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12.あくまでも *
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気付いたのは息苦しさから。
大きな何かに押さえつけられているかのように身体が動かない。
肺に入り込んでくる空気が圧迫感を増長する。
誰かに口を塞がれているのだと分かった。
「ん~ん~んん~。」
息が出来ないっ。
命の危険がっ。
そんな思いから紫沫は思いきり頭を振った。
動かすことの出来る場所がそこしか思い付かなかったのだが、幸いな事にその仕草でフッと紫沫の身体を押さえつけていた何かが消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
浅い呼吸を繰り返して肺へ酸素を送る。
次第にクリアになってくる意識と視界。
見れば紫沫は浴室とは別にあった小上がりのような板張りの場所に横になって寝かされていた。
下半身には小さいがタオルが掛けられていて、貧相な自分の身体を隠してくれていた。
足元には膝を立てて座り込んだ琅がいる。琅もまた浅く息を吐いて呼吸を繰り返していたが、紫沫よりも顔が赤く湯あたりしたかのようだった。
琅もまた腰にタオルを巻いていて芸術のような筋肉が紫沫の前に晒されることはない。
自分の身体に自信のない紫沫はそこに少しホッとする。
そこはなけなしのプライドという物だ。
「はぁ、はぁ・・・琅?」
何があったのかよく分からなくてそう問いかける。不思議そうな紫沫の顔を見て琅は安堵の笑みを漏らした。
「はぁ、良かったシブキ・・・。お前風呂の中に落ちて溺れたんだよ。」
「え?お風呂で溺れた?」
聞き間違えではないか、と紫沫は思った。
今まで生きてきてお風呂なんかで溺れた事なんて一度もない。
あの狭い空間でどうやって溺れる事が出来るんだ。
「うっ、うっそだぁ~。」
ヘラヘラと笑って答えると、真剣な琅の目と目が合った。
「笑い事じゃないんだぞっ。あんな急に走ってきて滑って湯舟に飛び込むなんてっ。そんなドジなやつ見た事ないっ。」
本気で心配してくれたのだろう。琅は怒ったようにそう応える。
「ご、ごめんっ。まさかあそこで転ぶなんて思ってなくて。」
そうだった。琅が長風呂にならないように走って湯舟に向かったまでは良かった。
誤算だったのは床が思った以上にお湯で濡れていた事。
椅子に座ったままだった膝が思ったよりも動かなかった事。
そして、湯船の縁に足を引っかけてしまった事。
湯舟が掘り下げた物で床よりも低い位置にあった事も誤算だった。
プールに飛び込むように頭からドボンと落ちてしまった。
そう、そして最大の誤算は、湯舟に足が付かなかった事だ。
頭から落ちても底が浅かったなら頭を打つぐらいですぐ身体を起こす事だって出来たはずなのに、あのお風呂には底がなかった・・・。
ぐんぐん沈んでいく自分の身体を思い出して紫沫はゾッとした。
「あっ、あのお風呂っ。そ、底にあ、足がっ、足がっ、つかなっ、つかなくって。」
あの時の恐怖が紫沫の身体に蘇ってきたのか、急に身体がブルブルと震えだす。
自分の意思では止められない。
今までの疲れやこれからの不安が今の出来事で容量を超えてしまったかのようだ。
瞳には涙が浮かんで、止められない震えと涙に紫沫は身体を起こすと膝を抱えて琅の視線から自分を隠した。
傍らではそんな紫沫の様子に困惑した様子の琅の気配がするが、止めなきゃ、止めなきゃと思っても紫沫の涙も身体の震えも一向に止まる気配がない。
「あ~、もうっ」
呆れたような琅の声がする。
ああ、琅にまで呆れられたんだ、と思った。
紫沫が美容師見習いとしてお店に出ている時、よく先輩がそういう声を出した。
鈍くさくて、言われた事も満足にこなせない紫沫の姿が見えるだけでイライラするのだ、と面と向かって言われたこともある。
