44 / 81
第44話 調査専門探索者の生き方
しおりを挟む「はい、依頼報告終わり。タグペンダント返すわよ。褒賞金は口座に入れたからね」
「ああ、すまない。これでしばらくは食える」
トマスの前に浮かんだウィンドウの数字は見えないが、満足できる額が支給されたのだろう。
基本的に未踏破のダンジョンの調査依頼の方が、報酬が高いって話をリアリーさんから聞いてるし。
「そうなんだけどね。実は、そっちのヴェルデ君が調査済みのやつをどんどんと攻略しちゃっててね。調査済み依頼が在庫切れしそうなのよね。ほら、調査専門の探索者はトマスしかいないわけだし」
「は? けっこうあったはずだろ?」
「それが、この1週間で20個ほど達成しちゃって。それに調査報告の有効期限が切れたダンジョンも重なっててね。依頼の在庫がかなり減ったのよ」
「期限切れか……」
調査報告って有効期限があるのか? 一度調査したら終わりかと思ってた。
2人の会話が気になったので、『有効期限』に関して聞いてみる。
「話に割り込んですまないけど、ダンジョンの調査報告の有効期限ってどれくらい?」
「そう言えば、あんたは探索者なり立てだったな。いいだろう、教えてやるよ。基本的に調査報告は3か月で廃棄される。攻略されないダンジョンが進化するからな。あと『重点探索指定地区』の場合、1カ月で廃棄だ。進化が早すぎる場所だから報告書の期限も短い」
「3か月? 進化するとはいえ短いんでは?」
「統一ダンジョン協会が廃棄期限を定めてるんだからしょうがないだろ。古い情報は提供できないようにされてる。だから、オレみたいな低レベルダンジョン調査専門の探索者ってのが成り立つわけ」
「つまり、期限切れ低レベルダンジョンを再調査することで何度も稼ぐ形できると?」
「ああ、もちろんだ。でも、ちゃんと未調査もやってるわけだが。それにしても、1週間で20個も攻略されちまったか」
俺が調査済みのダンジョン攻略しまくってしまったから、トマスが再調査による依頼料を得られなくなり、困ることになるな。
調査専門探索者に、そういった仕組みがあるとは知らなかったわけだが。
「なんか、すまないな。俺が知らずにあんたの稼ぎのネタを減らしたらしい」
「まぁ、まだまだ未調査ダンジョンも多いし、期限切れたやつも残ってるから問題はない。なにせ、ここには探索者が3人しかいないからな。オレが依頼達成した調査済みがなくなったら、調査依頼もやってみればいい。オレみたいに攻略しないよりか、調査と攻略を同時に行った方が稼げるしな」
「なるほどな。先輩からの助言は心にとどめておく」
「なら、明日以降はヴェルデ君たちにもダンジョン調査を振ろうかしらねー。住民からダンジョン目撃情報が溜まってるわけだしー。確認と攻略もして欲しいわね」
「攻略はヴェルデに振れ。オレは調査しかしねーよ」
トマスの返答に、リアリーさんが肩を竦めた。
ソロ探索する上で極限までリスクを取らない形を選ぶのは賢い選択だと思う。
死んだら終わりなわけだし、調査を達成すれば報酬はもらえるんだから。
そういった探索者生活もあるって分かったのは、非常にありがたい。
「だってさ。ヴェルデ君」
「調査も頑張ってみますよ。何事も経験してみないと分からないですしね」
「それもそうねー。あら、ガチャちゃんはもうご馳走さまかしら?」
俺の膝の上に座って、カウンターの上の自分の食事を終えたガチャが、リアリーさんの問いに頷くと、床に下りたいと要求してくる。
床に下ろすと、トトトと駆け出し、酒場の客席の人たちのところへ駆け出す。
酒場にくる町の人にも愛想を振りまきまくるガチャは、すでにみんなの看板犬であり、店の中で放しても文句言う人はいなかった。
「ガチャー、今食ったばかりだから、みんなに食い物ねだったらダメだぞー」
客のところに駆け寄っていたガチャが、びくーんと身体をこわばらせ、こちらに振り返った。
「さっき野菜も食べなかったし、食べ過ぎだからダメだぞ」
しょぼんとしたガチャは、酒場の客の前で床に倒れ込んで哀れさを感じさせる格好をする。
「ガチャは芸達者だなぁー」
「さっき食べてたの見てたしのぅー」
「野菜食うか? 野菜?」
客たちも食いしん坊なガチャを見て、ニコニコ笑いながらその様子を見た。
「あんたの相棒は人気者だな」
その様子を見ていたトマスも釣られて笑っていたようで、先ほどよりも表情が緩んでいる。
「まあね。うちのガチャは可愛いからしょうがない」
「はいはい、おしゃべりはそこまでー。本日の夕食ができたわよー。ウェンリーもアスターシアちゃんも一緒に食べなさいねー」
それから俺たちはトマスとウェンリーの兄妹とともに食事をすることになった。
-------------------------------
アルファポリス様での毎日更新は本日で終了させてもらい、これからは週一更新にさせてもらい、カクヨム様での更新を先行させていきますのでよろしくお願いします。
174
あなたにおすすめの小説
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる