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Ⅰ-Ⅲ.ぶっきらぼうなお隣さん─九条虎子─
9.オッケー観測器、百合カップルを探して。
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「ほんっとーにごめん!」
放課後。アテナを問い詰めて、わざわざ学生になってまでこの世界に出てきた理由を問い詰めて聞き出し、「定点観測器」などという、あのアフターケアが微塵もなってない女神が持ってきたにしてはなかなかに便利そうなアイテムも入手し、「友達を待たせてるから」という、なんとも女神らしくないコメントをして、足早に教室を去っていくアテナを眺めていると、夢野から──正確には夢野と、見知らぬ女子生徒数人から話しかけられた直後に夢野から飛び出した言葉がこれだった。
聞くところによると、どうやら彼女たちは小学校時代の同級生らしく、夢野だけ、地元の中学校に進学したため、暫く疎遠になっていたそうだ。
そして、後を追うようにして(実際には彼女たちではなく華の後を追ったのだが)高等部に入学し、こうやって無事に再会をはたしたのだそうだ。
積もる話もあるし、聞きたいことも沢山ある。華を寮まで連れていきたいのはやまやまだけど、どうしてもっていうから、今日は一緒には帰れないと、そういうのだった。
「それならしょうがないよ。大丈夫だって、寮くらい自分で行けるよ」
正直、その方が都合がいい気がする。
夢野の気持ちはありがたいし、これから色んな場面で力を借りることにはなると思うけど、ずっとつきっきりになられても正直困るのだ。彼女には「他のクラスメートから恋愛相談を持ち込まれる」という、窓口的な役割を果たしてもらう必要がある。
だから、旧友との親交を深めるなんてイベントはまさにもってこいなのだ。なんだったら、ものの勢いで恋愛感情の一つや二つでも抱いてくれても構わない。ノロケ話ならいくらでも聞いてあげるから。ね?だからヤンデレズみたいなムーブはほどほどにして欲しいなって。
「ほんとにごめんねー!また後で部屋に行くからー」
友人たちに半ば引っ張られるようにして、教室から姿を消す夢野。なんか不穏なワードが聞こえた気がするが気のせいだと思うことにしておきたい。なんであんなに俺に構おうとするんだろう。モテそうだし、いくらでも選択肢はあると思うんだけど。
さて。
周りを見渡してみても、クラスメイトの半分以上はもう既に帰宅の途についていた。中には寮生もいるだろうから、もしかしたらそっちで再会することもあるかもしれないけど、その時はその時だ。一応全員の名前と顔は頭に叩き込んだつもりだけど、こればっかりは徐々に覚えていくしかない。
自分の席付近を見てみると誰もいない。どうやら虎子はもう帰ったようだ。仲直りでもしにいったのだろうか。その光景はぜひとも拝みたい、
「……そうか。定点観測器」
思い出す。
手のひらを広げると確かにさっきアテナから貰った小さな機械がそこにはあった。彼女の話を聞く限りだと、きっとクラスメイトには見えないのだろう。だから、このまま手を高々と掲げようものなら「変なやつ」の完成である。だから、こっそりと、
(九条虎子を観測してくれ)
と脳内で願う。すると、なんとも小さなプロペラがゆっくりと動き出し、それと同時に期待も手のひらを離れて空中へと浮かび上がる。
暫く宙を浮かんでいた定点観測器だが、やがて、
『ポーン。対象、九条虎子。確認シマシタ』
と、なんとも機械チックな音声を出したと思うと、ゆっくりと教室のドアへと飛んでいき、そのまま視界から消えてしまった。
「これ…………で、いいのかな」
分からない。
定点観測器とやらが発した機械音声を信用するのであれば、今ちょうど近衛虎子を探しているということになる。ほどなくして、その映像が脳内に提供されることになるらしい。一体どういう形で確認出来るのかは皆目見当もつかないが、驚いたりして不思議がられないように、なるべく人がいないところに移動したいところだ。