紫沫は決して無能という訳ではなかったが、とにかく行動がゆっくり過ぎる所があった。
自分でもそれは感じていて、周りと同じ速度で物事をこなせていない自覚はあった。
だからと言って決してなおざりにするような勤務態度だったわけではなく、むしろゆっくりだったのはそれだけ基本に忠実に、一つ一つの作業に丁寧に向き合っていたからなのだが。
周りの評価は仕上がりよりも周りから浮いている紫沫の態度に重きを置いていたのが紫沫にとって不幸だった。
もし、紫沫の仕事内容を正当に評価してくれる誰かがいたら。
もし、紫沫の存在そのものを肯定してくれる誰かがいたら。
そうしたら、紫沫はもう少し。そう、もう少し自分の幸せを求められたのかも知れないのに。
今度もそうだ。
自分のドジで落っこちて、溺れて、気を失って。
琅にここまで運んでもらって。ありがとうって言う前にヘラヘラしちゃって。
琅は本当に心配してくれたのに。
僕の事を本当に心配してくれたのに。
なのに、また泣いて、震えて、迷惑をかけている。
琅が僕を軽蔑するのも当たり前だよね。
と、未だに溢れてくる涙が顎から落ちて裸の足の間を伝っていく感触にどこか絶望を感じた紫沫は更にきつく膝を抱えようとした時ーーー。
「!!」
膝を抱えていた身体ごと抱き締められた。
紫沫よりも大きな身体の琅は横から覆いかぶさるように紫沫の身体を抱えていた。
逞しいその腕にぎゅっと包まれているその事実に涙が驚いたかのように止まった。
温かな体温に一瞬緩んだ紫沫の身体からグイッと顔を上げさせて今度は紫沫の唇を奪う。
「んぅ!!」
突然の出来事に息をするのも忘れてしまう。
視界には琅の端正な顔があって、両頬に琅の暖かな手の感触を感じる。
支えられた顔に添えられた指が優しく紫沫の耳元をスリスリと撫ぜる。
「んんっ。」
合わせるだけだった唇が不意に緩んでぬるりと琅の舌が紫沫の口の中に入ってくる。
初めてのキスだった。
ぬるぬるとした食感の舌が紫沫の口の中を縦横無尽に動いている。
その動きに恐れをなしたように隠れていた紫沫の舌を探り当て、琅の舌が誘うように引っ張り出して優しく撫でる。
「ふっ、うっ。」
開いた隙間から声が漏れて紫沫の頭に靄がかかる。
琅が舌を絡ませ、くちゅくちゅと2人の間で交わされる涎が音を立てる。
「うむぅ、んっ、んっ、んっ。」
更に舌をじゅるっと吸われ膝立ちのような格好だった身体がカクンと崩れた。
「シブキ・・・。」
トンと肩を押され、そのまま床に横たえられたのが分かった。
キスをしている内に掛けられていたタオルは股の間でぐしゃぐしゃに形を変えていて、形を変え始めた紫沫の起立に辛うじて引っ掛かっていた。
上から見下ろすように跨った琅の目には明らかな情欲が浮かんでいて、紫沫の背筋がゾクリと竦んだ。
「あっ・・・。」
微かに漏れた声に反応したように、琅が上体を倒してくる。
こんな事初めてだ。
もぞもぞとした快感がじわじわとせり上がってくるかのようなもどかしい感情。
ゆるゆると立ち上がる自分自身が目の端に入り、紫沫は恥辱に顔を赤らめた。
「勃ってるな・・・。」
ぼそっと呟かれた琅の言葉に羞恥心が沸き上がる。
「ご、ごめっ、なさっ。」
こんな風に浅ましい姿を晒して、琅は自分をどう思っただろう。
きっと気持ち悪い男だ、と思われただろう。琅の眼差しを見たくなくて、紫沫はぎゅっと目を瞑った。
「ごめっ。そ、そんなつもりじゃっ、な、なくてっ。」
止まったはずの涙がまた流れ出す。
泣き止まない紫沫を宥めるように抱き締めてキスまでしてくれた琅に、こんな風に欲望を露わにしてしまった。
今まで誰とも接触してこなかった紫沫がキスだけで反応してしまうのは仕方のない事だと思うが、初めての経験に紫沫の意識はそう思い付かない。
「ひっく、ひっ・・ひっく。」
とうとう嗚咽交じりの声が漏れ出てしまう。
(止めなきゃ、止めなきゃっ)
必死に嗚咽を堪えようとしている紫沫の唇に今度は優しくキスが落とされた。
(え?)
