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「ユリウス殿下」
ノックの音がして、ルーカスの声が聞こえる。
「……」
ユリウスはソファに座ってテーブルの上に開いた本の上に置いたシャーロットの編んだ栞を眺めていた。
「ユリウス殿下、ロッテが、昨日のお礼を申し上げたいとここへ来ております」
ロッテが。
ユリウスの意識が扉の方へ向く。
「…ユリウス殿下」
シャーロットの声が小さく聞こえる。
「あの、昨日はありがとうございました」
シャーロットの声を聞きながら、手を伸ばして栞に触れる。
「殿下のおかげで私、軽い怪我で済んだんです」
そうか。それは良かった…
しかしロッテを連れて来るとは、ルーカスも色々考えるものだな。
「ユリウス殿下のお怪我はどんな具合ですか?殿下に…お怪我を負わせてしまって本当に申し訳ありませんでした」
俺の傷は俺のせいだ。ロッテが俺に助けられる事を望んだ訳ではないんだから気にしなくて良いのに。
「あの…せめて消毒だけでも、させていただけないでしょうか?」
そう言って部屋に入る作戦か。
そうわかっていても、扉の前で一生懸命話し掛けているロッテを思うと、開けてやりたい気持ちになる。
つくづくルーカスは俺の事を良くわかってるな…
「ロッテ、泣くな」
…泣く?
ロッテが泣いているのか?
思わず扉の方へ身体を向けた時、手がテーブルの上の本に当たってカタッと音を立てた。
「昨日、謝罪とお礼を言いに来れば良かったな。ロッテ。ああでも昨日は無理か…」
昨日?
「昨日は、グリフが辺境伯領からグリフの結婚相手を連れ帰って来たから、ロッテはショックでそれどころではなかったからな」
ガタンッ。
思わず立ち上がるユリウス。
グリフが、グリフの結婚相手を連れ帰って来た?
「どういう事だ?」
「かわいそうにな、ロッテ。まさかグリフに裏切られるとは、な」
グリフは、ロッテが俺の婚約者候補でなくなればロッテと……だろう?裏切られたとは?
ユリウスは扉の側まで歩いて行く。
「…はい。私…」
シャーロットの呟くような声が聞こえる。
これは、ルーカスがロッテを利用して俺に扉を開けさせる作戦なのかも知れない。
でも本当にロッテが泣いているなら。
「どういう事だ?」
扉の側で言う。
「あ…グリフ様が…バネッサさんを…」
ロッテの声。
バネッサ?グリフの結婚相手という者か?
「…う」
「ああ、そんなに泣くなロッテ」
バネッサと言う名前が出て来た以上、ある程度は本当の事なんだろう。
ロッテの個人的な事柄に介入する資格など、俺にはないが、とりあえず事情を聞くか。
「ルーカス」
扉の向こうのルーカスを呼ぶ。
「はい」
「グリフを呼べ。ルーカス、お前が呼びに行け」
「はっ。畏まりました」
ルーカスを呼びにやったから、おそらく今扉の前にはロッテ一人だ。
泣いているなら慰めてやりたい。傷付いているなら癒やしてやりたい。笑っているなら…抱きしめたい。
ああ、俺はロッテが好きだ…
扉を少し開くと、廊下の向こうを見ているシャーロットがそこにいた。
手を伸ばしてシャーロットの二の腕を引いた。
「きゃっ」
部屋に引き込まれたシャーロットは、カーペットに足を取られてドサッと倒れ込んだ。
「痛…」
傷を負った腕を打ちつけて眉を顰めるシャーロット。
「済まない。大丈夫か?」
しまった。そこは怪我をしていた場所じゃないか。
ユリウスはシャーロットに手を差し出した。
「…殿下」
額にガーゼを貼り、ユリウスを見上げたシャーロットの眼から涙がポロポロと溢れる。
「痛いのか?怪我をしているのに、済まない」
ユリウスは少し慌ててシャーロットの側にしゃがみ込み、手を取って起き上がらせた。
シャーロットは涙を流しながら首を横に振る。
「…殿下こそ、お怪我は痛みませんか?」
着ているワンピースの袖から腕に巻いた包帯が少し見えた。
「俺は大丈夫だ」
「すみません…私また殿下に…お怪我を…」
「俺が勝手にした事だ。ロッテは気にしなくて良い」
泣かないでくれ。ロッテ。
手を伸ばして、指の背でシャーロットの頬に流れる涙に触れた。
「殿下?」
潤んだ瞳でユリウスを見るシャーロット。
「ロッテ、俺は…」
コンコン。
とノックの音がして、ルーカスの声がする。
「グリフを連れて来ました」
良かった。言わなくて良い事を口にしてしまう処だった。
ユリウスは小さく息を吐くと、立ち上がり、シャーロットの手を取ると、ソファへと座らせた。
シャーロットの前のテーブルの上に開いて置かれている本。そして、開いた頁にシャーロットの編んだ栞が置かれている。
「入れ。グリフだけだ」
ユリウスは立ったままシャーロットの前へ手を伸ばし、パタンと本を閉じた。
「ロッテ…」
部屋に入って来たグリフはシャーロットを見て呟く。
「グリフ様」
ロッテは今どんな表情でグリフを見ているのか…見たくない。
ユリウスは敢えてグリフだけを視界に入れる。
「グリフ、辺境伯領から自分の結婚相手を連れ帰ったと言うのは、本当なのか?」
グリフは重々しい表情で頷いた。
「はい。本当です」
「ユリウス殿下」
ノックの音がして、ルーカスの声が聞こえる。
「……」
ユリウスはソファに座ってテーブルの上に開いた本の上に置いたシャーロットの編んだ栞を眺めていた。
「ユリウス殿下、ロッテが、昨日のお礼を申し上げたいとここへ来ております」
ロッテが。
ユリウスの意識が扉の方へ向く。
「…ユリウス殿下」
シャーロットの声が小さく聞こえる。
「あの、昨日はありがとうございました」
シャーロットの声を聞きながら、手を伸ばして栞に触れる。
「殿下のおかげで私、軽い怪我で済んだんです」
そうか。それは良かった…
しかしロッテを連れて来るとは、ルーカスも色々考えるものだな。
「ユリウス殿下のお怪我はどんな具合ですか?殿下に…お怪我を負わせてしまって本当に申し訳ありませんでした」
俺の傷は俺のせいだ。ロッテが俺に助けられる事を望んだ訳ではないんだから気にしなくて良いのに。
「あの…せめて消毒だけでも、させていただけないでしょうか?」
そう言って部屋に入る作戦か。
そうわかっていても、扉の前で一生懸命話し掛けているロッテを思うと、開けてやりたい気持ちになる。
つくづくルーカスは俺の事を良くわかってるな…
「ロッテ、泣くな」
…泣く?
