11 / 74
第1部
#10 屋根の上で
しおりを挟む
満月が綺麗な夜。こんな日に、よりによってアクアと喧嘩しちまうなんて。
「…………」
屋根の瓦がひんやりと気持ちいい。そこに寝そべって、大きな丸い水晶球を独り占めだ。ひひ。今日の俺はツイてる。
──うるさい!! グレイなんか死んじゃえ!!
嘘だろ。俺、本当に──。
「あ、いた。黒猫さん」
タイミングばっちりでベンティスカさんが来た。本当に俺はツイてると思う。ただひとつを除いては、という条件付きだが。ベンティスカさんは屋根の切り抜かれた窓から顔を乗り出している。
「ベンティスカさん……あはは、こんな夜に大声張り上げて、ご近所迷惑だよな。悪い」
「それは気にしてないよ。隣に行ってもいい?」
「もちろん!」
手を握って親指を立てる。折角、麗しのレディが来てくれたというのに、もっと歓迎してやれよ、俺。
だけど、そんな気にもなれない程に、あいつの言葉が深く心臓に突き刺さって抜けない。
「なんで、俺の場所が分かったの?」
「え? だって、猫って夜になると、屋根の上でにゃあー、にゃあー、って鳴くものでしょ?」
「間違っちゃあ、いないね、たぶん」
「……ねえ、どうしてアクアと喧嘩なんかしちゃったの、黒猫さん?」
「んー、男にはイロイロあるんだよ。感情線の波とかな」
「ふーん。大変なんだね」
「……うんにゃ、あれは俺が悪い。ちゃんとあいつの話、聞いてやれなかった」
「そう、ならちゃんと謝らないと、だよ」
「それはわかってるさ。……多分」
つい、ベンティスカから体を逸らしてしまう。
自分がただ格好つけているだけだとわかってはいる。が、現実を突き付けられると、途端に体が動かなくなる。なんて最低な男だろうか。
そんなことお構いなしに、ベンティスカさんは俺の顔を覗き込んでくる。細い糸のような髪がふわりと舞い降りた。
「じゃあ、わたしを魔法使いさんだと思って、練習しようよ」
「何を?」
「謝る練習!」
「あのさ、ベンティスカさんじゃダメでしょ」
「何で?」
俺がこんなにも彼女に圧倒される日が来るとは思わなかった。気持ちは嬉しいけど、正直逃げたい。気恥ずかしさ満載だ。
「……この度は、大変申し訳ありませんでした!」
「うん、いいよお」
アクアの真似なら似てないぞ、というツッコミは置いておいて。にっこりと微笑む彼女につられて、俺も同じように笑った。ずっとこうしていたいと思った。
「あ!! ああ!!」
「わっ!? 急にどうしたの?」
俺はポケットを漁りに漁った。プロポーズのことを思い出したのだ。
「……おっ、あったぞ。と、突然、ですが……べ、ベンティスカさんに、言いたいことと、それから、渡したいものがあって、ですね……」
「あはは、急に改まっちゃって、変なの」
どうしてこのタイミングで、と疑問に思うことはない。
寧ろ、今しかない!!
「もし、俺がもっと強くなって、大きくなったら……その……。結婚して下さい!!」
我ながら大胆な告白で一世一代の賭けに出たな、と思った。
断られたっていい。告白しないで後悔するよりも、告白して後悔するのが俺流だ。
彼女の顔が見られない程、俺の顔は赤一色で、心臓の鼓動が激しく高鳴っている。
彼女の為に選んだ黄色い指輪を差し出す手だって、ガタガタ震えて今にも落としてしまいそうだ。
「わたしで良ければ、いつまでも待ってるよ」
彼女が、ベンティスカさんが、俺の手を暖かく包み込む。
「……ほんと?」
「うん! もちろんだよ!! わたしも黒猫さん、だあいすき!」
そして、二人で笑う。
なんて幸せなんだろう。
「じゃあ……これ、俺がベンティスカさんに付けてもいい?」
「もう、ベンティスカでいいよ」
眩い望月、夜空の星星に見守られて、俺はベンティスカの左手、そして薬指に、その指輪を潜らせた。
今度は逆に、俺が左手の中指に着けていた指輪を、薬指へ移す。それは彼女が施してくれた。
「ねえ、今日はもう部屋に戻ろうよ。風邪引いちゃいそう」
「ううん。もう少し、もう少しだけ、このままでいよう」
「わかった」
「ありがとう、ベンティスカ」
「…………」
屋根の瓦がひんやりと気持ちいい。そこに寝そべって、大きな丸い水晶球を独り占めだ。ひひ。今日の俺はツイてる。
──うるさい!! グレイなんか死んじゃえ!!
嘘だろ。俺、本当に──。
「あ、いた。黒猫さん」
タイミングばっちりでベンティスカさんが来た。本当に俺はツイてると思う。ただひとつを除いては、という条件付きだが。ベンティスカさんは屋根の切り抜かれた窓から顔を乗り出している。
「ベンティスカさん……あはは、こんな夜に大声張り上げて、ご近所迷惑だよな。悪い」
「それは気にしてないよ。隣に行ってもいい?」
「もちろん!」
手を握って親指を立てる。折角、麗しのレディが来てくれたというのに、もっと歓迎してやれよ、俺。
だけど、そんな気にもなれない程に、あいつの言葉が深く心臓に突き刺さって抜けない。
「なんで、俺の場所が分かったの?」
「え? だって、猫って夜になると、屋根の上でにゃあー、にゃあー、って鳴くものでしょ?」
「間違っちゃあ、いないね、たぶん」
「……ねえ、どうしてアクアと喧嘩なんかしちゃったの、黒猫さん?」
「んー、男にはイロイロあるんだよ。感情線の波とかな」
「ふーん。大変なんだね」
「……うんにゃ、あれは俺が悪い。ちゃんとあいつの話、聞いてやれなかった」
「そう、ならちゃんと謝らないと、だよ」
「それはわかってるさ。……多分」
つい、ベンティスカから体を逸らしてしまう。
自分がただ格好つけているだけだとわかってはいる。が、現実を突き付けられると、途端に体が動かなくなる。なんて最低な男だろうか。
そんなことお構いなしに、ベンティスカさんは俺の顔を覗き込んでくる。細い糸のような髪がふわりと舞い降りた。
「じゃあ、わたしを魔法使いさんだと思って、練習しようよ」
「何を?」
「謝る練習!」
「あのさ、ベンティスカさんじゃダメでしょ」
「何で?」
俺がこんなにも彼女に圧倒される日が来るとは思わなかった。気持ちは嬉しいけど、正直逃げたい。気恥ずかしさ満載だ。
「……この度は、大変申し訳ありませんでした!」
「うん、いいよお」
アクアの真似なら似てないぞ、というツッコミは置いておいて。にっこりと微笑む彼女につられて、俺も同じように笑った。ずっとこうしていたいと思った。
「あ!! ああ!!」
「わっ!? 急にどうしたの?」
俺はポケットを漁りに漁った。プロポーズのことを思い出したのだ。
「……おっ、あったぞ。と、突然、ですが……べ、ベンティスカさんに、言いたいことと、それから、渡したいものがあって、ですね……」
「あはは、急に改まっちゃって、変なの」
どうしてこのタイミングで、と疑問に思うことはない。
寧ろ、今しかない!!
「もし、俺がもっと強くなって、大きくなったら……その……。結婚して下さい!!」
我ながら大胆な告白で一世一代の賭けに出たな、と思った。
断られたっていい。告白しないで後悔するよりも、告白して後悔するのが俺流だ。
彼女の顔が見られない程、俺の顔は赤一色で、心臓の鼓動が激しく高鳴っている。
彼女の為に選んだ黄色い指輪を差し出す手だって、ガタガタ震えて今にも落としてしまいそうだ。
「わたしで良ければ、いつまでも待ってるよ」
彼女が、ベンティスカさんが、俺の手を暖かく包み込む。
「……ほんと?」
「うん! もちろんだよ!! わたしも黒猫さん、だあいすき!」
そして、二人で笑う。
なんて幸せなんだろう。
「じゃあ……これ、俺がベンティスカさんに付けてもいい?」
「もう、ベンティスカでいいよ」
眩い望月、夜空の星星に見守られて、俺はベンティスカの左手、そして薬指に、その指輪を潜らせた。
今度は逆に、俺が左手の中指に着けていた指輪を、薬指へ移す。それは彼女が施してくれた。
「ねえ、今日はもう部屋に戻ろうよ。風邪引いちゃいそう」
「ううん。もう少し、もう少しだけ、このままでいよう」
「わかった」
「ありがとう、ベンティスカ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる