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ユリウスは部屋の扉の前に立っているグリフにツカツカと近付くと、拳を振り上げ、思い切りグリフの頬へ叩き付けた。
グリフは側にあったサイドボードに倒れ込み、その上に置いてあった燭台が床に落ちて音を立てる。
ガシャンッ!!
「きゃあ!」
シャーロットが短く悲鳴を上げた。
「随分と大人しく殴られるんだな?グリフ」
ユリウスも鍛錬はしているが、闘えば当然騎士であるグリフの方が強い。今の拳も避けようと思えばグリフには簡単に避けられる。つまりグリフは敢えてユリウスの拳を受けたと言う事だ。
「…ええ、殿下とルーカスとロッテからの拳から逃げる資格は俺にはありませんから」
頬を押さえて立ち上がるグリフ。
「何で…」
シャーロットが呟く。
ルーカスとロッテの怒りを受け止めるのは当たり前だが、何故俺のまで?とロッテは思っているか?
いや、そもそも何故グリフが結婚相手を連れ帰った事で俺が憤るのか、そこからの疑問だろうか?
ユリウスは苦笑いを浮かべると、シャーロットの手を取ってソファから立たせた。
「ユリウス殿下?」
そのままシャーロットを扉の方へと連れて行く。
「ルーカス!」
扉の向こうに居るルーカスを呼んだ。
「はい」
「ロッテをここから遠ざけてくれ」
扉を開けて、シャーロットを外へと促す。
「殿下…」
イヤイヤと首を振るシャーロット。
「頼むから…聞かないでくれ」
これからグリフとルーカスに話す事を。
情けない俺の話しを、ロッテには聞かれたくない。
ユリウスは悲しそうに笑ってシャーロットの背中をトンと押した。
「ロッテはさっき転倒して傷のある腕を床に当てている。医療棟へ連れて行って診てもらってくれ」
ユリウスはルーカスにそう言うと、扉を開けたまま、部屋の中に戻る。
ルーカスには「入れ」と言わなくても、通じるだろう。
メレディスにシャーロットとマリアを預けたルーカスは、ユリウスの部屋に入ると扉を閉じた。
やはり、ルーカスは俺の事を良くわかっている。
ああ、でも、それもこれまでだろうな。
ユリウスはさっきまでシャーロットが座っていたソファに座ると、扉の前に立つルーカスと、少し横のサイドボードの側に立つグリフとを眺める。
「明日、陛下と話すまで他には言わないつもりだったが」
ユリウスは自分の腿の上で両手を組んで話し出した。
「……」
「……」
ルーカスとグリフは固唾を飲んでユリウスの次の言葉を待つ。
「俺は陛下へ廃太子を申し出る」
ユリウスはそうキッパリと言い切った。
「…は?」
グリフは目を丸くし、
「…っ」
ルーカスは絶句する。
「廃太子とは…王にはならないと?ユリウス殿下が?」
グリフが不可解な面持ちで言う。
「そうだ」
「なっ!何故ですか!?」
ルーカスは動揺した様子を見せた。
「俺は、一度ならず二度までも自分の身の安全よりも……他の者を優先した。こんな男が王になるなど、許されない」
握り合わせた両手にグッと力を入れる。
「ロッテを…庇ったからですか?」
「相手は関係ない」
「いいえ。関係あります」
ルーカスはユリウスに近付くと、ユリウスの斜め前に跪いた。
「もしや廃太子し、ロッテに求婚するおつもりですか?」
「ロッテに求婚?」
ユリウスは自分を見つめるルーカスに視線を向けると、口角を上げて言う。
「ロッテの事をお好きなんですよね?」
口角を上げたまま、ふっと息を吐くユリウス。
「…王太子である事にしか価値がない男が、王太子でなくなれば何の価値もない。そんな男がロッテに相応しいと思うのか?」
ルーカスは吃驚の表情でユリウスを見た。
「な…んの…価値もない?」
「そうだ」
「殿下に価値がない訳がないでしょう?」
グリフが眉を顰めて言うが、ユリウスは自虐的に笑うだけだ。
「殿下…」
「では『王太子』でも『王子』でもない俺、ただのユリウスの価値は、何だ?ただのユリウスの周りには誰が残る?…誰も残りはしない」
ソファに寄り掛かり足を組む。
「私は…」
「ルーカスは、俺の侍従を辞めるつもりだったろう?」
ルーカスが言葉を発し掛けると、ユリウスがそれに被せるように言った。
「っ。それは…」
「ルーカスが?」
グリフが驚いた顔でルーカスを見る。
「今はそのようなつもりはありません」
「一度でもそう考えたという事は、状況次第ではまたそうなるという事だ」
「……」
ルーカスは俯いて唇を噛み締めた。
「ただの俺の周りには、誰もいないんだよ」
ユリウスは天を仰ぐと、目を閉じてそう言った。
ユリウスは部屋の扉の前に立っているグリフにツカツカと近付くと、拳を振り上げ、思い切りグリフの頬へ叩き付けた。
グリフは側にあったサイドボードに倒れ込み、その上に置いてあった燭台が床に落ちて音を立てる。
ガシャンッ!!
