如月さん、拾いましたっ!

霜月

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1話(4)

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 視力が良く、普段眼鏡をかけない兄が突然眼鏡をかけ、眼鏡の横をクイっとあげながら言った。

「では、今から採用面接を行う」

 オジサンは深々と頭を下げながら「よろしくお願いします」とだけ言った。
 正直、眼鏡のクイやりたかっただけだろとしか思えない。兄は続ける。

「名前と年齢をどうぞ」

(履歴書はどうした)

如月弥生きさらぎやよい42」兄の眉がピクッと動いた。
「二月か三月だか分からねー名前だな!」
「お兄ちゃんは睦月で私は卯月だから、揃ったね!」私の発言に二人は白けたのか、黙り込んだ。

 少し躊躇いながら「職業は?」と兄は如月に投げかけた。

「小説家」
「あぁ、ううん……」兄は何か知っているのか、歯切れが悪く、口籠る。
「何? 有名なの?」私は変な空気を感じ、追求する。
「代表作があるの? お兄ちゃんは読んだことあるの?」
「俺は何冊も読んだことあるが、お前は読まなくていい」
「はぁ?」思わず顔をしかめる。言ってることが矛盾していて腹が立つ。私は聞く相手を如月に変えた。
「如月、有名なの? 代表作教えてよ」如月を見つめる。

 如月は兄と妹を交互に見つめ、目を閉じて悩んだ。目を開けたかと思うと視線を斜め上に向け、人差し指で頬をかく。言うのを躊躇しているかのようだった。
 両者に挟まれ、複雑な立場になっているのは、私でも分かった。でもここは譲れない。
 如月は決意した表情で言った。

「私の小説はそのジャンルでは、それなりに有名だと思っています。店頭へ行けば何冊か手に入りますよ」如月は続ける。
「代表作は爆乳「うわぁああああ!」兄が赤面しながら如月をグーで吹っ飛ばし、言葉を遮った。如月は壁にめり込んでいた。

 すん。という言葉が似合う顔に私はなった。言わなくてもどんなジャンルの小説で、兄が何故言おうとしないのか、私は一瞬で悟ることが出来た。
 まぁ、如月なりに少し曖昧に伝えようとしたのも伝わる。でも、こいつ捨てて来た方がいいのかな。
 如月は壁から這い出て来くると、自己アピールのように続ける。うつろ少し怖い。

「人生は選択の連続です。お兄さんが私をここに残すことも、妹さんが私をここに残すことも、私がここに残ることも、全てあなた自身が選んだことなのです」
「その選択の中に、この家から出て行くという選択肢を入れろぉおおおおおお」兄は絶叫しながら如月を職員室のスリッパで叩いた。

 如月に後光が刺し、叩かれようと、話は止まらない。

「睦月、如月、弥生、卯月。揃ってしまったのだ。これは最早、運命としか言いようがない。運命とは」
「お前は1ページ前の神設定一旦忘れろ!!!」私も如月を職員室のスリッパで叩いた。

 スパーン。スリッパで叩かれた音と共に如月は白目で倒れた。
 如月がこの家を出て行きたくないのは、よく分かった。そしてどうしてもここに居座ろうとしている。連れて来たのは私だが、本当にこれで良かったのか。少し反省している。
 兄は腕を組み、少し考えてから如月に聞いた。

「ノートパソコンがあれば金は稼げるの
か?」
「えぇ、まぁ。それなりには。ネットバンキングにログインさえできれば収入と貯金も分かります。私のことを死に物狂いで探している担当と連絡を取る必要はありますが……」

 兄は真面目な顔をして私と如月を見て言った。

「月六万だ。月六万稼いでこの家に入れるなら、衣食住全て提供する」兄は真面目に言う。
「月六万ですね、お任せあれ」如月は不敵に笑う。自信があるようだ。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「睦月さん、卯月さん、よろしくお願いします」私たちは「よろしくね」と握手を交わした。

「あぁ、そうだ、お兄ちゃん。明後日、家庭訪問なんだけど、そっちもよろしくね」
「明後日は接待だから無理だぞ」にっこり笑う。
「えーーどうするの??」兄は名案があると言わんばかりに嫌な笑みを浮かべ言った。
「そこにもう一人いるだろ、大人が。さ、解決だな」
「「え」」私と如月は顔を見合わせ、固まった。

 担任は赴任して来たばかりの新任の先生だ。自分たちの家庭の事情など、あまり詳しくはないだろう。そう考えると、どうにかなるかもしれない。

(ま、なるようになるか)

 私はそんなことよりも如月が受け入れられたことで、新しい家族が出来たように思えて、嬉しかった。

 兄と如月はノートパソコンを開きながら、何かをやっているようだった。一緒に住む上で必要なことなのだろう。邪魔してはいけないなと思い、私はそっとその場を離れ、洗濯物を取り込みに行く。
 気づけばもう、夕方。私のわがままに付き合い、如月を受け入れてくれた兄には感謝だ。


 ーー次の日コンビニにて


 私は学校帰り、小腹が空いたので近所のコンビニに寄った。「いらっしゃいませ~~」と聞いたことあるような、やる気のない声が店内に響いた。
 如月だった。

「小説で稼がないんかい!!!」
「逃げ場は必要なんだ……」如月は目を閉じて、グッと拳を握った。閉じた目からは涙が流れ落ちた。

 如月は時々、周囲を警戒して、店内を見渡す。この人は何かから逃げて粗大ゴミ置き場に居たのかもしれない。
 そんな挙動不審な如月が面白くて、私はまたコンビニに来ることにした。

「如月、またあとでね」
「うん、またあとで。ありがとうございました~~」

 この後、店長にパパ活の疑いをかけられ、うまく弁明出来ず、如月はコンビニをクビになった。
 
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