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燃え落ちる花盛りの屋敷 ※王子主軸
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ユースレスは息を切らせながら、王宮の階段を駆け上がる。
最上階まで辿り着くと、窓を大きく開いた。
いつもなら美しく刈り込まれた大庭園が眼下に広がり、さらに向こうには王都の家々や教会の尖塔が臨めるはずだった。
しかし、今の王都は、不気味な薄靄のヴェールに閉じ込められ、あちこちから黒煙が上がっていた。
――あの中のどれかが……リュゼ公爵邸なのか……?
まだ春先だというのに、モルテの屋敷は花盛りだったそうだ。満開の花々はすべて火災で燃え落ちたという。
『ユースを支える後ろ盾に』
そう言って頬を染めた横顔。最後は目も合わさずに別れた初恋の従妹。
「イ、イルミテラ……うあ、ああ……」
窓から離れ、耳を塞いでその場にうずくまる。
「ウソだ、こんなのウソだ。悪い夢だ。早く覚めてくれえ……!」
何度も祈ったが、やはり悪い夢でも幻覚でもなかった。
翌日、ごくわずかな人数で母を見送り、そのさらに翌日には辺境伯に連れられて、ユースレスは追い出されるように王宮を後にした。
父王は会議で見せた息子の浅慮さに失望したろうが、それでも父親らしく「しっかりやれ」と短く励ましをよこした。
「ご心配めさるな、王子。魔獣どもを御しきるまで、しばしの別れよ」
王都を離れる馬車の中で、辺境伯はそう言って、号泣するユースレスを不器用に慰める。愛する人を失ったという己と同じ境遇に共感してか、態度からは刺々しさが消えていた。
父、家臣、王宮、教会、輝かしい王都。
ユースレスは、目に焼き付ける思いで、車窓を流れゆく王都を見つめた。もう二度とここに戻ってこられないかもしれない。そう思って、道に落ちた古長靴の色まで脳裏に刻み込んだ。
――しかし、そのわずか4ヶ月後。
ユースレスは再び王都に戻って来た。右足と辺境伯を失った姿で。
最上階まで辿り着くと、窓を大きく開いた。
いつもなら美しく刈り込まれた大庭園が眼下に広がり、さらに向こうには王都の家々や教会の尖塔が臨めるはずだった。
しかし、今の王都は、不気味な薄靄のヴェールに閉じ込められ、あちこちから黒煙が上がっていた。
――あの中のどれかが……リュゼ公爵邸なのか……?
まだ春先だというのに、モルテの屋敷は花盛りだったそうだ。満開の花々はすべて火災で燃え落ちたという。
『ユースを支える後ろ盾に』
そう言って頬を染めた横顔。最後は目も合わさずに別れた初恋の従妹。
「イ、イルミテラ……うあ、ああ……」
窓から離れ、耳を塞いでその場にうずくまる。
「ウソだ、こんなのウソだ。悪い夢だ。早く覚めてくれえ……!」
何度も祈ったが、やはり悪い夢でも幻覚でもなかった。
翌日、ごくわずかな人数で母を見送り、そのさらに翌日には辺境伯に連れられて、ユースレスは追い出されるように王宮を後にした。
父王は会議で見せた息子の浅慮さに失望したろうが、それでも父親らしく「しっかりやれ」と短く励ましをよこした。
「ご心配めさるな、王子。魔獣どもを御しきるまで、しばしの別れよ」
王都を離れる馬車の中で、辺境伯はそう言って、号泣するユースレスを不器用に慰める。愛する人を失ったという己と同じ境遇に共感してか、態度からは刺々しさが消えていた。
父、家臣、王宮、教会、輝かしい王都。
ユースレスは、目に焼き付ける思いで、車窓を流れゆく王都を見つめた。もう二度とここに戻ってこられないかもしれない。そう思って、道に落ちた古長靴の色まで脳裏に刻み込んだ。
――しかし、そのわずか4ヶ月後。
ユースレスは再び王都に戻って来た。右足と辺境伯を失った姿で。
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