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最終章 そして、伝説へ
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探索は思いのほか順調に進んでおり、俺たちが先行偵察するファーマたちのパーティーに合流を果たした時には、事前にローマンが教えてくれていたD地区に繋がる門の前であった。
「グレイズさん、遅いよー。ファーマたちだけでダンジョン主を倒しちゃいそうだった」
「わふう(魔物の数もさして多くなかったですし、罠もないんで監獄の方が難しいくらいでしたよ)」
合流した二人は絶望都市のダンジョンが物足りない様子だった。
魔物は広場の前に集まっていたし、ダンジョンの中も道案内がついていたからここまで簡単に来れたという側面がある。
まぁ、それにしても早く到達できたことに変わりはなかった。
「ファーマとハクはとんでもない斥候だな……グレイズ、お前の新しい仲間たちは私たちとは違って有能らしいな。やはり、この騒動がおさまって私たちはまた収監されるだろうが、ムエルたちにはお前にはもう関わるなと忠告しておこう。それがお互いのためだ」
ローマンも二人の偵察能力に舌を巻いていたようだ。
ムエルたちのパーティーはミラが偵察担当だったが、俺と組んでた時は色々と凡ミスも多かったことを思い出していた。
「二人は俺よりも有能な偵察能力持ちだからな……偵察で俺の仕事はほぼない」
「たしかに納得だ。ミラも成長したが、あの二人には足元にも及ばん。世界は広いなグレイズ」
「グレイズさん、話はあと。今はD地区への突入が先よ」
「おう、分かってるさ」
ローマンと昔話に花が咲きそうだったが、メリーに急かされたので固く閉ざされていた地区を分ける重厚な門を押し開けた。
「おっと……これは……」
門の奥にあるD地区からはそれまでとは違い、息を吸うのもためらわれるような濃密な魔素の霧が漂っていた。
吐き気を催すような霧……ダンジョン主が吐き出す魔素が濃すぎて瘴気にまでなっているのか……。
「グレイズ、この霧を長く吸うのは人体に有害だと思う。長くて半日、それ以上は許容量の高い魔法職でも魔素酔いで動けなくなる可能性がある」
カーラが漂う霧の有害性を指摘してきた。
たしかにこの濃さだと、半日くらいずっと探索してると、動けなくなりそうだ。
「承知した。これよりD地区に入るパーティーの行動は最大で半日にする。時間計測用のろうそくを忘れずに灯すように」
突入をするのは精鋭中の精鋭の冒険者たちであるため、すぐさま指示にしたがっておおよそ半日は灯るサイズにろうそくを切る。
そして、風で消えないようケースに入れると背嚢に括りつけていた。
これでろうそくを基準におおよその探索制限時間を把握して、半日経過する前にここに戻ってくるはずだ。
「なるべく帰還時間は余裕を持つように。ギリギリまで探索する必要はない。行動不能にならないようする方が大事だ」
魔素酔いで行動不能になったパーティーを救うため、別のパーティーが二次遭難する可能性もあるので、帰還時間には是非とも余裕を持って欲しかった。
「はい、グレイズさんの分です。たぶん、グレイズさんの許容量はどれだけ吸っても大丈夫でしょうが、私たちはきっとそうもいかないので……」
アウリースが俺用にセットしてくれたろうそくを差し出してくれた。
彼女の言う通り、俺の許容量はきっと尋常ではないはずなのでこの濃い魔素の霧の中でも何日でも行動できるはずだ。
最悪、メンバーたちの魔素が抜けない場合は俺一人で探索する選択肢も考えておかないとな。
「助かる。無理はしないでおこう」
「妾はこの瘴気の濃さは楽園なのじゃー。すーはぁー生き返るのじゃー」
逆に半分だけ魔物のクィーンは、この濃い霧を吸って肌が艶テカしてきていた。
クィーンの様子を見る限り、魔物はこの魔素で強さを増しているかもしれないな。