ちゅ、ちゅ、っと軽いキスを何度も繰り返す琅は、唇だけではなく涙の浮かんだ目元、涙の伝った頬、と唇を滑らせ宥めるようにキスを落とした。
「ろ、琅?」
その優しい仕草に戸惑ったように紫沫は声をかける。
琅に呆れられたと思った紫沫にとってその行為は優しすぎたから。
「んっ、涙・・・止まったか?」
未だに唇に何度もキスを落としている琅が、顔を上げて視線を合わせる。
「シブキ・・・謝るなよ・・・。付け込んでるのを自覚してるのは俺の方なんだから・・・。」
「え?」
籠るように告げられた言葉は全てを聞き取る事が出来ず、紫沫は再度落とされたキスに溺れる。
今度は深く唇を合わされた。
直ぐに舌が入り込んできてじゅるじゅると吸われ舐められる。
頬の内側も舌の腹を使って嬲られるように触れられた。
燻っていた熱がまた蘇ってくるのを感じる。
さっきよりも熱い・・・。
もじもじと腰を動かしてしまう紫沫の仕草に琅はすぐに気付いた。
「シブキ、気持ちよくなっってきた?」
片手でスッと撫で上げられる。
途端に快感が背筋を昇った。
「ひゃぁ・・・。」
聞いた事もない甘い声が漏れる。
これが自分の声なのだろうか、とぼんやりと頭の中で考える。
「よしよし、気持ちいいな。」
嬉しそうな声でそう言った琅は、紫沫の胸元へ唇を寄せた。
ちゅぅ
琅の口が紫沫の小さな小粒の乳首を吸った。
興奮しているのか、ぷくりと立ち上がっている赤い実は琅の口の中で更に硬さを増してくる。
「はぁ・・・こっちも硬くなってきた。シブキ、胸、気持ちいいか?」
胸元で囁かれても、何を言われているのか理解できない。
ぷるぷると首を横に振る紫沫を見て、琅は更に胸への刺激を始める。
ぺろぺろと勃ちあがった乳首の周りを舐め、舌先でぴんぴんと刺激する。
片手はもう一つの乳首を手の平でぐりぐりと押したり、摘まんだりして弄んでいる。
こりこりとした感触を確かめるように何度も触れる。
「あっ、あっ、あっ。」
紫沫の口からは嬌声が漏れ、閉じられない口から涎が垂れる。
「シブキ、もっと声、聞かせて・・・。」
時折舞い戻る唇は紫沫の首筋を舐め上げ、快感を促す。
「んっ、そこ、やぁ・・・。」
目元を赤く潤ませ、快感を滲ませた目で琅を見る。
ゴクリ、と喉を鳴らした琅は、それでも理性を留めるように深い息を吐く。
「シブキ・・・触ってもいいか?一緒にしてもいい?」
琅の腰を押し付けられる。
ゴリっとした硬い感触がして、琅の勃ちあがったペニスが紫沫のソレに触れているのが分かった。
自分のモノよりも強く硬い。恥ずかしくて目を開けて見ることは出来ないが、ぐりぐりと押し付けられ、その大きさを感じる。
「んっ、琅っ。」
琅にされる事全てに翻弄されている紫沫にはもう何を言われているのか分からない。
ただ、硬く勃ち上がり、熱を持つこの欲望を解放したくて堪らない。
「ろ、琅ぅ・・・どうにかしてぇ・・・。」
その言葉に琅は紫沫の両脚をぴっちりと合わせて持ち上げると、その間に自分の腰を推し進めた。
「ひゃぁぁ・・・。」
ぬろんと太ももの隙間から入ってきた琅の起立はその快感を表わすように先走りの雫でテカテカと光り濡れていた。
前後の動きで紫沫の欲望の裏側が琅の切っ先で嬲られる。
「あ、ああっ、んっ、んっ。」
紫沫の起立から滲み出た液体は琅の欲望にも絡まり、更に滑りをよくした。
ぐちゅぐちゅ、と卑猥な音が部屋中に響く。
