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五 王宮での仕事始め

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 翌日、朝の集まりでそれぞれ仕事の割り振りを受けていました。昨日の女官長補佐の方とはまた違う人です。何人か補佐の方はいらっしゃるようで、頂点の女官長さんには辞めるまでに一回会えればいいほうだとお聞きしています。

 そして、私が言われたのは王宮の広間の床掃除でした。それも一人で。

 第三広間で今日は使用しないとのことですが、それでもかなりの広さ。それを一人で今日中になんて、今日一日で終わるのかしら? ひょっとしてこれは嫌がらせだったりして? それに普通は新人なら教える人とか指導者がつきますよね。確かOLさんのときの記憶なら半年は指導係がついてました。

 私は女官長補佐をじっと見てしましましたが、あの某アニメのミンチ〇女史に似ている補佐は次といって早々に追い払われてしまいました。私が部屋から出て行こうとするとくすくすという笑い声が聞こえてきました。やっぱり嫌な感じです。

 ――でも、気にしません。こうなったら広間を立派に磨き上げてみせますわ。こう見えても子爵家の床磨きで慣れてましてよ。



 指定された広間までいこうとしましたが、正直道が分かりません。なにせ昨日来たばかりですし、勿論案内板なんてありません。きょろきょろしていると鎧兜を着た近衛兵さんがこちらを見て近寄ってきました。

 ――もしかして、不審者と思われちゃったかしら?

「おい、そこの……」

「私は昨日から入りました行儀見習いの者です。ホーソン子爵家のクレアと申します。実は道に迷ってしまって……、ですから、不審者でも密通者でも暗殺者でもございませんわ!」

「不審、密……、暗殺……」

 近衛兵さんは何故かとても困惑されている様子でした。兜からは目だけは見えて、それは綺麗なブルーグレイの瞳でした。結構イケメンな感じです。それに、どこかで見たような気がしました。まあ、気のせいでしょう。私がしっている男性はお父様か老執事がたまに来てくれる庭師のおじいさんですもの。

 近衛兵さんは私の差し出した身分証を眺めると、

「それで、何をしようとしているのだ?」

「今日のノルマの第三広間の床掃除に一人で行くところです」

「あんなところを一人で? 昨日来たばかりと言ったよな?」

 彼はぶつぶつと言いながら私を案内してくれました。

 案内されて行ったところの扉を開けると大広間ほどは広くありませんが、一体何平米あるのでしょう? やりがいがありそうです。私は近衛兵さんに向き直ると頭を下げました。

「ここまでお送りしていただいて、ありがとうございました!」

 私は新人らしく腹から声を出してお礼を言うと広間に乗り込みました。

 ――今日中にやり遂げてみせますわ。

 ざっと広間を見渡して掃除の段取りを考えていると肩をぽんと叩かれました。振り向くと先程の近衛兵さんがモップとバケツを持って立っていました。

「必要だろう?」

 ――私ってば、床掃除にモップも持たずに何をしてたのかしら?

 私は再び頭を下げて受け取ると近衛兵さんにお礼を言いました。

「ありがとうございます! このご恩は忘れません!」

「ご恩……。この広さだ。一人では大変じゃないか? 俺も手伝おう」

「いいえ、いいえ、近衛兵様。これは私に与えられた試練、いいえ、与えられたお仕事でございますわ。一人でやり遂げてこそ武士の本懐!」

「ぶし?」

「い、いいえ、見習いのお仕事ですわっ」

 彼の申し出は嬉しかったのですが、もし、これがまた何かの陰謀ということもあるかもしれません。それに……。

「近衛兵さんとなると王宮の警護と言う重大なお仕事をなさっておられるのでは? 私如きにお手間を取らせるわけにはまいりませんわ。どうぞご自分のお仕事にお戻りくださいませ。いろいろとご心配おかけしました」

 ありがとうございましたと私は令嬢として優雅に微笑んで見せるとガシャンと鎧の音がしましたが、私はモップを持って床を拭き始めました。

 私は広間をだいたい半分に分け、午前中にここまでと決めるとモップを持って端からかけ始めました。しつこい汚れのところは後回しにして取り合えずまず床全部のモップ掛けをやるのよ。

 これでもOLのときにオフィスに出入りしていた清掃業者の方と雑談していた時にお掃除のコツなんか教えて
もらったこともあったのよ。

 埃も払いつつひたすらモップをかけ続けた。昼までの予定のところまでやり切りました。お昼を食べたら残りを仕上げます。何分、肉体労働なので食事抜きはキツイし効率も上がらないものです。

 私は使用人用の食堂に向かった。昼時のにぎやかな食堂はお任せランチのようでした。入り口に配膳したものを飾ってあった。そして必要なものを取っていくセルフ方式です。私は嬉々としてお肉や野菜を乗せていきました。そして、空いている席にいこうとするとドンと背中を押されたのよ。

「うわ、おわちょ!」

 私は某カンフー映画俳優のような奇妙な声を出してしまったけれど辛うじて踏みとどまることができましたわ。これも日頃の鍛錬のお陰でしょう。ご令嬢のか弱い力ごときでは私は倒されませんわ。

「あ、あら、そんなところに誰かいましたのね。見えなかったわ。おほほほ」

 そこには赤毛の巻き毛の美少女が高笑いしておりましたの。

「はあ、それでは……」

 私はあまり関わらない方がよいだろうとランチのトレイを持ち直すと席に移動しようとしました。

「あら、ちょっと待ちなさいよ。貧乏子爵家のくせに」

「え、まあ、貧乏でしたけれどあなた様は?」

 そのとき、ざわついていた食堂が静まりかえってしまいました。

「わ、わたくしを知らないですって?!」
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