「じゃあ、クィーンにはしっかりと仕事をしてもらうとするか。この魔素の濃さなら召喚主であるメラニアからも大量の魔力が供給できるだろうし、攻撃魔法をドンドンぶっ放してくれ」
「おお、そうじゃな。この濃さならメラニアから借りなくても、妾の吸収分でガンガンいけそうなのじゃ。なんならゾンビスケルトン軍団を召喚もしてよい。それくらいここは魔素が濃い。妾の宮殿以上かもしれぬ」
クィーンが珍しくおやつを要求せずにやる気を見せていた。
それくらいここの魔素が濃いことを示しているのかもしれない。
「さぁ、気を引き締めて探索しよう。ここからは何が出てもおかしくない。常に他のパーティーと連携できるようにお互いの位置を把握してやっていこう。ダンジョン主がいたらすぐに報告をくれ。くれぐれも自分たちのパーティーだけで仕掛けないように徹底を頼む」
神器を吸収し強化されたダンジョン主がどれほどの強さが判断できないため、他のパーティーにも見つけたからといって無用な攻撃を仕掛けないように釘を刺しておいた。
俺が冒険者ギルド本部の幹部にもなっているため、参加している冒険者たちも従う気配を見せてくれていた。
なるべくこれ以上の人死になく、このダンジョンを閉鎖させたいというのが俺の思いであるのだ。
それが危険を代償に対価を得る冒険者たちの命であったとしてもだ。
「では、各パーティーごとに探索を開始してくれ」
準備を終えたパーティーから、どんどんとダンジョン主の居場所をさぐりにD地区へ侵入していった。
「俺たちも行くぞ」
「「「「「はい」」」」
装備を確認し終えた俺たちもD地区へ侵入していく。
D地区内の霧は予想以上に濃く、数歩先の視界が全く確保できないでいた。
「わふう(敵の匂い感知! 右前方!)」
ハクの声が敵の接近を告げているが、霧で視界がとれないのと、魔素の濃さが相手の気配を乱して正確な位置が把握できなかった。
「気配が掴みにくいよー」
「では、私が霧を払います。エアバースト!」
アウリースが風の魔法を右前方に撃ち込むと、魔法で発生した風に巻き込まれて霧が消え、敵の姿が把握できた。
「敵はキマイラだ。毒の息なんか吐かれると面倒だから一気に殲滅する」
姿を現したのはボス魔物であるキマイラだった。
すでに十五階層のボスとして戦ったことがある相手であるため、メンバーたちの動きは速い。
ファーマとハクがフェイントをかけると、メリーが近づき足を折り、動けなくなったのをクィーンが魔法で痺れさせて拘束。
それを俺が戦斧で処理した。
中層階のボスとはいえ、すでにキマイラ程度では相手に攻撃をさせる隙は与えないで倒せる。
「わふう(次、きます! 今度は左後方)」
警戒を解く暇もなく、新たな敵の匂いをハクが感知していた。
この状況だと、ハクの鼻が一番敵を見つけやすいようだ。
「了解、また霧を払いますね。エアバースト」
アウリースがハクの示した方向へ再び、エアバーストを放つ。
霧が晴れるとゴブリンキングが姿を現した。
「先制攻撃いきますー!」
気配を掴めず、いつものように攻撃できないファーマが敵の視認をした途端、ゴブリンキングへ飛びかかっていく。
だが、一体だと思われた敵は二体だった。
「うわっとと、二体なんて聞いてないよー」
霧の中から、もう一体のゴブリンキングが放ったこん棒がファーマを襲ったが、間一髪で回避するとくるりと一回転して地面に着地していた。
「ファーマ、支援する。受け取れ」
カーラが即座にファーマへと支援魔法を飛ばしていた。
魔素が濃く、魔力の回復が通常より早いため、モリモリのマシマシ支援セットのようだ。
「ありがとー。よーし、いっくよー」
カーラからの支援魔法を受けたファーマが爪をガシガシ言わせたかと思うと、身体が霧に溶けた。
支援しすぎだろ、カーラ。
俺でも捕捉がしづらいスピードだぞ。
霧に溶け込み見えにくくなったファーマの攻撃で、ゴブリンキングたちが次々に血を噴き出してのたうち回る。
あいつらにはファーマの姿が捕捉できてなくて、あてずっぽうにこん棒を振り回しているようだ。
「あらー、そっちばっかりに気を取られてると、痛い目をみるわよ」