ぬっちゃぬっちゃと粘液の絡まる音がより快感を促す。
興奮した琅の息遣いと、肉同士のぶつかる音。
紫沫の嬌声だけが聞こえる。
「あっ、あっ、イ、イクぅ・・・だ、だめぇ・・・。」
ごりごりと太く熱いもので何度も抉られ、太腿から出し入れされる度に良い所を擦られる。
紫沫はぶるぶるとお腹の奥が痺れ、今にも弾け飛びそうな感覚に襲われた。
「もっ、イッちゃう、イッちゃうぅ。あっ、あっ、ああっ・・・。」
「し、シブキッ・・・。俺もっ、イクぞっ。」
腰の動きが素早くなって、何度も何度も出し入れされる。
琅の逞しい起立がブワッと膨張して、最後の一突き、とばかりに鋭い動きで抉られた。
「ああああぁぁーーー」
「くっ・・・。」
同時に果てた紫沫と琅の起立から漏れ出た白濁はお互いを汚し、混じって紫沫の腹に溜まった。
その卑猥な姿をうっとりとした視線で眺めた琅の姿を確認して、紫沫は意識を飛ばした。
最近気を失う事多過ぎでしょ、と思いながら・・・。
大きな何かに押さえつけられているかのように身体が動かない。
肺に入り込んでくる空気が圧迫感を増長する。
誰かに口を塞がれているのだと分かった。
「ん~ん~んん~。」
息が出来ないっ。
命の危険がっ。
そんな思いから紫沫は思いきり頭を振った。
動かすことの出来る場所がそこしか思い付かなかったのだが、幸いな事にその仕草でフッと紫沫の身体を押さえつけていた何かが消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
浅い呼吸を繰り返して肺へ酸素を送る。
次第にクリアになってくる意識と視界。
見れば紫沫は浴室とは別にあった小上がりのような板張りの場所に横になって寝かされていた。
下半身には小さいがタオルが掛けられていて、貧相な自分の身体を隠してくれていた。
足元には膝を立てて座り込んだ琅がいる。琅もまた浅く息を吐いて呼吸を繰り返していたが、紫沫よりも顔が赤く湯あたりしたかのようだった。
琅もまた腰にタオルを巻いていて芸術のような筋肉が紫沫の前に晒されることはない。
自分の身体に自信のない紫沫はそこに少しホッとする。
そこはなけなしのプライドという物だ。
「はぁ、はぁ・・・琅?」
何があったのかよく分からなくてそう問いかける。不思議そうな紫沫の顔を見て琅は安堵の笑みを漏らした。
「はぁ、良かったシブキ・・・。お前風呂の中に落ちて溺れたんだよ。」
「え?お風呂で溺れた?」
聞き間違えではないか、と紫沫は思った。
今まで生きてきてお風呂なんかで溺れた事なんて一度もない。
あの狭い空間でどうやって溺れる事が出来るんだ。
「うっ、うっそだぁ~。」
ヘラヘラと笑って答えると、真剣な琅の目と目が合った。
「笑い事じゃないんだぞっ。あんな急に走ってきて滑って湯舟に飛び込むなんてっ。そんなドジなやつ見た事ないっ。」
本気で心配してくれたのだろう。琅は怒ったようにそう応える。
「ご、ごめんっ。まさかあそこで転ぶなんて思ってなくて。」
そうだった。琅が長風呂にならないように走って湯舟に向かったまでは良かった。
誤算だったのは床が思った以上にお湯で濡れていた事。
椅子に座ったままだった膝が思ったよりも動かなかった事。
そして、湯船の縁に足を引っかけてしまった事。
湯舟が掘り下げた物で床よりも低い位置にあった事も誤算だった。
プールに飛び込むように頭からドボンと落ちてしまった。
