おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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最終章 そして、伝説へ

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「これは……濃い瘴気なのじゃ……妾も胸やけがする」

 背後から圧倒的な殺気を持った気配が近づくにつれ、瘴気は密度を増して来ていた。

「わふうう(神器の匂いがビンビンします)」

「ってことは……この気配の主はダンジョン主か」

 最後尾にいた俺はそっと、気配の方へ視線を向けた。

 濃くなる瘴気の奥には赤く光る目のような物が見える。

 その位置からしても、迫ってきてる生物の大きさがうかがい知れた。

 このままだと追いつかれる……ろうそくの火も残り少ないし、ここで今ダンジョン主と戦闘をしたらみんなが魔素マナ酔いで昏倒しちまうな。

 どうする……俺が囮でみんなを逃がすのが、一番成功率が高いか。

 だが、みんなが俺の言うことを聞いてくれるだろうか。

 不意に訪れた緊急事態に対する答えを見つけるべく、俺の頭脳は高速で動き続けていた。

「逃げる! 今戦うのは不利すぎる。アウリース、探索中のパーティーへ緊急信号を打ち上げろ『撤退』だ」

「しょ、承知しました」

 アウリースがポーチから取り出した信号弾の紐を引くと、濃い霧でも分かるほどまぶしい赤い光が絶望都市の空に打ち上がった。

「メラニア、アウリース、カーラは全力でC地区への門まで走れ」

「「「あ、はい」」」

「ジェネシス、メリー、ファーマは三人の護衛を頼む」

「この状況じゃしょうがないっすね。オレがきっちりと三人は守りますから任せてくださいっす」

「悔しいけど、ファーマはもうフラフラかも」

 魔力の容量の少ない獣人族であるファーマはすでに魔素マナ酔いの気配が出ていた。

 このままここにいると、気絶して昏倒してまう。

「グレイズさんたちはどうするの?」

 メリーが『自分だけ残るとか言わないわよね』と言いたげな顔をしていた。

 本当ならそれが一番逃げ切りやすいと思うが、そう言ったらみんながてこでも動かないのはしっている。

 なので、適当にひきつけたら、さっさと退散させてもらうつもりだ。

 さすがのダンジョン主も、自分の作ったダンジョンは破壊できないだろうし。

 C地区の門までたどり着ければ相手も諦めてくれるだろうさ。

「ハクとクィーンを連れて、できるだけあいつがみんなを追跡しないようにする。安心しろ、ソロ討伐なんて考えてないから。みんなであいつを倒そう。そのためには一旦退却だ。頼んだぞ、メリー」

「さすがグレイズさんね。そう言わないと私たちが撤退しないと思ってるでしょ。でも、まぁいいわ、ちょっと休憩してくるからみんなの分は残しておいてよ」

 メリーは笑顔で俺の指示に従う意志を示してくれた。

 彼女が請け負ったなら、何をしてもでもみんなを確実に撤退させてくれるはずだ。

 それだけの信頼は預けてもいい存在である。

「俺もすぐに休憩しに行くよ」

「了解、みんな、先に撤退するわよ。大人しく撤退したらグレイズさんが戻ってた時、一緒に添い寝してくれるってー」

 おい、メリーそんな約束してないぞ!!

 みんなのいるところで添い寝なんて!?

