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13.辺境伯の仕事 その1
しおりを挟む「なるほど、これは何とかしないといけないね」
エディエットは馬に乗り畑を見に来ていた。
ウルゼン国の南に位置するから、王都よりも暖かく、本来は作物の育ちは良かった。けれど、魔獣の森が近いのがいけないのか、土地が痩せているのだ。
「肥料、かなぁ」
エディエットは畑の土を手に取り呟いた。畑だと言うのに土に全く力を感じない。それが生命力なのか魔力なのかと聞かれると、エディエットも説明は出来ないけれど、とにかく土に力がないのだ。
そもそも、浄化の魔石がトイレに設置されているから、汚物のせいで疫病が蔓延するなんてのとのない安全な世界だ。そして、その弊害として肥溜めと言う無料の堆肥が存在しないのだ。
「腐葉土……は、あれしかないのか」
落ち葉を集めて作られる天然の肥料は完成まで時間がかかる。魔獣の血は穢れだけれど、その骨は滋養があるようで、細かく砕いて畑に撒けばなかなかよい肥料にはなる。ただ、なかなか分解されないという欠点がある。丈夫すぎて土になかなか馴染まないのだ。
「あ、たくさんある場所がすぐそこにあったね」
「は?何処です?」
聞き返したのは商業ギルドで農業を担当しているモントンだ。ここ数年、作物の育ちが悪くて市場価格が上がりすぎて困っているのだ。
「そこだよ。魔獣の森」
エディエットが笑いながら答えると、モントンは顔を青くした。
「そ、そ、そ、伯爵様?魔獣の森で肥料なんて、どうやって?」
「絶対に溜まってるだろう?落ち葉が。それが腐葉土になっているはずなんだ」
そう言うと、エディエットはそばにいた小鳥を呼び寄せ意識を同調させた。そうして、魔獣の森を飛び回る。
「うん、結構あるな」
「は?あの、いや、伯爵様?」
モントンは混乱してしまう。視覚同調なんて魔法はそう簡単にできるものでは無い。ついでに言えば、鳥を操ってもいるのだ。
「麻袋を数枚くれ」
「は、はいっ」
小屋から慌てて麻袋を持ってきたのは、この畑の農夫だ。綺麗な服を着たエディエットが、なんの躊躇いもなく畑に膝をつき、土を手にしたのを見て感動してしまったのだ。
土が痩せている。ということに気がつくあたり、適当に見に来たのではないことが分かる。そう、土に力がないというのは、すなわち、畑に作物を育てられるだけの蓄えがないということなのだ。
「じゃあ、ちょっと取ってくるから待ってて」
「えっ?」
「は、伯爵様?」
モントンも農夫も驚いた。
いや、いきなり本人が?
ここは冒険者ギルドに依頼を出すところなのでは?そう言いたかったのに、エディエットはもう馬に飛び乗り駆けていた。もちろん誰も止められない。エディエットを乗せた馬は街ではなく、そのまま砦の門へと向かって一直線だ。門番が慌てて叫び声を上げている。ものすごい騒ぎになったようだけれど、直ぐに静寂が訪れた。
「伯爵様、アグレッシブだなぁ」
農夫は畑に座り込んだモントンの肩を叩くのだった。
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