猫被りも程々に。

ぬい

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September

くじ引き

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夏休みが明け、始業式、休み明けのテスト、体育祭の種目決めが流れるように終わった。

となると残りは例のアレを決めるのみ。
今日は俺の今後の人生を駆けた運命の日である。

「では、順番にくじをどうぞ」

会長が微笑みながら差し出したのは白くて四角い箱。
集められた生徒達は1列に並び、詰まることなく順番にくじを引いていく。

俺は死ぬほど緊張していた。
こんな緊張しているのはこの学園の合格発表以来と言っていもいい。
試験日の朝に高熱が出してしまい、意識が朦朧としている中で何とか解答欄を埋めた特待生試験の合格発表を見に行ったあの日くらい緊張していた。

(…なるべく1年生の風紀委員に当たりますように)

緊張のあまり手が震えている。
この時間が1番しんどいので早くくじを引いてしまいたい。

並んでいる間そんなことを考えていた俺は順番がくるなり勢いよく箱の中に手を突っ込み、そしてすぐ様紙を開いて書かれている番号を確認した。

「…3番です」
「あたしも3番だ」

聞こえた声に振り返ると、綺麗に伸ばした黒髪に少し女性らしさのある整った顔。
声の主はよく久我と喧嘩している生徒会の書記の櫻木悠加さくらぎはるかだった。

咄嗟に声が出ないまま、引いた紙から顔を上げると箱の前にいた会長と目が合う。すると俺にしか聞こえないくらい小さい声で「頑張れ」と言われ、ようやくこの現実を受け止めた。

「話すの初めてよね?よろしく」
「あ、よろしく…お願いします…」
「同級生なんだから敬語じゃなくていいわよ」

親衛隊持ちだし、話したことないし、何より生徒会の時点で死にたい。
いいなぁ~と声を上げている連中に変わりましょうかと声を掛けてやろうかと思ったが流石にそれはやめた。

(ていうか、地味に二人きりってのがキツい…)

俺には理久以外にこの学園で気軽に話せる同級生が居ない。
理由はなかなか話が合わないから。
それもそうだ。この学園はお金持ちばかりが通っている。だから一般庶民の俺なんかと話が合うわけない。

唯一話せるのは母親がお金持ちと再婚して急にここ通うことになった同じ外部生の理久だけ。後は趣味の合う要先輩。まあ最近で言うと会長もか。

そんな俺が同級生とはいえ生徒会の人間とフレンドリーに話せる訳がないのだ。しかも1時間近くも。
もう既に胃が痛い。

「僕、10番です」
「えー!10番って会長じゃん!羨ましい~!」

なんて心の叫びなんて他の奴らがわかるはずも無く、会長のペアは白木だった話題でもちきり。羨ましいだのなんだのと盛り上がっていた。
いや、ほんと羨ましい。これなら俺も会長と組んだ方が良かった。てかなんならまだ話したことのある白木が良かった。

ストレスで痛む胃をなんとか誤魔化すため、眩しいくらいの青空を窓から眺め、残りの時間をやり過ごす。

他の奴らのクジの結果なんてどうでもいいから帰りたい。とにかくいまの俺の心境を誰かに吐き出したい気持ちでいっぱいだ。

そんな地獄のようなくじ引きも終わり、あとは体育祭の準備だけ。

生徒会は勿論忙しく、競技の次は応援団についてやら部活対抗リレーやらで決めることが沢山あるらしい。
とりあえず今日も今日とて無事生徒会の仕事の手伝いが終えた俺はスマホでニュースを眺めていると通知で携帯が震える。

通知を開けば、要先輩から写真付きのメッセージが一件。
内容は[課題の量、すごい(T_T)]と涙を流している顔文字付きの文章と大量のプリントや問題集の画像だった。

「うっわー、それ要の休んだ分の課題?」
「らしいです」
「いつまでに終わらせるの?」
「文化祭までだけど早く授業に参加したいから体育祭までに終わらせるって」

どうやら会長もひと段落した様子で後ろから覗き込むように携帯画面を見た後、ソファーに座る。

「ていうか、いいですね。白木とペア」
「そっちこそ櫻木で良かったじゃん。生徒会メンバーの中じゃ1番当たり引いたんじゃない?」

話しやすいし、久我が関わらなければ良い奴だよ、と言われたが、どうでも良さそうな声で携帯を弄る姿を見るとあんまり信用出来そうにない。
大体、俺は久我と喧嘩してるとこしか見た事ないし。

「これなら会長と組んだ方がマシだったな…」
「会長と組みたいです。お願いします。って懇願してくれたら組んであげてもいいけど」
「それは絶対やだ」

そんなこと言うくらいなら今ここで舌噛みちぎって死ぬわ。

相変わらずの会長に溜め息を吐きつつ、体育祭がどうか平和に過ぎますようにと願いながら俺は要先輩に返信するため親指を動かした。
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