そう、そして最大の誤算は、湯舟に足が付かなかった事だ。
頭から落ちても底が浅かったなら頭を打つぐらいですぐ身体を起こす事だって出来たはずなのに、あのお風呂には底がなかった・・・。
ぐんぐん沈んでいく自分の身体を思い出して紫沫はゾッとした。
「あっ、あのお風呂っ。そ、底にあ、足がっ、足がっ、つかなっ、つかなくって。」
あの時の恐怖が紫沫の身体に蘇ってきたのか、急に身体がブルブルと震えだす。
自分の意思では止められない。
今までの疲れやこれからの不安が今の出来事で容量を超えてしまったかのようだ。
瞳には涙が浮かんで、止められない震えと涙に紫沫は身体を起こすと膝を抱えて琅の視線から自分を隠した。
傍らではそんな紫沫の様子に困惑した様子の琅の気配がするが、止めなきゃ、止めなきゃと思っても紫沫の涙も身体の震えも一向に止まる気配がない。
「あ~、もうっ」
呆れたような琅の声がする。
ああ、琅にまで呆れられたんだ、と思った。
紫沫が美容師見習いとしてお店に出ている時、よく先輩がそういう声を出した。
鈍くさくて、言われた事も満足にこなせない紫沫の姿が見えるだけでイライラするのだ、と面と向かって言われたこともある。
紫沫は決して無能という訳ではなかったが、とにかく行動がゆっくり過ぎる所があった。
自分でもそれは感じていて、周りと同じ速度で物事をこなせていない自覚はあった。
だからと言って決してなおざりにするような勤務態度だったわけではなく、むしろゆっくりだったのはそれだけ基本に忠実に、一つ一つの作業に丁寧に向き合っていたからなのだが。
周りの評価は仕上がりよりも周りから浮いている紫沫の態度に重きを置いていたのが紫沫にとって不幸だった。
もし、紫沫の仕事内容を正当に評価してくれる誰かがいたら。
もし、紫沫の存在そのものを肯定してくれる誰かがいたら。
そうしたら、紫沫はもう少し。そう、もう少し自分の幸せを求められたのかも知れないのに。
今度もそうだ。
自分のドジで落っこちて、溺れて、気を失って。
琅にここまで運んでもらって。ありがとうって言う前にヘラヘラしちゃって。
琅は本当に心配してくれたのに。
僕の事を本当に心配してくれたのに。
なのに、また泣いて、震えて、迷惑をかけている。
琅が僕を軽蔑するのも当たり前だよね。
と、未だに溢れてくる涙が顎から落ちて裸の足の間を伝っていく感触にどこか絶望を感じた紫沫は更にきつく膝を抱えようとした時ーーー。
「!!」
膝を抱えていた身体ごと抱き締められた。
紫沫よりも大きな身体の琅は横から覆いかぶさるように紫沫の身体を抱えていた。
逞しいその腕にぎゅっと包まれているその事実に涙が驚いたかのように止まった。
温かな体温に一瞬緩んだ紫沫の身体からグイッと顔を上げさせて今度は紫沫の唇を奪う。
「んぅ!!」
突然の出来事に息をするのも忘れてしまう。
視界には琅の端正な顔があって、両頬に琅の暖かな手の感触を感じる。
支えられた顔に添えられた指が優しく紫沫の耳元をスリスリと撫ぜる。
「んんっ。」
合わせるだけだった唇が不意に緩んでぬるりと琅の舌が紫沫の口の中に入ってくる。
初めてのキスだった。
ぬるぬるとした食感の舌が紫沫の口の中を縦横無尽に動いている。
その動きに恐れをなしたように隠れていた紫沫の舌を探り当て、琅の舌が誘うように引っ張り出して優しく撫でる。
「ふっ、うっ。」
開いた隙間から声が漏れて紫沫の頭に靄がかかる。