と、いうわけで、
「取り合えず、中庭とやらに行ってみようかな……」
廊下に出て、独りごちる。
どうやら、この学校には「中庭」と呼ばれる憩いの場があるらしい。相当数のベンチと、飲み物の自販機が備え付けられ、いくつかのテーブルも完備されているという場所で、昼食を取る上で、一番の人気スポットらしい。
もしかしたら放課後も人がいるかもしれないが、その時はその時だ。場所を確認しておいても損はない。きっと百合の花園になっているに違いない。カップルでベンチに座ってお弁当の食べさせとかするんだ。きっとそうだ。「はい、あーん」とか言っちゃって。たまりませんわ。
「おっと、よだれが……」
これはいけない。いくらモブの風貌とはいえ、仮にも女学院に通う女の子がよだれなんてたらしてはいけない。まあ中には妄想がたくましくなるとよだれをたらしたりする場合もあるかもしれないけど。
「……ん?」
玄関付近。下駄箱の辺りに誰かいる。遠目から観測してみると、ある一点を起点に左右にいったりきたりしている。考え事でもしているのだろうか。それにしては大分変なところだ。ここまで来ているのならば家に帰るなり、喫茶店にでも行くなり。中庭でゆっくりするなり、いくらでも選択肢はあるはずだ。
気にはなる。
ただ、俺は別に慈善事業がしたくってここに来たわけじゃない。仮に彼女の悩みを解決できたとして、それで好感度が上がるのは間違いなく俺じゃないか。それじゃ意味が無いんだ。見たところかなりの美人で、黒髪ロングと来ているから、受けにも攻めにもピッタリの逸材だ。ごめんな。もし、恋愛で悩むようなことがあったらまた呼んでくれ。そんなことがあるかは分からないけど。
そんなことを考えながら彼女の横を歩き去り、自分の靴を取り出そうと、
「…………トラ、どこにいったのかしら」
思わず二度見したね。
そして、目ざとく発見したね。彼女の近くにある下駄箱に書かれている「牛島美咲」の四文字を。間違いない。彼女は虎子の彼女……違った、幼馴染だ。
それだったら話は別だ。彼女たちが百合カップルとして末永く幸せになるためなら、労力はいとわないよ、俺は。
放課後。アテナを問い詰めて、わざわざ学生になってまでこの世界に出てきた理由を問い詰めて聞き出し、「定点観測器」などという、あのアフターケアが微塵もなってない女神が持ってきたにしてはなかなかに便利そうなアイテムも入手し、「友達を待たせてるから」という、なんとも女神らしくないコメントをして、足早に教室を去っていくアテナを眺めていると、夢野から──正確には夢野と、見知らぬ女子生徒数人から話しかけられた直後に夢野から飛び出した言葉がこれだった。
聞くところによると、どうやら彼女たちは小学校時代の同級生らしく、夢野だけ、地元の中学校に進学したため、暫く疎遠になっていたそうだ。
そして、後を追うようにして(実際には彼女たちではなく華の後を追ったのだが)高等部に入学し、こうやって無事に再会をはたしたのだそうだ。
積もる話もあるし、聞きたいことも沢山ある。華を寮まで連れていきたいのはやまやまだけど、どうしてもっていうから、今日は一緒には帰れないと、そういうのだった。
「それならしょうがないよ。大丈夫だって、寮くらい自分で行けるよ」
正直、その方が都合がいい気がする。
夢野の気持ちはありがたいし、これから色んな場面で力を借りることにはなると思うけど、ずっとつきっきりになられても正直困るのだ。彼女には「他のクラスメートから恋愛相談を持ち込まれる」という、窓口的な役割を果たしてもらう必要がある。
だから、旧友との親交を深めるなんてイベントはまさにもってこいなのだ。なんだったら、ものの勢いで恋愛感情の一つや二つでも抱いてくれても構わない。ノロケ話ならいくらでも聞いてあげるから。ね?だからヤンデレズみたいなムーブはほどほどにして欲しいなって。
「ほんとにごめんねー!また後で部屋に行くからー」