「ファーマ! 緊急撤退します! グレイズさんと添い寝~♪」

 それまでフラフラしていたファーマが急に元気なって駆け去っていく。

 いやちょっとファーマさん、俺そんなこと一言も言ってませんけど。

「ファーマ、それ抜け駆け。私も撤退する。その前に支援魔法受け取るがよい」

 カーラが俺とハクとクィーンに支援魔法をかけまくると、ファーマを追って駆け去った。

「グレイズ様、そ、添い寝はブラックミルズに戻ってからでも大丈夫でしょうか? 今はほら非常時ですし、お風呂も入ってませんし」

 メラニア、もじもじされるとこっちが困るんだが、それに添い寝はメリーが勝手に。

「そ、そうですよね。私もブラックミルズに帰ってからでいいですか。色々と準備もありますし」

 アウリースも同じくもじもじしない。

 それに色々な準備ってなんだよ。

 二人が顔を赤くして、先行したカーラとファーマを追って駆け去った。

「そうねぇ、私もブラックミルズに帰るまで取っておこうかな。屋敷も完成するし、新築祝いとして豪華なベッドでの添い寝権ってご褒美もらわないとね」

 メリーがしてやったりと言いたげにウィンクを投げかけてきた。

 ハメられた気もしないでもないが、それで彼女たちが納得して逃げてくれているので感謝はしておこう。

「分かった。添い寝までだからな」

「いやったー! これで既成事実を作れる。いやっふー!」

 メリーが普段見せないおどけた雰囲気で駆け去っていく。

 既成事実とか言うのやめてくれますか。

「グレイズさんもついに年貢を納める時がきたようで……最近、オレが仕入れた特別製の回復ポーションいります?」

「いるか! 馬鹿! さっさといけ!」

「おー、こわい。じゃあ、きっちりと仕事してC地区まで戻ってきてくださいよ」

「分かってる。ジェネシスも他の連中をまとめておいてくれ、ダンジョン主もみんなでやれば怖くない」

「りょーかい。きっと他の連中はグレイズさんが抜け駆けしたっていきり立つと思うんで、魔素マナ抜けしたやつらから随時応援に出します」

 ジェネシスはきりっと表情を引き締めると、みんなを追って去っていった。

「わふう(相変わらずグレイズさんは愛されてますね。神器の所有者は超常の力を得る代わりに人から畏怖されやすいん存在なんですが。グレイズさんの超越者の腕輪は神器の中でも特別製なんでほんとはもっと恐れられる存在になってたかもしれないんですよねー)」

「そうか? その特別製の神器の意識体が相性のいいハクだから、俺がこんな感じになってるんだと思うぞ」

「わふううう(いや、絶対違いますから! あたしはアクセルリオン神様のなかで一番の従属神だったんです。イケてる戦闘女神だったんですから。ご飯と戦闘だけが大好きなポンコツじゃないですよ!)」

「そこまで言ってないぞ。まぁ、でもハクが相棒だったから俺も孤独じゃなかったし、みんなにも会えたと思ってるさ」

 俺は足元で抗議するハクの頭を撫でた。

「グレイズ、あいつ食べたら妾は大きな戻れるかのぅ」

 クィーンが涎を垂らして、瘴気の奥にいると思われるダンジョン主を見ていた。

「ばっちいから食べない方がいいぞ。それにメラニアの飯の方が美味いだろ」

「……それもそうじゃな。メラニアの美味しい食事とお菓子が食べられるこの身体も案外悪くないのじゃ」

「じゃあ、さっそくあいつをみんなから離すために誘導するとしよう。二人とも油断するなよ」

「わふう(了解)」

「おっけーなのじゃ。今回は妾が霧を吹き飛ばす! エアバーストボム」

 クィーンが霧の奥にいる生物に向けて、風邪属性の魔法を放った。

 アウリースのも強力だったが、ノーライフキングであるクィーンの魔法は濃い魔素マナで活性化されているようで非常に強力だった。

 連続した爆発音がしたかと思うと吹き飛ばされそうな暴風が辺り一帯を吹き抜けた。

 そして、漂っていた霧が晴れると、ダンジョン主だと思われる奇怪な生物の姿が見えてきた。

 身体はミスリルゴーレム、両肩からはエンシェントドラゴンの顔が生え、手にはゴブリンエンペラーの持つ長大な剣と大盾、背中からは奇怪な六枚羽根が様々の光を発していた。

 キマイラよりもより一層凶悪な魔物が合成された醜悪な怪物が姿を現していたのだ。
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