琅が舌を絡ませ、くちゅくちゅと2人の間で交わされる涎が音を立てる。
「うむぅ、んっ、んっ、んっ。」
更に舌をじゅるっと吸われ膝立ちのような格好だった身体がカクンと崩れた。
「シブキ・・・。」
トンと肩を押され、そのまま床に横たえられたのが分かった。
キスをしている内に掛けられていたタオルは股の間でぐしゃぐしゃに形を変えていて、形を変え始めた紫沫の起立に辛うじて引っ掛かっていた。
上から見下ろすように跨った琅の目には明らかな情欲が浮かんでいて、紫沫の背筋がゾクリと竦んだ。
「あっ・・・。」
微かに漏れた声に反応したように、琅が上体を倒してくる。
こんな事初めてだ。
もぞもぞとした快感がじわじわとせり上がってくるかのようなもどかしい感情。
ゆるゆると立ち上がる自分自身が目の端に入り、紫沫は恥辱に顔を赤らめた。
「勃ってるな・・・。」
ぼそっと呟かれた琅の言葉に羞恥心が沸き上がる。
「ご、ごめっ、なさっ。」
こんな風に浅ましい姿を晒して、琅は自分をどう思っただろう。
きっと気持ち悪い男だ、と思われただろう。琅の眼差しを見たくなくて、紫沫はぎゅっと目を瞑った。
「ごめっ。そ、そんなつもりじゃっ、な、なくてっ。」
止まったはずの涙がまた流れ出す。
泣き止まない紫沫を宥めるように抱き締めてキスまでしてくれた琅に、こんな風に欲望を露わにしてしまった。
今まで誰とも接触してこなかった紫沫がキスだけで反応してしまうのは仕方のない事だと思うが、初めての経験に紫沫の意識はそう思い付かない。
「ひっく、ひっ・・ひっく。」
とうとう嗚咽交じりの声が漏れ出てしまう。
(止めなきゃ、止めなきゃっ)
必死に嗚咽を堪えようとしている紫沫の唇に今度は優しくキスが落とされた。
(え?)
ちゅ、ちゅ、っと軽いキスを何度も繰り返す琅は、唇だけではなく涙の浮かんだ目元、涙の伝った頬、と唇を滑らせ宥めるようにキスを落とした。
「ろ、琅?」
その優しい仕草に戸惑ったように紫沫は声をかける。
琅に呆れられたと思った紫沫にとってその行為は優しすぎたから。
「んっ、涙・・・止まったか?」
未だに唇に何度もキスを落としている琅が、顔を上げて視線を合わせる。
「シブキ・・・謝るなよ・・・。付け込んでるのを自覚してるのは俺の方なんだから・・・。」
「え?」
籠るように告げられた言葉は全てを聞き取る事が出来ず、紫沫は再度落とされたキスに溺れる。
今度は深く唇を合わされた。
直ぐに舌が入り込んできてじゅるじゅると吸われ舐められる。
頬の内側も舌の腹を使って嬲られるように触れられた。
燻っていた熱がまた蘇ってくるのを感じる。
さっきよりも熱い・・・。
もじもじと腰を動かしてしまう紫沫の仕草に琅はすぐに気付いた。
「シブキ、気持ちよくなっってきた?」
片手でスッと撫で上げられる。
途端に快感が背筋を昇った。
「ひゃぁ・・・。」
聞いた事もない甘い声が漏れる。
これが自分の声なのだろうか、とぼんやりと頭の中で考える。
「よしよし、気持ちいいな。」
嬉しそうな声でそう言った琅は、紫沫の胸元へ唇を寄せた。
ちゅぅ
琅の口が紫沫の小さな小粒の乳首を吸った。
興奮しているのか、ぷくりと立ち上がっている赤い実は琅の口の中で更に硬さを増してくる。
「はぁ・・・こっちも硬くなってきた。シブキ、胸、気持ちいいか?」
胸元で囁かれても、何を言われているのか理解できない。
ぷるぷると首を横に振る紫沫を見て、琅は更に胸への刺激を始める。
ぺろぺろと勃ちあがった乳首の周りを舐め、舌先でぴんぴんと刺激する。
片手はもう一つの乳首を手の平でぐりぐりと押したり、摘まんだりして弄んでいる。
こりこりとした感触を確かめるように何度も触れる。
「あっ、あっ、あっ。」
紫沫の口からは嬌声が漏れ、閉じられない口から涎が垂れる。
「シブキ、もっと声、聞かせて・・・。」
時折舞い戻る唇は紫沫の首筋を舐め上げ、快感を促す。
「んっ、そこ、やぁ・・・。」
目元を赤く潤ませ、快感を滲ませた目で琅を見る。
ゴクリ、と喉を鳴らした琅は、それでも理性を留めるように深い息を吐く。
「シブキ・・・触ってもいいか?一緒にしてもいい?」
琅の腰を押し付けられる。
ゴリっとした硬い感触がして、琅の勃ちあがったペニスが紫沫のソレに触れているのが分かった。
自分のモノよりも強く硬い。恥ずかしくて目を開けて見ることは出来ないが、ぐりぐりと押し付けられ、その大きさを感じる。
「んっ、琅っ。」
琅にされる事全てに翻弄されている紫沫にはもう何を言われているのか分からない。
ただ、硬く勃ち上がり、熱を持つこの欲望を解放したくて堪らない。
「ろ、琅ぅ・・・どうにかしてぇ・・・。」
その言葉に琅は紫沫の両脚をぴっちりと合わせて持ち上げると、その間に自分の腰を推し進めた。
「ひゃぁぁ・・・。」
ぬろんと太ももの隙間から入ってきた琅の起立はその快感を表わすように先走りの雫でテカテカと光り濡れていた。
前後の動きで紫沫の欲望の裏側が琅の切っ先で嬲られる。
「あ、ああっ、んっ、んっ。」
紫沫の起立から滲み出た液体は琅の欲望にも絡まり、更に滑りをよくした。
ぐちゅぐちゅ、と卑猥な音が部屋中に響く。
ぬっちゃぬっちゃと粘液の絡まる音がより快感を促す。
興奮した琅の息遣いと、肉同士のぶつかる音。
紫沫の嬌声だけが聞こえる。
「あっ、あっ、イ、イクぅ・・・だ、だめぇ・・・。」
ごりごりと太く熱いもので何度も抉られ、太腿から出し入れされる度に良い所を擦られる。
紫沫はぶるぶるとお腹の奥が痺れ、今にも弾け飛びそうな感覚に襲われた。
「もっ、イッちゃう、イッちゃうぅ。あっ、あっ、ああっ・・・。」
「し、シブキッ・・・。俺もっ、イクぞっ。」
腰の動きが素早くなって、何度も何度も出し入れされる。
琅の逞しい起立がブワッと膨張して、最後の一突き、とばかりに鋭い動きで抉られた。
「ああああぁぁーーー」
「くっ・・・。」
同時に果てた紫沫と琅の起立から漏れ出た白濁はお互いを汚し、混じって紫沫の腹に溜まった。
その卑猥な姿をうっとりとした視線で眺めた琅の姿を確認して、紫沫は意識を飛ばした。
最近気を失う事多過ぎでしょ、と思いながら・・・。
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会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
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世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
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