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四章
もう二度と 3 ★
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「っ……ふぅ、あ……」
ちゅくちゅくと出し入れされる舌は生き物のようで、呼吸の仕方が分からない。
苦しさと恥ずかしさとで、生理的な涙が目尻を伝っていく。
まだ寝ぼけているのはもちろん、酔っているからこういう事をするのだ。
そう自分に言い聞かせ、ライアンの腕から逃げようとするも、思っていた以上に身体に力が入らなかった。
ただでさえミハルドは他の人間に比べて酒をほとんど飲まず、飲んだとしてもすぐに酔ってしまう。
度数の低いものであってもあまり飲めず、酒を注がれてもやんわりと固辞し、甘いものを食べてやり過ごしていた。
(はやく、にげ……ない、と)
じんわりとした酩酊感に焦りも手伝って、ミハルドは無意識に身体を捩る。
ライアンは更に抱き締める腕に力を込め、口付けは更に深くなっていった。
歯列の一本一本まで丁寧に舐め、時折口蓋を掠めるように擽っていく。
頬の内側を舐めたかと思えば、舌先をきつく吸い上げられる。
飲み込み切れなかった唾液が顎を伝い、首筋を流れていくのがぼうっとした意識の中で分かった。
「ふ、ぁ……っ」
やがてライアンが唇を離し、かすかに腕の力を緩める。
しかし拘束する力が完全になくなった訳ではなく、別の場所に唇を這わされる。
下ろしている髪を無造作に片側へ寄せると、首筋を辿るように熱い唇が滑り、鎖骨へと流れ落ちる唾液を舐め取る。
露出しているところに余すことなく唇が触れていき、今すぐに離れないとと思うのに、ライアンから与えられる刺激で腰が蕩けた。
すると首筋にぴりりとした痛みが走り、ミハルドは反射的に頬の内側を噛んで喘ぎを押し殺す。
「っ、あ……?」
弾みつつある声を抑えると、うっすらと目を開けた。
ライアンは瞼を伏せて己の首筋に赤い花をいくつも散らしており、それだけでなくいつの間にかシャツの半分ほどを脱がされていた。
かすかな冷気が肌を刺し、ふるりと身震いする。
けれどそれ以上に身体は熱を放ち、悦楽を与えてくれるライアンの姿に、とぷりと中心が蜜を零すのが嫌でも分かった。
「ら、い……さま」
──このままではまずい。
ミハルドはすべての理性を掻き集め、あえかな声でライアンを呼んだ。
なのにライアンは一切こちらを見てくれず、更にボタンを外していく。
シャツの下から桃色の突起が姿を表すと、ライアンはそこへむしゃぶりついた。
「あ、あぁ……!?」
じゅう、ときつく吸われたと思ったのも束の間、控えめに主張する尖りを甘噛みされる。
反対も忘れることなく指先で軽く引っ張られたかと思えば、押し潰すように捏ね回される。
ちゅうちゅうと幼子のように吸われ、舌先で小刻みに乳頭を刺激されては堪らない。
小さくも強い刺激が次第に官能に変わるには十分で、ミハルドは弱々しく首を振る。
(ちがう、おれは……こんな)
じわじわとやってくる悦楽を逃がしたくて、それでもライアンは止めてくれない。
むしろ更に舌使いが激しくなり、愛撫している反対の突起をきゅうとわずかに強く捻られる。
「ゃ、っ……ライ──っあ……!」
静止する声は喘ぎに変わり、目の前を小さな星がいくつも瞬いた。
同時にスラックスと下着を突き抜け、じわりと精が滲む。
「や……っ」
甘く深い吐精感に、ミハルドは大きく目を見開いて無意識にライアンの頭を掻き抱く。
その拍子に生理的な涙が溢れ、ほろほろと頬を伝った。
「──ミィ」
するとライアンはおもむろに身体を離し、至近距離で視線が混じり合う。
深く青い瞳がこちらをじっと見つめており、頬が林檎のように赤くなっている己の姿が映った。
「あ、っ……」
しかしその声は、自分ではない誰かに向けられているのだ。