ロッテが泣いているのか?
思わず扉の方へ身体を向けた時、手がテーブルの上の本に当たってカタッと音を立てた。
「昨日、謝罪とお礼を言いに来れば良かったな。ロッテ。ああでも昨日は無理か…」
昨日?
「昨日は、グリフが辺境伯領からグリフの結婚相手を連れ帰って来たから、ロッテはショックでそれどころではなかったからな」
ガタンッ。
思わず立ち上がるユリウス。
グリフが、グリフの結婚相手を連れ帰って来た?
「どういう事だ?」
「かわいそうにな、ロッテ。まさかグリフに裏切られるとは、な」
グリフは、ロッテが俺の婚約者候補でなくなればロッテと……だろう?裏切られたとは?
ユリウスは扉の側まで歩いて行く。
「…はい。私…」
シャーロットの呟くような声が聞こえる。
これは、ルーカスがロッテを利用して俺に扉を開けさせる作戦なのかも知れない。
でも本当にロッテが泣いているなら。
「どういう事だ?」
扉の側で言う。
「あ…グリフ様が…バネッサさんを…」
ロッテの声。
バネッサ?グリフの結婚相手という者か?
「…う」
「ああ、そんなに泣くなロッテ」
バネッサと言う名前が出て来た以上、ある程度は本当の事なんだろう。
ロッテの個人的な事柄に介入する資格など、俺にはないが、とりあえず事情を聞くか。
「ルーカス」
扉の向こうのルーカスを呼ぶ。
「はい」
「グリフを呼べ。ルーカス、お前が呼びに行け」
「はっ。畏まりました」
ルーカスを呼びにやったから、おそらく今扉の前にはロッテ一人だ。
泣いているなら慰めてやりたい。傷付いているなら癒やしてやりたい。笑っているなら…抱きしめたい。
ああ、俺はロッテが好きだ…
扉を少し開くと、廊下の向こうを見ているシャーロットがそこにいた。
手を伸ばしてシャーロットの二の腕を引いた。
「きゃっ」
部屋に引き込まれたシャーロットは、カーペットに足を取られてドサッと倒れ込んだ。
「痛…」
傷を負った腕を打ちつけて眉を顰めるシャーロット。
「済まない。大丈夫か?」
しまった。そこは怪我をしていた場所じゃないか。
ユリウスはシャーロットに手を差し出した。
「…殿下」
額にガーゼを貼り、ユリウスを見上げたシャーロットの眼から涙がポロポロと溢れる。
「痛いのか?怪我をしているのに、済まない」
ユリウスは少し慌ててシャーロットの側にしゃがみ込み、手を取って起き上がらせた。
シャーロットは涙を流しながら首を横に振る。
「…殿下こそ、お怪我は痛みませんか?」
着ているワンピースの袖から腕に巻いた包帯が少し見えた。
「俺は大丈夫だ」
「すみません…私また殿下に…お怪我を…」
「俺が勝手にした事だ。ロッテは気にしなくて良い」
泣かないでくれ。ロッテ。
手を伸ばして、指の背でシャーロットの頬に流れる涙に触れた。
「殿下?」
潤んだ瞳でユリウスを見るシャーロット。
「ロッテ、俺は…」
コンコン。
とノックの音がして、ルーカスの声がする。
「グリフを連れて来ました」
良かった。言わなくて良い事を口にしてしまう処だった。
ユリウスは小さく息を吐くと、立ち上がり、シャーロットの手を取ると、ソファへと座らせた。
シャーロットの前のテーブルの上に開いて置かれている本。そして、開いた頁にシャーロットの編んだ栞が置かれている。
「入れ。グリフだけだ」
ユリウスは立ったままシャーロットの前へ手を伸ばし、パタンと本を閉じた。
「ロッテ…」
部屋に入って来たグリフはシャーロットを見て呟く。
「グリフ様」
ロッテは今どんな表情でグリフを見ているのか…見たくない。
ユリウスは敢えてグリフだけを視界に入れる。
「グリフ、辺境伯領から自分の結婚相手を連れ帰ったと言うのは、本当なのか?」
グリフは重々しい表情で頷いた。
「はい。本当です」
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