外と腐った貴族の多い中、メラニアの養父母はまともな部類の貴族であるようだ。
王国の一地方を丸ごと領有することになったブラックミルズ公爵家のため、税収は莫大なものになるだろうが、メラニア本人はあまり金に興味がないので、税収の大半は領地振興策に投じられると思われた。
あくまで俺への褒賞の代わりに爵位をもらったということなので、自分のために使う気はほとんどないと自分で言っている。
冒険者になるのも、大貴族として領民に食べさせてもらうのは心苦しいという理由を付け、自らの生活費を稼ぐ意味もあった。
そんなメラニアが俺の嫁を宣言するような文言を背中に背負って喜んでいるのを見ると、自分が普通の男だったらなぁと思ってしまう。
神様候補なんて異形の力がなくて普通の男なら、さすがの俺も二つ返事で結婚を快諾しているに違いないのだ。
恨めしきは神器の力。図らずもこの前のサイアスを送り出した時に放った火球が作った穴は、俺の力を住民たちへと知らしめる証拠となっているのだ。
「あ、あの。やはりご迷惑でしょうか?」
考え込んでいた俺を心配したメラニアが声を掛けてきていた。
「ち、違うぞ。別に迷惑とかじゃない」
「自分が普通の男じゃったらなぁとか、器の小さいことを考えておっただけじゃわい。図太いようで意外と小心者じゃからな、グレイズは」
おばばが俺の気持ちを先読みして答えていた。付き合いが長いので、俺の顔色を見ただけで何を考えていたのか察したのだろう。まったく油断も隙も無い。
「グレイズさん、普通の人よりカッコいいよー。ファーマはグレイズさん大好きー!」
「わたくしもそう思いますわ」
「わ、分かった。分かったから、慌てるな。ファーマもメラニアもまだ一〇代だからな。じっくりと見定めるのが良いものを手に入れる必勝法だぞ」
俺はこの頃、完全に外堀埋め尽くされ、内堀も徐々に埋められつつあるのを実感してきている。
数年を待たずして押し切られそうな気もしないでもないが、それはそれでなるようになった結果だと思うようにしておく。
だが、とりあえず今はみんなを冒険者として食っていけるレベルにまで引き上げるのが、パーティー内で俺に与えられた仕事だと思うことにした。
「おばばも、あんまり俺の正妻レースの賭博を派手にやるとギルドマスターの権限でしょっ引くかもしれんからな」
一応、俺の内堀を埋めようと積極的に動くおばばにも釘を刺しておくことにした。
「大丈夫じゃわい。わしは国王公認を得ておるからのぅ。ギルマス程度の権限で取り締まれると思わぬ方がよいぞ。辞めさせたかったら、いっそグレイズが王になるしかないのぅ」
おばばは大きく笑いながら、終始ニヤニヤとした顔で俺を見ていた。
チクショウめっ! ついに国家権力まで巻き込みやがった。
俺はおばばに勝ち目を見出せないと感じると、秘蔵の召喚術の本と装備に関する礼だけを述べ家から逃げ帰った。
そして、魔法書店で魔法書漁りをしていた三人も連れ、メラニアの召喚術を練習するためにダンジョンの第一階層に向かうことにしたのだ。
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