ライアンが愛おしそうに己を見ているのは、ひとえに今はもう亡い正妃──ミシェルなのだから。
「……ミハルド」
「っえ、……?」
なのに、ふとライアンが紡いだ名前は聞き間違いだろうか。
口付けや愛撫は都合のいい幻覚で、今すぐに意識を手放せば隣りのベッドで寝ているのだ。
そう思いたかった。
「ミハルド」
けれど己の考えとは裏腹に、はっきりとした愛おしさを隠すことなく名前を呼ばれた。
「ライアン、さま……?」
震える声はそのままに、ミハルドは目の前の男の名を唇に乗せる。
するとライアンは淡く微笑み、ぎゅうと抱き締めてきた。
「っ……!」
先程に比べて優しく、こちらを労るような抱擁に涙が引っ込む。
(なんで……ミシェル様じゃなくて、俺の名を)
それだけでも驚いたというのに、ライアンの行動が分からない。
いや、酔い潰れるほど酒を飲んだのならこうした言動はあり得るのかもしれない──そう、自分を納得させようとした。
「……してる」
耳朶に触れるように唇を寄せられ、ライアンがぽつりと囁く。
その言葉を聞きたいようで聞きたくなくて、ミハルドはぎゅうと強く瞼を閉じた。
しっかりとした腕に抱き締められるのも、口付けられるのも気持ちがよかった。
けれど酔っている状態で愛を囁かれるのは違う気がして、叶うならば今すぐにでも突き飛ばして部屋に戻りたかった。
しかし身体は一向に動かず、指先一本たりと力が入らない。
腰が砕けてしまったのか、このままではライアンに支えられないと立てそうにもなかった。
「……なぁ、ミハルド」
「う、っ」
するりと手を取られ、深く絡め合わされる。
指の一つ一つが触れるそれは、情事の雰囲気を思わせるには十分だった。
「お前は俺を……どう思ってる」
あまりにも切なげな声で尋ねられ、何を言われたのかすぐには頭が働かなかった。
ライアンの言っている意味が親愛としてなのか、はたまた恋愛としてなのか、とてもではないが即座に答えられない。
「どう、とは……あの日伝えたはず、ですが」
直接的な言葉を自分から言うには憚られて、そもそもライアンが覚えているかどうかすら分からないが、ミハルドは掠れた声で答えた。
「そう……か」
するとライアンは身体を離し、不意に立ち上がる。
足はしっかりと床を踏み締めていて、酔っている気配は微塵も感じない。
「おいで」
そう言うと手を差し出され、どうしたものか戸惑っているとぐいと手首を摑まれ、立ち上がらせてきた。
「っ……!」
唐突な強い力にぐらりと身体が傾き、けれどしっかりとライアンに抱き留められる。
同時に今の自分達の状況を嫌でも理解してしまい、羞恥心以上にずきずきとこめかみが痛んでくる。
ライアンは上裸で、すべてボタンを外されているがミハルドは未だシャツを纏った中途半端な格好なのだ。
間近で見ると年齢以上にがっしりとした身体つきは、そこらの衛兵はもちろん、ミハルドにも負けないほど鍛え上げられている。
ただ、身長差はあまりないため、自分よりもわずかに下にある瞳を見るのが怖かった。
「……やめ、てください」
ミハルドは瞳を伏せ、力ない声で拒絶の言葉を吐く。
正直なところ下半身が気持ち悪くて、今すぐにでも取り払ってしまいたい。
けれどライアンに支えられていないと満足に動けず、つくづく情けなくて収まっていた涙が溢れそうになる。
「どうしてそんなことを言うんだ」
更に胸元に引き寄せられ、ぽんと頭を撫でられる。
その手つきが優しくて、図らずもライアンの匂いを胸いっぱいに感じて、懸命に堪えていた涙腺が再度崩れるには十分過ぎた。
「お、れ……は」
年甲斐もなく涙を流すさまは、端から見れば滑稽以外の何ものでもないだろう。
声を出そうとする度にしゃくり上げ、上手く呼吸ができない。
「……すまない、言わなくていい」
けれどライアンは最後まで聞くことなく、短く息を吐いた。
同時に身体を離される気配がして、わずかに安堵する。
(これで部屋に戻れる)
すぐ隣りではあるが、自室に入ってしまえばこちらのものだ。
