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「最終候補として残ったのは、ロッテとマリア、それからオードリー・グッドウィン公爵令嬢、フェリシティ・ダルトン侯爵令嬢、クラリス・ケーリー男爵令嬢の五人だな」
「わあ…」
 ルーカスの挙げた最終候補五名の名前を聞いて、シャーロットは思わず声を漏らす。
「見事にオードリーさんの予想通りね」
 少し苦笑いしながらマリアも言う。

「ルーカス様が見た処の最有力候補はどなたなんですか?ロッテや私ではないんでしょう?」
「ロッテやマリアではない…と言うのは、私の主観が入るから正しくないかも知れないな」
 ルーカスが紅茶を飲みながら言う。
「主観?」
 シャーロットが首を傾げると、ルーカスはカップをテーブルに置いた。
「ああ。ユリウス殿下は『ロッテともう一度会いたい』『ロッテと親しい者がいた方が良い』と言われていたが、それが本心なのかは私にはわからない」
「じゃあ一応殿下は、ロッテの付き添い的な意味合いで私を通過させたと仰られたんですね」
 マリアがホッとした様に言うと、ルーカスは少し口角を上げる。
「マリアは最終候補に残った事、嬉しくはなさそうだな」
「…嬉しくないです」
 マリアは上目遣いでルーカスを見る。
「そうか」
 …何となくお兄様も満足気に見えるわ。お兄様もマリアの事お好きなのかしら?
 マリアがお兄様を好きで、お兄様をマリアを好きなら、私もすごく嬉しいんだけどな。

「私に関してはただの付き添いでも、殿下がロッテにもう一度会いたいと仰られているのは確かなんですよね?」
 ドキ。
 シャーロットは自分の心臓の位置を押さえる。
 も、もう一度会いたいって、破壊力のある言葉だわ…
「そうだ。お兄様、ユリウス殿下は私に怒っておられるんじゃないですか?」
「いや。謝罪したいと仰るんだ、むしろ逆だろう」
「逆?」
「ロッテの方が、殿下に怒っているんじゃないかと思われているんだ」
 …へ?
 私が?
「殿下の質問に心当たりを答えただけで部屋を追い出された、と」
「…ああ」
 なるほど。その考えはなかったわ。

「ロッテ、何の事?もう選考結果は出たんだから話して良いんでしょう?」
 マリアが心配そうにシャーロットを見ている。ルーカスはニヤリと笑うとソファの肘掛けに頬杖をついて言った。
「ユリウス殿下の初恋はなんだそうだ」

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 王城のユリウスの執務室で、王太子の護衛騎士の制服を着たグリフは執務机に向かうユリウスの後ろを右へ左へと歩いて往復している。
「…何だ、グリフ」
 ユリウスはペンを持ったまま、グリフを横目で見た。
「狡いですよ、殿下」
「狡い?」
「俺が王都を離れてる間にロッテをお妃候補にするなんて」
 カツカツと音を立ててユリウスの後ろを歩く。
「グリフはまだロッテの恋人でも何でもないだろ?」
「それです!なんですよ。。近い将来そうなる筈だったのに…折角ロッテと知り合いになれて、ここから畳み掛けたいのに、お妃候補じゃあ暫く個人的には会えないじゃないですか。しかも再来月、俺、一か月王都にいないのに」
「折角?元々ルーカスはロッテをグリフを紹介するつもりでいたんだろう?…ウロウロと鬱陶しいな、座れ」
 ユリウスは執務机の向こうにあるソファを指差す。
「そうですよ。しかしルーカスはロッテが学園を卒業するまでは俺と会わせないつもりだったんです」
 グリフはピタリと歩みを止めると、ソファの方へと移動する。
「殿下、俺一応仕事中ですけど?」
 ソファの前に立って言う。
「そこまで行って仕事中も何も…俺も少し休憩するからグリフも休憩しろ」
 ユリウスは頭を掻きながら立ち上がる。
 グリフがソファに座ると、ユリウスもその向かいに座った。

 侍女に合図をすると、お茶が運ばれて来て、続いてルーカスが執務室に入って来た。
「グリフ、護衛騎士が護衛対象と一緒に休憩してどうする」
「警戒は怠っていないから平気だ」
「ルーカスも座れ」
「はい。その前にご報告を」
 ルーカスは公務に関する報告を済ませると、グリフの隣に腰掛けた。

「グリフ、ルーカスは昔から一人称が『私』だったと言ったが、本当なのか?」
「何ですか急に?…まあ俺とルーカスが出会ったのは学園の一年生の時ですが、確かにルーカスは既に『私』と言ってましたね。何か落ち着き払っていて、本当に俺と同い年か?と思いました」
「一年生の頃のグリフはまだやんちゃ坊主の様だったな。背も私より低かったし」
 ユリウスは少し驚いてグリフとルーカスを見比べる。
 グリフは長身でガッシリとした騎士らしい体躯、ルーカスは王太子の侍従として相当鍛錬しているが、グリフと比べると細身に見える。身長もグリフの方が高い。
 ルーカスより背の低いグリフか。今の二人からは想像がつかないな。
「二年生で追い付いて、三年生で追い越したけどな」
 そうグリフがドヤ顔で言った。



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