ファーマに気を取られていたゴブリンキングの脳天にメリーのメイスがめり込んでいた。
「そういうことだな」
強烈なメリーの攻撃を受け、膝を突いたゴブリンキングの首に俺の戦斧が食い込んだかと思うと首を斬り飛ばしていた。
「わふうう(そういうことです)」
必死になってファーマを追っているもう一体のゴブリンキングの背中をハクの鋭い爪が突き立っていた。
痛みでもがくゴブリンキングは、ハクを必死で振りほどいていく。
「そういうことなのじゃ」
ハクが離れた瞬間、魔法を発動させたクィーンの稲妻がゴブリンキングの胸を貫いて大きな穴を開けていた。
胸に大穴を開けられたゴブリンキングがビクビクと身体を震わせていると、姿を現したファーマが爪を一閃して首と胴体を分断し絶命させていた。
「そういうことだよー」
ファーマに気を取られた二体のゴブリンキングはなすすべもなく、その巨体から首を失って地面に転がっていた。
「ふぅー、さすがにここは魔物がまだ残ってますねー。でも、オレなんか出番ないっすけど」
魔法職の護衛を任せているジェネシスが剣をしまっていた。
「油断は大敵。ここはブラックミルズで言えば最終階層と同じ。油断すれば即死亡」
緊張を緩めようとしていたジェネシスにカーラからの忠告が飛んでいた。
カーラの言う通り一瞬の油断でここは死が近寄ってくる。
一時たりとも気を抜いていい時間はないのだ。
「了解っす。オレも生きて帰らないと嫁に泣かれるんで、気を付けるっす。それにしても、霧が濃くて視界悪すぎっすね……。他のパーティーもなかなか苦戦してるみたいだし、それにそろそろ帰還した方がいい時間っぽいっすよ」
戦闘を終えて戻ってきた俺たちへ、ジェネシスが自分のろうそくを見せてきた。
すでに残り三分の一くらいまで燃えてるか……。
霧のせいで予定していた範囲の半分程度しか探索できてないが、無理をすれば魔素酔いでみんなが動けなくなる。
それに他のパーティーもそろそろ探索にケリをつけて戻ってくるはず。
潮時か……焦りが一番大敵だから、いったん出直すか。
「今日はこれくらいに――」
そう言いかけた時、背後から背筋が凍るような圧倒的な殺気を持った気配が近寄ってくるのが感じられた。
「グレイズさん、遅いよー。ファーマたちだけでダンジョン主を倒しちゃいそうだった」
「わふう(魔物の数もさして多くなかったですし、罠もないんで監獄の方が難しいくらいでしたよ)」
合流した二人は絶望都市のダンジョンが物足りない様子だった。
魔物は広場の前に集まっていたし、ダンジョンの中も道案内がついていたからここまで簡単に来れたという側面がある。
まぁ、それにしても早く到達できたことに変わりはなかった。
「ファーマとハクはとんでもない斥候だな……グレイズ、お前の新しい仲間たちは私たちとは違って有能らしいな。やはり、この騒動がおさまって私たちはまた収監されるだろうが、ムエルたちにはお前にはもう関わるなと忠告しておこう。それがお互いのためだ」
ローマンも二人の偵察能力に舌を巻いていたようだ。
ムエルたちのパーティーはミラが偵察担当だったが、俺と組んでた時は色々と凡ミスも多かったことを思い出していた。
「二人は俺よりも有能な偵察能力持ちだからな……偵察で俺の仕事はほぼない」
「たしかに納得だ。ミラも成長したが、あの二人には足元にも及ばん。世界は広いなグレイズ」
「グレイズさん、話はあと。今はD地区への突入が先よ」
「おう、分かってるさ」
ローマンと昔話に花が咲きそうだったが、メリーに急かされたので固く閉ざされていた地区を分ける重厚な門を押し開けた。
「おっと……これは……」
門の奥にあるD地区からはそれまでとは違い、息を吸うのもためらわれるような濃密な魔素の霧が漂っていた。
吐き気を催すような霧……ダンジョン主が吐き出す魔素が濃すぎて瘴気にまでなっているのか……。
「グレイズ、この霧を長く吸うのは人体に有害だと思う。長くて半日、それ以上は許容量の高い魔法職でも魔素酔いで動けなくなる可能性がある」
カーラが漂う霧の有害性を指摘してきた。