しかし一瞬でも身体の力を抜いたのがいけなかったのか、不意に強い力で背中を押され、目の前にあったライアンのベッドへ頭から倒れ込む。
「な、にを……っ!?」
少しの汗とライアンの匂いが鼻腔を擽った刹那、ミハルドは本能のまま振り返ろうとしたができなかった。
腰の辺りにライアンが乗り上げる形になり、首の辺りに手を掛けられて少し苦しい。
「っ、ライ……」
それでもなんとか名前を呼ぼうとすると、首に込められた手の力がわずかに強まる。
「っ、は……」
あまりに自分勝手な仕草に、ミハルドは小さく呻く。
互いの衣服越しに熱が伝わると同時に、先程放った精がぐじゅりとくぐもった音を立てて恥ずかしい。
「──今からお前を抱く」
ふと放たれた低く威圧感のある声は、国王としてのそれだ。
なのに声音はこの状況に似つかわしくないほど優しくて、疑問ばかりが浮かんだ。
結婚しろと言ってきたのは、想いを伝えてもあっさりと聞き流したのは、外でもないライアンだ。
この気持ちを断ち切れるのならばと結婚の申し出を了承したが、パーティーでのアイリスとの姿を見ても表情一つ変えなかったではないか。
それが今やライアンに押し倒され、顔は見れないものの『自分を抱く』と言われたのだ。
確かに一度でいいから、ライアンに抱いて欲しいと思っていた。
そんな幻想を抱くくらいは許されるだろうと思いながら、時々そういう夢を見ては自分を慰める日々だった。
なのにいざ同じ状況になれば、好いた男が酒に酔っている状態で愛されるのは嫌などという、矛盾した気持ちがミハルドの心を満たす。
「……ひ、っ」
ミハルドが猜疑心にも似た感情を覚えていると、いつの間にか下着ごとスラックスを脱がされているのに気付く。
抑えを失ったことで、未だに張り詰めて主張する雄茎がぶるりとまろび出る。
丸みを帯びた先端は透明な涙を零し、腹に付きそうなほど反り返っていた。
それは死んでしまいたいほど恥ずかしくて、このまま気絶してしまえばどんなに楽か──そこまで考えると、不意にぐいと腰を高く持ち上げられる。
大きな手で痕が付くほどがっちりと腰を摑まれ、痛いほどだ。
「は、っ……はぁ……っ」
反射的に上半身を支えている腕がぶるぶると震え、次第に下半身の力までも抜けそうになる。
何も纏っていない臀部にライアンの視線が絡みつき、その様子を想像しただけで新たな蜜が溢れ、血管の浮き出た竿を伝う。
すると腰を摑んでいた手が秘められた場所を割り開き、ふうっと息を吹き掛けられたのか、かすかな冷気を感じた。
「ゃ、いや……だ、っ」
動きたくとも背後からの威圧感も相俟って、首を振って抵抗の意思を示すしかできない。
(こんな、格好……死んだ方がマシだ)
ライアンはただ黙ったまま、己の雪のような白い肌をじっと見つめている。
きっと期待と恐怖とで蠢く秘孔までも、ライアンの目にすべて映っているのだろう。
「──力を抜け。大丈夫、お前はいい子だから」
ほろほろと滂沱の涙を流していると、不意にライアンの声がいやに近くで聞こえた。
それはライアンが上体を倒したからで、覆い被さってきたと気付くのはすぐだった。
肌の熱さと鼓動の速さを衣服越しに感じ、びくりと肩が震える。
「ひ、っ……!」
同時に後孔に熱く滾ったものをあてがわれ、ひゅうと喉が引き攣ったように上下する。
尻のあわいに熱杭が擦り付けられたかと思えば、未だ『本物』を受け入れたことのない窄まりにライアンのそれが何度も往復した。
いつ挿入されるのか分からない恐怖と、それ以上の期待とでぶるりと雄が左右に揺れる。
「ミィ……ミハ、ルド……」
耳元でしっとりと名を囁かれたのを最後に、ひと息に太い先端を挿入された。
「はっ……あ、ああぁ……!」
ろくに慣らされていないものの、ライアンの長大なものはごりごりと肉壁を進み、最奥を突き上げる。
ミハルドは酸素を求めてはくはくと口を開閉させ、あまりに大きく深い悦楽にびゅるりと雄茎から白濁が溢れた。
「あ、は……ぁっ」
頭の中が白く染まり、がくがくと腰が痙攣する。
けれどそれで終わりではないと、悲しいかな理解していた。
腹に収まる欲望がゆっくりとした動きで引き抜かれ、身体の節々が軋むほど力強く穿たれる。
「ミハル、ド……ミハルド……」
ぶつぶつと独り言のようにライアンが何度も名を呼ぶ。
それに合わせて内壁がきゅうと収縮し、腹の中を無遠慮に突き上げるものの大きさと硬さを、まざまざと感じさせられた。
「ライ、さま……ぁ」
ミハルドは無意識に振り向き、ライアンの方に顔を向ける。
先程のような威圧感はなくなっており、ただただ雄としての欲望の炎が青い瞳に灯っていた。
気だるい身体を叱咤して、ぐいとライアンの首に腕を回す。
すぐ側にある唇に自分からそっと口付けると、ライアンは軽く目を瞠った。
しかしそれも一瞬で、かすかに開いた唇の隙間からライアンの肉厚な舌が侵入した。
「ん、んぅ……ふ、っう」
上からも下からもぬちぬちと音が響き、次第に耳までも犯されていく。
離れないよう、いつの間にかしっかりと繋がれている手の平に力がこもる。
同時に力強い動きで最奥を責め立てられ、ライアンの動きが次第に大きく速くなる。
「は、あ……っぁ、あぁ……!」
休む間もなく深い場所を重点的に突き上げられる刺激に、がくんと上半身の力が抜け、ミハルドはベッドへ身体を沈ませた。
口からはひっきりなしに喘ぎが溢れ、最早何を言っているのか自分でも分からない。
首筋に掛かるライアンの息遣いすらも甘い官能と化し、ぶるりと背筋が震えた。
「ミィ……、してる……お前の、ことを──」
ライアンが耳朶に触れるように言いながら、更に腰の動きを速める。
甘さを含んだ低く穏やかな声音も、愛おしさを隠そうとしない口付けも、何もかもが法悦に変わっていく。
「く、っ……」
やがて喉の奥から低く押し殺すような声が聞こえたと同時に、どくんと剛直が大きく膨らみ、最奥へ熱い飛沫を浴びせられた。
「ぁっ、あぁ──!」
びゅくびゅくと打ち付けられる熱さに追い立てられるように、ミハルドは三度目の絶頂を迎えた。
ちゅくちゅくと出し入れされる舌は生き物のようで、呼吸の仕方が分からない。
苦しさと恥ずかしさとで、生理的な涙が目尻を伝っていく。
まだ寝ぼけているのはもちろん、酔っているからこういう事をするのだ。
そう自分に言い聞かせ、ライアンの腕から逃げようとするも、思っていた以上に身体に力が入らなかった。
ただでさえミハルドは他の人間に比べて酒をほとんど飲まず、飲んだとしてもすぐに酔ってしまう。
度数の低いものであってもあまり飲めず、酒を注がれてもやんわりと固辞し、甘いものを食べてやり過ごしていた。
(はやく、にげ……ない、と)
じんわりとした酩酊感に焦りも手伝って、ミハルドは無意識に身体を捩る。
ライアンは更に抱き締める腕に力を込め、口付けは更に深くなっていった。
歯列の一本一本まで丁寧に舐め、時折口蓋を掠めるように擽っていく。
頬の内側を舐めたかと思えば、舌先をきつく吸い上げられる。
飲み込み切れなかった唾液が顎を伝い、首筋を流れていくのがぼうっとした意識の中で分かった。
「ふ、ぁ……っ」
やがてライアンが唇を離し、かすかに腕の力を緩める。
しかし拘束する力が完全になくなった訳ではなく、別の場所に唇を這わされる。
下ろしている髪を無造作に片側へ寄せると、首筋を辿るように熱い唇が滑り、鎖骨へと流れ落ちる唾液を舐め取る。
露出しているところに余すことなく唇が触れていき、今すぐに離れないとと思うのに、ライアンから与えられる刺激で腰が蕩けた。
すると首筋にぴりりとした痛みが走り、ミハルドは反射的に頬の内側を噛んで喘ぎを押し殺す。
「っ、あ……?」
弾みつつある声を抑えると、うっすらと目を開けた。
ライアンは瞼を伏せて己の首筋に赤い花をいくつも散らしており、それだけでなくいつの間にかシャツの半分ほどを脱がされていた。
かすかな冷気が肌を刺し、ふるりと身震いする。
