25 / 98
24
しおりを挟む
24
え?
マリア、今「前世」って言ったよね?
「ねえ、ちょっと、私の話しを…」
「あ、アイリーン殿下、今それどころじゃないんで」
黙って見つめ合うシャーロットとマリアに話しかけるアイリーン。そのアイリーンににべもなく言ったのはシャーロットだ。
「それどころじゃないって、私の話しが聞けないって言うの!?」
「アイリーン殿下の『理想の兄嫁像』を私たちが聞いてどうするんですか?殿下は今、私たちは王太子妃にふさわしくないと仰いました。つまり、殿下がどんな理想を掲げられておいででも私たちには関係がない、という事でしょう?」
アイリーンを見ながら言うシャーロット。
「…そ、それは」
「ロッテ、珍しくハッキリ言うのね」
マリアが驚いた様子で言った。
「だって、私はマリアと話しがしたいのに…」
「ああ…うん。あのね、きっと俄には信じられないと思うけど」
「あ、でも待って。この話、二人だけで、邪魔が入らない所で話した方が良い気がして来た」
神妙な表情で話し出そうとするマリアをシャーロットが制する。
前世とか、アイリーン殿下やスアレス殿下に聞かれたらマリアや私の頭がおかしいと思われるかも。
「それはそうね。じゃあ、ウェイン家に戻ってから?」
「そうね。早く話したいけど、家に戻ってからの方が良いわね」
シャーロットとマリアは目を見合わせて頷き合った。
-----
「無事に三次選考通過者二十名を決める事ができました。アイリーン殿下、スアレス殿下、ご協力を賜りありがとうございました」
ルーカスが恭しく頭を下げるのを、貴賓室のソファに並んで座ったアイリーンとスアレスはむくれた表情で見つめている。
そんな二人をソファの向かいに座ったユリウスは訝し気に眺めていた。
「選考結果にご不満でも?」
ルーカスはにっこりと笑って言う。
「…不満はあるわ。ルーカス、貴方の妹と貴方の家の侍女は揃って通過したそうね」
アイリーンはルーカスをジロリと睨む。
「アイリーン殿下の権限で落として頂いても良かったんですよ?」
あくまでもにっこりと笑って言うルーカス。
「…本当にルーカスは妹も侍女も王太子妃にするつもりはないの?」
「ないですね」
「そう…なの?なら…」
アイリーンは目を瞬かせる。
「……」
そして、そのまま黙り込んだ。
スアレスも居心地悪そうにちらちらとルーカスを見ている。
「アイリーンには難しい演技をさせて悪かったな」
ユリウスがそう言うと、アイリーンはピンッと背筋を伸ばす。
「いいえ」
無愛想に答えると、また黙る。
「……」
この異母妹弟たちはいつも話し掛けても最低限の返事しかないんだよな。あまり目も合わないし。
「そういえばスアレスはロッテに何を言いたかったんだ?」
「えっ」
アイリーンと同じ様に背筋を伸ばすスアレス。
「何を、ですか…?」
視線をうろうろと彷徨わせる。
「ああ。何か言いたい事があったから、女装までして夜会へ潜入したんだろう?」
「…はい…あの…」
スアレスは上目遣いにチラッとユリウスを見る。
「うん?」
「…いえ」
ユリウスが少し首を傾げてスアレスを見ると、スアレスは小さく呟くと、直ぐに視線を逸らして黙ってしまう。
うーん、スアレスも相変わらずか。
ずっとこんな感じだから、妹や弟がかわいいとか、かわいくないとか以前にこの二人が俺の妹や弟だという感覚がないんだよな…
「相変わらず借りて来た猫なんですね。アイリーン殿下、スアレス殿下」
ルーカスがニヤッと笑いながらアイリーンとスアレスを見る。
「ルーカス!」
アイリーンが慌てて言う。
「ルーカス!変な事言うなよ」
「お兄様、何でもないんです。もう!ルーカス!」
スアレスとアイリーンは焦りながらルーカスに文句を言っている。
ああ、またか。
ルーカスは、アイリーンとスアレスは「ユリウス殿下の前では借りて来た猫の様に大人しい。本当の二人は騒々しいんです」とよく言うが、まあこうしてルーカスに噛み付く様子を見ればそうなんだろうと思う。
しかし、俺は借りて来た猫状態でしか接した事がないのだから、俺にとっては「借りて来た」状態が「平常通り」なんだ。
即ち、俺に心を許していないから、俺の前では素は出せない、と言う事なんだろう。
「ルーカスと、アイリーンたちの方が余程本当の兄妹の様だな」
ああ、しまった。言うつもりもない言葉が口から溢れてしまったな。
一度口から溢れた言葉は二度と覆らない。
もっと慎重に成らなければ。
「ユリウス殿下…」
ルーカスからの視線を避ける様にユリウスは視線を下げた。
「もう夜も遅い。アイリーンとスアレスも王宮に戻ると良い」
ユリウスがそう言うと、アイリーンとスアレスも「しまった」という表情を見せる。
この表情は、俺の前で素を見せてしまった、という表情か?
「ルーカスも、今日はもう下がれ」
ユリウスは口角を上げてそう言うと、ソファから立ち上がった。
え?