たしかにこの濃さだと、半日くらいずっと探索してると、動けなくなりそうだ。
「承知した。これよりD地区に入るパーティーの行動は最大で半日にする。時間計測用のろうそくを忘れずに灯すように」
突入をするのは精鋭中の精鋭の冒険者たちであるため、すぐさま指示にしたがっておおよそ半日は灯るサイズにろうそくを切る。
そして、風で消えないようケースに入れると背嚢に括りつけていた。
これでろうそくを基準におおよその探索制限時間を把握して、半日経過する前にここに戻ってくるはずだ。
「なるべく帰還時間は余裕を持つように。ギリギリまで探索する必要はない。行動不能にならないようする方が大事だ」
魔素酔いで行動不能になったパーティーを救うため、別のパーティーが二次遭難する可能性もあるので、帰還時間には是非とも余裕を持って欲しかった。
「はい、グレイズさんの分です。たぶん、グレイズさんの許容量はどれだけ吸っても大丈夫でしょうが、私たちはきっとそうもいかないので……」
アウリースが俺用にセットしてくれたろうそくを差し出してくれた。
彼女の言う通り、俺の許容量はきっと尋常ではないはずなのでこの濃い魔素の霧の中でも何日でも行動できるはずだ。
最悪、メンバーたちの魔素が抜けない場合は俺一人で探索する選択肢も考えておかないとな。
「助かる。無理はしないでおこう」
「妾はこの瘴気の濃さは楽園なのじゃー。すーはぁー生き返るのじゃー」
逆に半分だけ魔物のクィーンは、この濃い霧を吸って肌が艶テカしてきていた。
クィーンの様子を見る限り、魔物はこの魔素で強さを増しているかもしれないな。
「じゃあ、クィーンにはしっかりと仕事をしてもらうとするか。この魔素の濃さなら召喚主であるメラニアからも大量の魔力が供給できるだろうし、攻撃魔法をドンドンぶっ放してくれ」
「おお、そうじゃな。この濃さならメラニアから借りなくても、妾の吸収分でガンガンいけそうなのじゃ。なんならゾンビスケルトン軍団を召喚もしてよい。それくらいここは魔素が濃い。妾の宮殿以上かもしれぬ」
クィーンが珍しくおやつを要求せずにやる気を見せていた。
それくらいここの魔素が濃いことを示しているのかもしれない。
「さぁ、気を引き締めて探索しよう。ここからは何が出てもおかしくない。常に他のパーティーと連携できるようにお互いの位置を把握してやっていこう。ダンジョン主がいたらすぐに報告をくれ。くれぐれも自分たちのパーティーだけで仕掛けないように徹底を頼む」
神器を吸収し強化されたダンジョン主がどれほどの強さが判断できないため、他のパーティーにも見つけたからといって無用な攻撃を仕掛けないように釘を刺しておいた。
俺が冒険者ギルド本部の幹部にもなっているため、参加している冒険者たちも従う気配を見せてくれていた。
なるべくこれ以上の人死になく、このダンジョンを閉鎖させたいというのが俺の思いであるのだ。
それが危険を代償に対価を得る冒険者たちの命であったとしてもだ。
「では、各パーティーごとに探索を開始してくれ」
準備を終えたパーティーから、どんどんとダンジョン主の居場所をさぐりにD地区へ侵入していった。
「俺たちも行くぞ」
「「「「「はい」」」」
装備を確認し終えた俺たちもD地区へ侵入していく。
D地区内の霧は予想以上に濃く、数歩先の視界が全く確保できないでいた。
「わふう(敵の匂い感知! 右前方!)」
ハクの声が敵の接近を告げているが、霧で視界がとれないのと、魔素の濃さが相手の気配を乱して正確な位置が把握できなかった。
「気配が掴みにくいよー」
「では、私が霧を払います。エアバースト!」
アウリースが風の魔法を右前方に撃ち込むと、魔法で発生した風に巻き込まれて霧が消え、敵の姿が把握できた。
「敵はキマイラだ。毒の息なんか吐かれると面倒だから一気に殲滅する」
姿を現したのはボス魔物であるキマイラだった。
すでに十五階層のボスとして戦ったことがある相手であるため、メンバーたちの動きは速い。