けれどそれ以上に身体は熱を放ち、悦楽を与えてくれるライアンの姿に、とぷりと中心が蜜を零すのが嫌でも分かった。
「ら、い……さま」
──このままではまずい。
ミハルドはすべての理性を掻き集め、あえかな声でライアンを呼んだ。
なのにライアンは一切こちらを見てくれず、更にボタンを外していく。
シャツの下から桃色の突起が姿を表すと、ライアンはそこへむしゃぶりついた。
「あ、あぁ……!?」
じゅう、ときつく吸われたと思ったのも束の間、控えめに主張する尖りを甘噛みされる。
反対も忘れることなく指先で軽く引っ張られたかと思えば、押し潰すように捏ね回される。
ちゅうちゅうと幼子のように吸われ、舌先で小刻みに乳頭を刺激されては堪らない。
小さくも強い刺激が次第に官能に変わるには十分で、ミハルドは弱々しく首を振る。
(ちがう、おれは……こんな)
じわじわとやってくる悦楽を逃がしたくて、それでもライアンは止めてくれない。
むしろ更に舌使いが激しくなり、愛撫している反対の突起をきゅうとわずかに強く捻られる。
「ゃ、っ……ライ──っあ……!」
静止する声は喘ぎに変わり、目の前を小さな星がいくつも瞬いた。
同時にスラックスと下着を突き抜け、じわりと精が滲む。
「や……っ」
甘く深い吐精感に、ミハルドは大きく目を見開いて無意識にライアンの頭を掻き抱く。
その拍子に生理的な涙が溢れ、ほろほろと頬を伝った。
「──ミィ」
するとライアンはおもむろに身体を離し、至近距離で視線が混じり合う。
深く青い瞳がこちらをじっと見つめており、頬が林檎のように赤くなっている己の姿が映った。
「あ、っ……」
しかしその声は、自分ではない誰かに向けられているのだ。
ライアンが愛おしそうに己を見ているのは、ひとえに今はもう亡い正妃──ミシェルなのだから。
「……ミハルド」
「っえ、……?」
なのに、ふとライアンが紡いだ名前は聞き間違いだろうか。
口付けや愛撫は都合のいい幻覚で、今すぐに意識を手放せば隣りのベッドで寝ているのだ。
そう思いたかった。
「ミハルド」
けれど己の考えとは裏腹に、はっきりとした愛おしさを隠すことなく名前を呼ばれた。
「ライアン、さま……?」
震える声はそのままに、ミハルドは目の前の男の名を唇に乗せる。
するとライアンは淡く微笑み、ぎゅうと抱き締めてきた。
「っ……!」
先程に比べて優しく、こちらを労るような抱擁に涙が引っ込む。
(なんで……ミシェル様じゃなくて、俺の名を)
それだけでも驚いたというのに、ライアンの行動が分からない。
いや、酔い潰れるほど酒を飲んだのならこうした言動はあり得るのかもしれない──そう、自分を納得させようとした。
「……してる」
耳朶に触れるように唇を寄せられ、ライアンがぽつりと囁く。
その言葉を聞きたいようで聞きたくなくて、ミハルドはぎゅうと強く瞼を閉じた。
しっかりとした腕に抱き締められるのも、口付けられるのも気持ちがよかった。
けれど酔っている状態で愛を囁かれるのは違う気がして、叶うならば今すぐにでも突き飛ばして部屋に戻りたかった。
しかし身体は一向に動かず、指先一本たりと力が入らない。
腰が砕けてしまったのか、このままではライアンに支えられないと立てそうにもなかった。
「……なぁ、ミハルド」
「う、っ」
するりと手を取られ、深く絡め合わされる。
指の一つ一つが触れるそれは、情事の雰囲気を思わせるには十分だった。
「お前は俺を……どう思ってる」
あまりにも切なげな声で尋ねられ、何を言われたのかすぐには頭が働かなかった。
ライアンの言っている意味が親愛としてなのか、はたまた恋愛としてなのか、とてもではないが即座に答えられない。
「どう、とは……あの日伝えたはず、ですが」
直接的な言葉を自分から言うには憚られて、そもそもライアンが覚えているかどうかすら分からないが、ミハルドは掠れた声で答えた。
「そう……か」
するとライアンは身体を離し、不意に立ち上がる。