マリア、今「前世」って言ったよね?
「ねえ、ちょっと、私の話しを…」
「あ、アイリーン殿下、今それどころじゃないんで」
黙って見つめ合うシャーロットとマリアに話しかけるアイリーン。そのアイリーンににべもなく言ったのはシャーロットだ。
「それどころじゃないって、私の話しが聞けないって言うの!?」
「アイリーン殿下の『理想の兄嫁像』を私たちが聞いてどうするんですか?殿下は今、私たちは王太子妃にふさわしくないと仰いました。つまり、殿下がどんな理想を掲げられておいででも私たちには関係がない、という事でしょう?」
アイリーンを見ながら言うシャーロット。
「…そ、それは」
「ロッテ、珍しくハッキリ言うのね」
マリアが驚いた様子で言った。
「だって、私はマリアと話しがしたいのに…」
「ああ…うん。あのね、きっと俄には信じられないと思うけど」
「あ、でも待って。この話、二人だけで、邪魔が入らない所で話した方が良い気がして来た」
神妙な表情で話し出そうとするマリアをシャーロットが制する。
前世とか、アイリーン殿下やスアレス殿下に聞かれたらマリアや私の頭がおかしいと思われるかも。
「それはそうね。じゃあ、ウェイン家に戻ってから?」
「そうね。早く話したいけど、家に戻ってからの方が良いわね」
シャーロットとマリアは目を見合わせて頷き合った。
-----
「無事に三次選考通過者二十名を決める事ができました。アイリーン殿下、スアレス殿下、ご協力を賜りありがとうございました」
ルーカスが恭しく頭を下げるのを、貴賓室のソファに並んで座ったアイリーンとスアレスはむくれた表情で見つめている。
そんな二人をソファの向かいに座ったユリウスは訝し気に眺めていた。
「選考結果にご不満でも?」
ルーカスはにっこりと笑って言う。
「…不満はあるわ。ルーカス、貴方の妹と貴方の家の侍女は揃って通過したそうね」
アイリーンはルーカスをジロリと睨む。
「アイリーン殿下の権限で落として頂いても良かったんですよ?」
あくまでもにっこりと笑って言うルーカス。
「…本当にルーカスは妹も侍女も王太子妃にするつもりはないの?」
「ないですね」
「そう…なの?なら…」
アイリーンは目を瞬かせる。
「……」
そして、そのまま黙り込んだ。
スアレスも居心地悪そうにちらちらとルーカスを見ている。
「アイリーンには難しい演技をさせて悪かったな」
ユリウスがそう言うと、アイリーンはピンッと背筋を伸ばす。
「いいえ」
無愛想に答えると、また黙る。
「……」
この異母妹弟たちはいつも話し掛けても最低限の返事しかないんだよな。あまり目も合わないし。
「そういえばスアレスはロッテに何を言いたかったんだ?」
「えっ」
アイリーンと同じ様に背筋を伸ばすスアレス。
「何を、ですか…?」
視線をうろうろと彷徨わせる。
「ああ。何か言いたい事があったから、女装までして夜会へ潜入したんだろう?」
「…はい…あの…」
スアレスは上目遣いにチラッとユリウスを見る。
「うん?」
「…いえ」
ユリウスが少し首を傾げてスアレスを見ると、スアレスは小さく呟くと、直ぐに視線を逸らして黙ってしまう。
うーん、スアレスも相変わらずか。
ずっとこんな感じだから、妹や弟がかわいいとか、かわいくないとか以前にこの二人が俺の妹や弟だという感覚がないんだよな…
「相変わらず借りて来た猫なんですね。アイリーン殿下、スアレス殿下」
ルーカスがニヤッと笑いながらアイリーンとスアレスを見る。
「ルーカス!」
アイリーンが慌てて言う。
「ルーカス!変な事言うなよ」
「お兄様、何でもないんです。もう!ルーカス!」
スアレスとアイリーンは焦りながらルーカスに文句を言っている。
ああ、またか。
ルーカスは、アイリーンとスアレスは「ユリウス殿下の前では借りて来た猫の様に大人しい。本当の二人は騒々しいんです」とよく言うが、まあこうしてルーカスに噛み付く様子を見ればそうなんだろうと思う。
しかし、俺は借りて来た猫状態でしか接した事がないのだから、俺にとっては「借りて来た」状態が「平常通り」なんだ。
即ち、俺に心を許していないから、俺の前では素は出せない、と言う事なんだろう。
「ルーカスと、アイリーンたちの方が余程本当の兄妹の様だな」
ああ、しまった。言うつもりもない言葉が口から溢れてしまったな。
一度口から溢れた言葉は二度と覆らない。
もっと慎重に成らなければ。
「ユリウス殿下…」
ルーカスからの視線を避ける様にユリウスは視線を下げた。
「もう夜も遅い。アイリーンとスアレスも王宮に戻ると良い」
ユリウスがそう言うと、アイリーンとスアレスも「しまった」という表情を見せる。
この表情は、俺の前で素を見せてしまった、という表情か?
「ルーカスも、今日はもう下がれ」
ユリウスは口角を上げてそう言うと、ソファから立ち上がった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
61
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる