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クロの視線
しおりを挟む家に着き、荷物を片していく。
クロは良く寝ているな。
買い出し前と今では寝方が違うが・・・。
クロに近付き、タオルケットを掛けてやろうと手を伸ばした時、気付いた。
・・・涙・・・?
寝ながら涙を流すクロ。
?!病気か?
おでこを触るが、熱が高いようには感じない。
ヒトが泣いている時の対処方なんて、見た時も聞いた時もないぞ。
まずヒトは・・・産まれたて以外では泣かないのではなかったか?
縄張り争いで傷つこうが、仲間が殺されようが・・・ヒトが持つ感情は怒りと喜びだけで、哀愁はほぼ持たないと言われている。
病院に電話するか。
『はい、こちらライオネル病院相談受付です』
「聞きたいことがあるのだが」
『はい、いかがいたしましたか?』
「ヒトが泣いている時の対処法を聞きたくてな」
『鳴いている時ですか?』
「ああ。寝てはいるのだが、涙を流し続けていてな」
『涙!?え、泣いているのですか?歳は幾つの子になりますか?』
「12~14だと聞いている」
『まだ幼体ですね。親個体は近くに居ますか?』
「いや、保護個体だから居ない」
『保護個体ですか・・・熱は無いですか?』
「特に変わらないな」
『少し様子を見ましょう。幼体は親を探して泣く場合があります。群れで生活する種族ですから。起きてもまだ泣く様でしたら、一度来院頂けますか?』
「分かった。ありがとう、失礼する」
『はい、失礼致します』
電話を切り、クロの頭を撫でる。
そうか、幼体・・・まだ子供なんだよな。
子供のような素振りを見ていなかったから失念していた。
群れか・・・クロにも相性の良い別個体をあてがうべきか?
一体でも二体でもそんなに変わりはしないし・・・。
いや、でもな・・・クロは普通のヒトに比べれば異質の様に大人しく賢い。
ヘタな個体をあてがって、マネをしだしたら俺では手に負えなくなる可能性もある。
今はとりあえず様子見で、何かあれば病院へ行けるように準備しておくか。
「んぐ、ぐるるあ」
暫く様子を見ていたが、数分程度で涙は止まりそれと同時にクロは起きた。
今ではゴロリゴロリと床で何事も無かったかのように寝転がっている。
喉を鳴らしてぬいぐるみと一緒に寝転ぶ姿は、確かに子供っぽいな。
そろそろ夕飯の支度でもするか。
煮込みが終わったらクロの為に少し冷まさないといけないしな。
俺がキッチンで下拵えをしている間、クロはずっとこっちを見ていた。
腹が減ったのか?
買ってきたおやつを食べさせてみるか?
冷蔵庫から1番手前にあったプリンを一つ取り出し、クロ用のスプーンを持って机に移動する。
「クロ」
ポンポンと自分の腿を叩くと、クロは此方へやってきた。
椅子に座らせ、クロの前に蓋を開けたプリンを置き、一掬いして口元に持っていくとクロは口を開けた。
口の中で何度か噛んだ後、クロは手を頬に持っていった。
・・・美味かったんだろうな。
スプーンを手渡すと、クロは自分でプリンを食べ出した。
幸せそうに目を細め口が綻んでいる姿は、ヒトの形をしたただの子供に見える。
キッチンに戻って夕飯の支度を再開する。
プリンは食べた・・・なら、ゼリーも食べてくれるだろう。
明日のおやつはゼリーにしよう。
みかん、桃、パイナップル、さくらんぼ・・・どの果物が一番食いつきが良いのか確かめないとな。
グツグツと煮える鍋に蓋をし、タイマーをセットしてソファに移動する。
ソファの上に寝転がりクロを見ていると、空になったプリンの入れ物をゴミ箱に入れ、スプーンをキッチンに持っていった。
カラン、と音がしたから流しに入れたのだろう。
・・・片付けも出来るとは・・・クロはヒトの本来の姿から離れすぎやしないか?
子供だから、俺の真似をしているだけかもしれないが・・・いや、だからといって・・・。
クロはまたクッションに戻りぬいぐるみを抱きしめてこちらを見る。
・・・もしかして、俺が居なくならないか見ているのか?
クロは・・・俺を親か群れの長だと思っていたり・・・は、しないよな?
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