「きゃあ!」
シャーロットが短く悲鳴を上げた。
「随分と大人しく殴られるんだな?グリフ」
ユリウスも鍛錬はしているが、闘えば当然騎士であるグリフの方が強い。今の拳も避けようと思えばグリフには簡単に避けられる。つまりグリフは敢えてユリウスの拳を受けたと言う事だ。
「…ええ、殿下とルーカスとロッテからの拳から逃げる資格は俺にはありませんから」
頬を押さえて立ち上がるグリフ。
「何で…」
シャーロットが呟く。
ルーカスとロッテの怒りを受け止めるのは当たり前だが、何故俺のまで?とロッテは思っているか?
いや、そもそも何故グリフが結婚相手を連れ帰った事で俺が憤るのか、そこからの疑問だろうか?
ユリウスは苦笑いを浮かべると、シャーロットの手を取ってソファから立たせた。
「ユリウス殿下?」
そのままシャーロットを扉の方へと連れて行く。
「ルーカス!」
扉の向こうに居るルーカスを呼んだ。
「はい」
「ロッテをここから遠ざけてくれ」
扉を開けて、シャーロットを外へと促す。
「殿下…」
イヤイヤと首を振るシャーロット。
「頼むから…聞かないでくれ」
これからグリフとルーカスに話す事を。
情けない俺の話しを、ロッテには聞かれたくない。
ユリウスは悲しそうに笑ってシャーロットの背中をトンと押した。
「ロッテはさっき転倒して傷のある腕を床に当てている。医療棟へ連れて行って診てもらってくれ」
ユリウスはルーカスにそう言うと、扉を開けたまま、部屋の中に戻る。
ルーカスには「入れ」と言わなくても、通じるだろう。
メレディスにシャーロットとマリアを預けたルーカスは、ユリウスの部屋に入ると扉を閉じた。
やはり、ルーカスは俺の事を良くわかっている。
ああ、でも、それもこれまでだろうな。
ユリウスはさっきまでシャーロットが座っていたソファに座ると、扉の前に立つルーカスと、少し横のサイドボードの側に立つグリフとを眺める。
「明日、陛下と話すまで他には言わないつもりだったが」
ユリウスは自分の腿の上で両手を組んで話し出した。
「……」
「……」
ルーカスとグリフは固唾を飲んでユリウスの次の言葉を待つ。
「俺は陛下へ廃太子を申し出る」
ユリウスはそうキッパリと言い切った。
「…は?」
グリフは目を丸くし、
「…っ」
ルーカスは絶句する。
「廃太子とは…王にはならないと?ユリウス殿下が?」
グリフが不可解な面持ちで言う。
「そうだ」
「なっ!何故ですか!?」
ルーカスは動揺した様子を見せた。
「俺は、一度ならず二度までも自分の身の安全よりも……他の者を優先した。こんな男が王になるなど、許されない」
握り合わせた両手にグッと力を入れる。
「ロッテを…庇ったからですか?」
「相手は関係ない」
「いいえ。関係あります」
ルーカスはユリウスに近付くと、ユリウスの斜め前に跪いた。
「もしや廃太子し、ロッテに求婚するおつもりですか?」
「ロッテに求婚?」
ユリウスは自分を見つめるルーカスに視線を向けると、口角を上げて言う。
「ロッテの事をお好きなんですよね?」
口角を上げたまま、ふっと息を吐くユリウス。
「…王太子である事にしか価値がない男が、王太子でなくなれば何の価値もない。そんな男がロッテに相応しいと思うのか?」
ルーカスは吃驚の表情でユリウスを見た。
「な…んの…価値もない?」
「そうだ」
「殿下に価値がない訳がないでしょう?」
グリフが眉を顰めて言うが、ユリウスは自虐的に笑うだけだ。
「殿下…」
「では『王太子』でも『王子』でもない俺、ただのユリウスの価値は、何だ?ただのユリウスの周りには誰が残る?…誰も残りはしない」
ソファに寄り掛かり足を組む。
「私は…」
「ルーカスは、俺の侍従を辞めるつもりだったろう?」
ルーカスが言葉を発し掛けると、ユリウスがそれに被せるように言った。
「っ。それは…」
「ルーカスが?」
グリフが驚いた顔でルーカスを見る。
「今はそのようなつもりはありません」
「一度でもそう考えたという事は、状況次第ではまたそうなるという事だ」
「……」
ルーカスは俯いて唇を噛み締めた。
「ただの俺の周りには、誰もいないんだよ」
ユリウスは天を仰ぐと、目を閉じてそう言った。
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