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15.辺境伯の仕事 その3

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 翌朝、エディエットは清々しい目覚めを迎えた。やはり体を動かすのはいいことだ。新しく雇った使用人たちもきちんと仕事をしくれているようで、エディエットの朝食を部屋に運んでくれた。
 そうして、エディエットがゆっくりと朝食を食べ終えた頃、廊下をバタバタと走る足音が聞こえた。

「何事だ?」

 王城にいた頃も、昨日までも、こんなにけたたましい足音は聞いた事後ない。エディエットが不審に思って確認しようと思ったら、その足音は正しくエディエットの部屋の前で止まった。そうして、忙しないノックの音がした。

「どうした?」

 色々言いたいことはあるけれど、まだなれない使用人に対していきなり叱りつけることも出来なくて、エディエットが何とか絞り出した言葉はそれだった。

「あ、あの、失礼します」

 そう言って入ってきてのは、ルミアの子コラルだった。今更許可を得てから入室するのだとか言っても無意味だろう。おそらく世話になっていた宿屋で教えられたのだろうから。

「廊下を走ってはダメだよ。危ないからね」

 これでも貴族の屋敷であるから、最低限のマナーは教えておかないといけない。

「あ、はい。すみません……あの」

 目上の者からの許可なく発言してはいけないと言うことも教えないといけないのだろうか?でもそんなことをわざわざ自分が教える必要なあるだろうか?エディエットは少し考えた。

「なにがあった?」

 この邸の主らしく口を開けば、コラルは背筋を伸ばして答えた。

「はい。農夫たちが畑のことで、と騒いでます」
「そうか、分かった」

 エディエットは答えるとコラルの頭を優しく撫でた。庭で遊んでいた中で年長なのがコラルなのだろう。警備をしている者は一人しかいないし、庭番を申し付けたのは年寄りだ。一番小回りがきくものがやってきた。ただそれだけの事だろう。
 頭を撫でられてコラルは嬉しそうに頬を染めた。おそらく、そうやって褒められたことなどないのだろう。母親の手伝いをし、弟の面倒をみる。それが当たり前として捉えられてきたから、当然宿屋のおかみからだって褒められたりはしなかっただろう。

「仲良く分けるんだよ」

 そう言ってエディエットはコラルの手に飴玉を握らせた。育ち盛りの子どもにおやつは必要だ。だが、それは空腹を満たすためのものが主流で、甘味など平民の、まして移民の子どもの口には届かない。幸いにも城にいた頃エディエットのポーチにはたくさんの菓子が入れられていた。それをそのままにしておいたから、王都で出回っていた高級な菓子がまだまだ入っている。
 ただそれを全て子どもたちに分け与えては宜しくないので、こうやって駄賃代わりに与えることにした。そうすれば甘味欲しさに子どもたちはお手伝いをすることだろう。平等に分け与えるようにすれば、抜け駆けだといって喧嘩が起こることも無いはずだ。エディエットは農夫の畑に行ったついでに子どもが喜びそうな甘味を見繕うことを頭に入れた。

 そうして門まで歩いていけば、農夫たちがデオに行く手を塞がれるかたちで待ち構えていた。もちろん、エディエットのかけた魔法の対象外であるから門の中に入れはしたが、護衛の任務に着いたデオからすれば、予定のない訪問者である以上これ以上中に進める訳には行かない。

「何があったかな?」

 エディエットが若き領主らしく声をかけると、途端に農夫たちが動いたなくなった。その顔はなんとも表現し難いものではあったが、誰もが皆エディエットに対して憧れ尊敬敬意そんな感情の目を向けているのがわかる。

「大変なんです領主様」
「そうです。伯爵様」
「畑が、大変なことになりました」

 口々に叫ぶように言うけれど、その声には歓喜にも似た感情が滲んでいる。エディエットは昨日の畑のことを考える。確か試しにと思って色々な種を撒いたはずだった。

「そうか、じゃあ早速見に行かなくてはいけないね」

 デオに見送られ、エディエットは気軽に農夫たちともに畑に向かって歩き出した。なんということだろう。ここにはエディエットの行動について嫌味を言うものも、いきなり仕事を押し付けてくるものもいないのだ。
 そうして、農夫たちと一緒に畑に行けば、昨日撒いたはずの種が育ちに育ち、トマトははち切れんばかりに実をならせ、豆はさやからその実を見せていた。葉物野菜は色濃くそして見たこともないほどに青々と育っていた。そして、芋は畑の畝からその姿が見えるほどに巨大に育っている。
 そしてなにより、エディエットがお試しに撒いた二十粒の小麦は恐ろしいほど実をつけ人の背丈ほどに育っていた。

「これは確かに大変だな」

 とんでもなく育ちすぎた作物を見て、エディエットは魔獣の森の腐葉土を甘く見ていたと内心舌打ちするしか無かった。とにかく畑の作物を収穫し、エディエットが鑑定をしてみると、作物には魔力は感じられなかった。そしてとても美味しく出来ていた。
 農夫たちと話し合い、この畑の土を周辺の畑に撒いみた。そうしたら、畑の作物はようやく普通通りに成長したが、実付きがよく、とても味が良かった。それをギルド経由でほかの領地で販売すれば大変良い収入になったので、魔獣の森の腐葉土は持ち出し禁止と定めることにしたのだった。
 こうして領地の食の問題は概ね解決したのだった。
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