ファーマとハクがフェイントをかけると、メリーが近づき足を折り、動けなくなったのをクィーンが魔法で痺れさせて拘束。
それを俺が戦斧で処理した。
中層階のボスとはいえ、すでにキマイラ程度では相手に攻撃をさせる隙は与えないで倒せる。
「わふう(次、きます! 今度は左後方)」
警戒を解く暇もなく、新たな敵の匂いをハクが感知していた。
この状況だと、ハクの鼻が一番敵を見つけやすいようだ。
「了解、また霧を払いますね。エアバースト」
アウリースがハクの示した方向へ再び、エアバーストを放つ。
霧が晴れるとゴブリンキングが姿を現した。
「先制攻撃いきますー!」
気配を掴めず、いつものように攻撃できないファーマが敵の視認をした途端、ゴブリンキングへ飛びかかっていく。
だが、一体だと思われた敵は二体だった。
「うわっとと、二体なんて聞いてないよー」
霧の中から、もう一体のゴブリンキングが放ったこん棒がファーマを襲ったが、間一髪で回避するとくるりと一回転して地面に着地していた。
「ファーマ、支援する。受け取れ」
カーラが即座にファーマへと支援魔法を飛ばしていた。
魔素が濃く、魔力の回復が通常より早いため、モリモリのマシマシ支援セットのようだ。
「ありがとー。よーし、いっくよー」
カーラからの支援魔法を受けたファーマが爪をガシガシ言わせたかと思うと、身体が霧に溶けた。
支援しすぎだろ、カーラ。
俺でも捕捉がしづらいスピードだぞ。
霧に溶け込み見えにくくなったファーマの攻撃で、ゴブリンキングたちが次々に血を噴き出してのたうち回る。
あいつらにはファーマの姿が捕捉できてなくて、あてずっぽうにこん棒を振り回しているようだ。
「あらー、そっちばっかりに気を取られてると、痛い目をみるわよ」
ファーマに気を取られていたゴブリンキングの脳天にメリーのメイスがめり込んでいた。
「そういうことだな」
強烈なメリーの攻撃を受け、膝を突いたゴブリンキングの首に俺の戦斧が食い込んだかと思うと首を斬り飛ばしていた。
「わふうう(そういうことです)」
必死になってファーマを追っているもう一体のゴブリンキングの背中をハクの鋭い爪が突き立っていた。
痛みでもがくゴブリンキングは、ハクを必死で振りほどいていく。
「そういうことなのじゃ」
ハクが離れた瞬間、魔法を発動させたクィーンの稲妻がゴブリンキングの胸を貫いて大きな穴を開けていた。
胸に大穴を開けられたゴブリンキングがビクビクと身体を震わせていると、姿を現したファーマが爪を一閃して首と胴体を分断し絶命させていた。
「そういうことだよー」
ファーマに気を取られた二体のゴブリンキングはなすすべもなく、その巨体から首を失って地面に転がっていた。
「ふぅー、さすがにここは魔物がまだ残ってますねー。でも、オレなんか出番ないっすけど」
魔法職の護衛を任せているジェネシスが剣をしまっていた。
「油断は大敵。ここはブラックミルズで言えば最終階層と同じ。油断すれば即死亡」
緊張を緩めようとしていたジェネシスにカーラからの忠告が飛んでいた。
カーラの言う通り一瞬の油断でここは死が近寄ってくる。
一時たりとも気を抜いていい時間はないのだ。
「了解っす。オレも生きて帰らないと嫁に泣かれるんで、気を付けるっす。それにしても、霧が濃くて視界悪すぎっすね……。他のパーティーもなかなか苦戦してるみたいだし、それにそろそろ帰還した方がいい時間っぽいっすよ」
戦闘を終えて戻ってきた俺たちへ、ジェネシスが自分のろうそくを見せてきた。
すでに残り三分の一くらいまで燃えてるか……。
霧のせいで予定していた範囲の半分程度しか探索できてないが、無理をすれば魔素酔いでみんなが動けなくなる。
それに他のパーティーもそろそろ探索にケリをつけて戻ってくるはず。
潮時か……焦りが一番大敵だから、いったん出直すか。
「今日はこれくらいに――」
そう言いかけた時、背後から背筋が凍るような圧倒的な殺気を持った気配が近寄ってくるのが感じられた。
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