友人たちに半ば引っ張られるようにして、教室から姿を消す夢野。なんか不穏なワードが聞こえた気がするが気のせいだと思うことにしておきたい。なんであんなに俺に構おうとするんだろう。モテそうだし、いくらでも選択肢はあると思うんだけど。
さて。
周りを見渡してみても、クラスメイトの半分以上はもう既に帰宅の途についていた。中には寮生もいるだろうから、もしかしたらそっちで再会することもあるかもしれないけど、その時はその時だ。一応全員の名前と顔は頭に叩き込んだつもりだけど、こればっかりは徐々に覚えていくしかない。
自分の席付近を見てみると誰もいない。どうやら虎子はもう帰ったようだ。仲直りでもしにいったのだろうか。その光景はぜひとも拝みたい、
「……そうか。定点観測器」
思い出す。
手のひらを広げると確かにさっきアテナから貰った小さな機械がそこにはあった。彼女の話を聞く限りだと、きっとクラスメイトには見えないのだろう。だから、このまま手を高々と掲げようものなら「変なやつ」の完成である。だから、こっそりと、
(九条虎子を観測してくれ)
と脳内で願う。すると、なんとも小さなプロペラがゆっくりと動き出し、それと同時に期待も手のひらを離れて空中へと浮かび上がる。
暫く宙を浮かんでいた定点観測器だが、やがて、
『ポーン。対象、九条虎子。確認シマシタ』
と、なんとも機械チックな音声を出したと思うと、ゆっくりと教室のドアへと飛んでいき、そのまま視界から消えてしまった。
「これ…………で、いいのかな」
分からない。
定点観測器とやらが発した機械音声を信用するのであれば、今ちょうど近衛虎子を探しているということになる。ほどなくして、その映像が脳内に提供されることになるらしい。一体どういう形で確認出来るのかは皆目見当もつかないが、驚いたりして不思議がられないように、なるべく人がいないところに移動したいところだ。
と、いうわけで、
「取り合えず、中庭とやらに行ってみようかな……」
廊下に出て、独りごちる。
どうやら、この学校には「中庭」と呼ばれる憩いの場があるらしい。相当数のベンチと、飲み物の自販機が備え付けられ、いくつかのテーブルも完備されているという場所で、昼食を取る上で、一番の人気スポットらしい。
もしかしたら放課後も人がいるかもしれないが、その時はその時だ。場所を確認しておいても損はない。きっと百合の花園になっているに違いない。カップルでベンチに座ってお弁当の食べさせとかするんだ。きっとそうだ。「はい、あーん」とか言っちゃって。たまりませんわ。
「おっと、よだれが……」
これはいけない。いくらモブの風貌とはいえ、仮にも女学院に通う女の子がよだれなんてたらしてはいけない。まあ中には妄想がたくましくなるとよだれをたらしたりする場合もあるかもしれないけど。
「……ん?」
玄関付近。下駄箱の辺りに誰かいる。遠目から観測してみると、ある一点を起点に左右にいったりきたりしている。考え事でもしているのだろうか。それにしては大分変なところだ。ここまで来ているのならば家に帰るなり、喫茶店にでも行くなり。中庭でゆっくりするなり、いくらでも選択肢はあるはずだ。
気にはなる。
ただ、俺は別に慈善事業がしたくってここに来たわけじゃない。仮に彼女の悩みを解決できたとして、それで好感度が上がるのは間違いなく俺じゃないか。それじゃ意味が無いんだ。見たところかなりの美人で、黒髪ロングと来ているから、受けにも攻めにもピッタリの逸材だ。ごめんな。もし、恋愛で悩むようなことがあったらまた呼んでくれ。そんなことがあるかは分からないけど。
そんなことを考えながら彼女の横を歩き去り、自分の靴を取り出そうと、
「…………トラ、どこにいったのかしら」
思わず二度見したね。
そして、目ざとく発見したね。彼女の近くにある下駄箱に書かれている「牛島美咲」の四文字を。間違いない。彼女は虎子の彼女……違った、幼馴染だ。
それだったら話は別だ。彼女たちが百合カップルとして末永く幸せになるためなら、労力はいとわないよ、俺は。
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