足はしっかりと床を踏み締めていて、酔っている気配は微塵も感じない。
「おいで」
そう言うと手を差し出され、どうしたものか戸惑っているとぐいと手首を摑まれ、立ち上がらせてきた。
「っ……!」
唐突な強い力にぐらりと身体が傾き、けれどしっかりとライアンに抱き留められる。
同時に今の自分達の状況を嫌でも理解してしまい、羞恥心以上にずきずきとこめかみが痛んでくる。
ライアンは上裸で、すべてボタンを外されているがミハルドは未だシャツを纏った中途半端な格好なのだ。
間近で見ると年齢以上にがっしりとした身体つきは、そこらの衛兵はもちろん、ミハルドにも負けないほど鍛え上げられている。
ただ、身長差はあまりないため、自分よりもわずかに下にある瞳を見るのが怖かった。
「……やめ、てください」
ミハルドは瞳を伏せ、力ない声で拒絶の言葉を吐く。
正直なところ下半身が気持ち悪くて、今すぐにでも取り払ってしまいたい。
けれどライアンに支えられていないと満足に動けず、つくづく情けなくて収まっていた涙が溢れそうになる。
「どうしてそんなことを言うんだ」
更に胸元に引き寄せられ、ぽんと頭を撫でられる。
その手つきが優しくて、図らずもライアンの匂いを胸いっぱいに感じて、懸命に堪えていた涙腺が再度崩れるには十分過ぎた。
「お、れ……は」
年甲斐もなく涙を流すさまは、端から見れば滑稽以外の何ものでもないだろう。
声を出そうとする度にしゃくり上げ、上手く呼吸ができない。
「……すまない、言わなくていい」
けれどライアンは最後まで聞くことなく、短く息を吐いた。
同時に身体を離される気配がして、わずかに安堵する。
(これで部屋に戻れる)
すぐ隣りではあるが、自室に入ってしまえばこちらのものだ。
しかし一瞬でも身体の力を抜いたのがいけなかったのか、不意に強い力で背中を押され、目の前にあったライアンのベッドへ頭から倒れ込む。
「な、にを……っ!?」
少しの汗とライアンの匂いが鼻腔を擽った刹那、ミハルドは本能のまま振り返ろうとしたができなかった。
腰の辺りにライアンが乗り上げる形になり、首の辺りに手を掛けられて少し苦しい。
「っ、ライ……」
それでもなんとか名前を呼ぼうとすると、首に込められた手の力がわずかに強まる。
「っ、は……」
あまりに自分勝手な仕草に、ミハルドは小さく呻く。
互いの衣服越しに熱が伝わると同時に、先程放った精がぐじゅりとくぐもった音を立てて恥ずかしい。
「──今からお前を抱く」
ふと放たれた低く威圧感のある声は、国王としてのそれだ。
なのに声音はこの状況に似つかわしくないほど優しくて、疑問ばかりが浮かんだ。
結婚しろと言ってきたのは、想いを伝えてもあっさりと聞き流したのは、外でもないライアンだ。
この気持ちを断ち切れるのならばと結婚の申し出を了承したが、パーティーでのアイリスとの姿を見ても表情一つ変えなかったではないか。
それが今やライアンに押し倒され、顔は見れないものの『自分を抱く』と言われたのだ。
確かに一度でいいから、ライアンに抱いて欲しいと思っていた。
そんな幻想を抱くくらいは許されるだろうと思いながら、時々そういう夢を見ては自分を慰める日々だった。
なのにいざ同じ状況になれば、好いた男が酒に酔っている状態で愛されるのは嫌などという、矛盾した気持ちがミハルドの心を満たす。
「……ひ、っ」
ミハルドが猜疑心にも似た感情を覚えていると、いつの間にか下着ごとスラックスを脱がされているのに気付く。
抑えを失ったことで、未だに張り詰めて主張する雄茎がぶるりとまろび出る。
丸みを帯びた先端は透明な涙を零し、腹に付きそうなほど反り返っていた。
それは死んでしまいたいほど恥ずかしくて、このまま気絶してしまえばどんなに楽か──そこまで考えると、不意にぐいと腰を高く持ち上げられる。
大きな手で痕が付くほどがっちりと腰を摑まれ、痛いほどだ。
「は、っ……はぁ……っ」
