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 ウェイン伯爵家に戻ったシャーロットとマリアは、シャーロットの部屋のソファに向かい合って座った。
「あのね、ロッテ、アイリーン殿下たちの前で言い掛けた事なんだけど」
 マリアがシャーロットを真っ直ぐ見ながら言う。
「…信じられないと思うんだけど、私…前世の記憶があるの」
 やっぱり!
「マリア…私も!」
「え?」
 マリアがきょとんとした表情でシャーロットを見た。
「私も前世の記憶があるの」
「ロッテも!?」
 驚くマリア。シャーロットはこくこくと頷く。
「日本…でしょ?」
 シャーロットが言うと、マリアはテーブルに手をついてシャーロットの方へ身を乗り出す。
「そう。日本……」
 マリアのテーブルについた手が小さく震えて、涙がパタパタとテーブルに落ちた。
「…っ」
「マリア!?」
「ロッテ…前世から…ずっと、お礼と…謝らなきゃって…」
 マリアの大きな眼から涙が湧き出して、溢れて落ちる。
「謝るって…何で?」
 シャーロットは自分のスカートのポケットからハンカチを取り出すと、そっと手を伸ばしてマリアの頬に当てた。
「だっ…ロッテ、前世で私たちを、庇って……」
 次々と流れる涙をハンカチでポンポンと軽く叩くようにして拭き取る。
「鉄板が落ちて来た時の事?」
「…そう。覚えて…るの?」
 シャーロットはマリアの涙を拭きながら苦笑いを浮かべた。
「鉄板が落ちて来た処までは。その後の事はわからないから、そこで前世の私は死んじゃったのね?」
「…うん」
「マリアはその時一緒にいた前世の友達?」
「うん」
「マリアは…ほかの友達も、助かったの?怪我は?」
「私は背が低かったから、打撲だけ。他の子は骨折とかもあったけど…みんな…大丈夫だったわ…」
「そう。良かった…前世を思い出してからずっと気になってたの。それにね、庇うとかじゃなくて、ただ単に私の背が高かったから結果そうなっただけよ」
 シャーロットは敢えて明るく言った。
 庇おうとか思う間もなかったけど、みんなが大丈夫だったなら、やっぱり私、背が高くて良かった。
「ロッテ…前世でも今も、大好きよ」
 マリアがロッテのハンカチを握りしめながら笑う。
「私も。マリアが大好き」
 シャーロットもマリアに笑顔を返した。

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「私も乙女ゲームとかはしなかったからなあ。漫画は転生モノとか悪役令嬢モノとか読んだけど、ラノベはあんまり…でも私が読んだ中にが舞台な物はなかったと思うわ」
 マリアが言う。
「そうなんだ…」
「でも『クラリスがヒロイン』説には賛成」
「でしょ?」
「クラリス、かわいいもん。このまま王太子妃になっても納得するわ」
 王太子妃…ユリウス殿下の妃、か。
「……」
 私…ユリウス殿下を失恋させちゃったのかな。こうして王太子妃選びをしてるって事は、昔会った令嬢の事は諦めたか、諦める気だったのよね?
 だったら彼女がお兄様かもって、わざわざ知らせなくても良かったのかも…
「ロッテ?」
「え?」
「どうしたの?急に黙り込んで」
 マリアが不思議そうにシャーロットを見る。
「…うん。ちょっと後悔…明日四次選考の結果通知が来たら話すわ」

「結果通知なら、私が持って帰ったぞ」
 シャーロットの部屋の扉の方から声がする。
「お兄様!」
「ルーカス様」
 部屋の扉を開けて、二通の封筒を持ったルーカスが入って来る。
「結果が通知されるのは明日の朝では?」
 マリアがソファから立ち上がりながら言う。
 側のワゴンに置いてあったポットから手早く新しいカップに紅茶を注ぐと、シャーロットの横に座ったルーカスの前に置く。
「私も明日の朝帰る予定だったんだが、ユリウス殿下から早くこれを渡せと言われてな」
 二通の封筒を、シャーロットと、シャーロットの向かいに改めて座ったマリアに渡す。
 宛名の書かれていない封筒は王家の印の蝋封で閉じられていた。
 シャーロットは封筒を開けると、中の紙を取りだす。
「通過…え?通過なの?」
「え?私も?」
 驚きの声を上げるシャーロットを見て、マリアも封筒を開ける。宛名がないという事は、中身は同じ物だという事だからだ。
「ロッテ、ユリウス殿下が『どうか候補を辞退しないでくれ』と伝えて欲しいと」
「…殿下が?私に?」
 殿下は私に怒っておられるんじゃ?
「謝りたいと仰られていた」
 ルーカスがため息混じりに言う。
「謝る?」
 私に何を謝るの?
「追い出す様な真似をして済まない、と」
「ああ…でもそれならお兄様に伝言してくだされば済むのに…」
 何なら、お兄様から今それを聞いたから、もうそれで終わりの話しじゃない?
 ルーカスは「はあ~」と大きくため息を吐く。
「?」
「…会いたいんだそうだ。ロッテに。もう一度」
「あ…?」
 会いた、い?
 誰が?誰に?



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