反射的に上半身を支えている腕がぶるぶると震え、次第に下半身の力までも抜けそうになる。
何も纏っていない臀部にライアンの視線が絡みつき、その様子を想像しただけで新たな蜜が溢れ、血管の浮き出た竿を伝う。
すると腰を摑んでいた手が秘められた場所を割り開き、ふうっと息を吹き掛けられたのか、かすかな冷気を感じた。
「ゃ、いや……だ、っ」
動きたくとも背後からの威圧感も相俟って、首を振って抵抗の意思を示すしかできない。
(こんな、格好……死んだ方がマシだ)
ライアンはただ黙ったまま、己の雪のような白い肌をじっと見つめている。
きっと期待と恐怖とで蠢く秘孔までも、ライアンの目にすべて映っているのだろう。
「──力を抜け。大丈夫、お前はいい子だから」
ほろほろと滂沱の涙を流していると、不意にライアンの声がいやに近くで聞こえた。
それはライアンが上体を倒したからで、覆い被さってきたと気付くのはすぐだった。
肌の熱さと鼓動の速さを衣服越しに感じ、びくりと肩が震える。
「ひ、っ……!」
同時に後孔に熱く滾ったものをあてがわれ、ひゅうと喉が引き攣ったように上下する。
尻のあわいに熱杭が擦り付けられたかと思えば、未だ『本物』を受け入れたことのない窄まりにライアンのそれが何度も往復した。
いつ挿入されるのか分からない恐怖と、それ以上の期待とでぶるりと雄が左右に揺れる。
「ミィ……ミハ、ルド……」
耳元でしっとりと名を囁かれたのを最後に、ひと息に太い先端を挿入された。
「はっ……あ、ああぁ……!」
ろくに慣らされていないものの、ライアンの長大なものはごりごりと肉壁を進み、最奥を突き上げる。
ミハルドは酸素を求めてはくはくと口を開閉させ、あまりに大きく深い悦楽にびゅるりと雄茎から白濁が溢れた。
「あ、は……ぁっ」
頭の中が白く染まり、がくがくと腰が痙攣する。
けれどそれで終わりではないと、悲しいかな理解していた。
腹に収まる欲望がゆっくりとした動きで引き抜かれ、身体の節々が軋むほど力強く穿たれる。
「ミハル、ド……ミハルド……」
ぶつぶつと独り言のようにライアンが何度も名を呼ぶ。
それに合わせて内壁がきゅうと収縮し、腹の中を無遠慮に突き上げるものの大きさと硬さを、まざまざと感じさせられた。
「ライ、さま……ぁ」
ミハルドは無意識に振り向き、ライアンの方に顔を向ける。
先程のような威圧感はなくなっており、ただただ雄としての欲望の炎が青い瞳に灯っていた。
気だるい身体を叱咤して、ぐいとライアンの首に腕を回す。
すぐ側にある唇に自分からそっと口付けると、ライアンは軽く目を瞠った。
しかしそれも一瞬で、かすかに開いた唇の隙間からライアンの肉厚な舌が侵入した。
「ん、んぅ……ふ、っう」
上からも下からもぬちぬちと音が響き、次第に耳までも犯されていく。
離れないよう、いつの間にかしっかりと繋がれている手の平に力がこもる。
同時に力強い動きで最奥を責め立てられ、ライアンの動きが次第に大きく速くなる。
「は、あ……っぁ、あぁ……!」
休む間もなく深い場所を重点的に突き上げられる刺激に、がくんと上半身の力が抜け、ミハルドはベッドへ身体を沈ませた。
口からはひっきりなしに喘ぎが溢れ、最早何を言っているのか自分でも分からない。
首筋に掛かるライアンの息遣いすらも甘い官能と化し、ぶるりと背筋が震えた。
「ミィ……、してる……お前の、ことを──」
ライアンが耳朶に触れるように言いながら、更に腰の動きを速める。
甘さを含んだ低く穏やかな声音も、愛おしさを隠そうとしない口付けも、何もかもが法悦に変わっていく。
「く、っ……」
やがて喉の奥から低く押し殺すような声が聞こえたと同時に、どくんと剛直が大きく膨らみ、最奥へ熱い飛沫を浴びせられた。
「ぁっ、あぁ──!」
びゅくびゅくと打ち付けられる熱さに追い立てられるように、ミハルドは三度目の絶頂を迎えた。
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