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 ユリウスの元に王妃、側妃、アイリーン、自宅にいるオードリーたち婚約者候補は怪我もなく無事との知らせが入る。
「王城内に怪我人は出ているのか?」
「現在確認できているのは、倒れた家具やガラスなどで怪我をした者が五名。階段から転落した者が二名。一名が骨折の重症で、六名は軽傷です。図書室の被害が甚大ですが、詳細はまだ入っていません」
 侍従が報告書を見ながら言う。
 執務机に王都近辺の地図を広げ、立ってその地図を見下ろしながらユリウスは頷いた。
「王都に出た騎士からの報告は?」
「先程、一小隊が戻りまして、倒壊や損壊した建物が散見されると。死者も数名出ているようで、負傷者多数との報告もあります」
「そうか…」
 宰相が執務室に入って来る。
「国王陛下とスアレス殿下は宿泊の予定を変更し、今夜夜半には王都に入られるとの事です」
「わかった」
 ユリウスはほっと小さく息を吐いた。

 個人の病院などで被害の少ない所へ物資と資金を提供し、無償で負傷者を受け入れるよう要請する指示をし、備蓄の確認を命じた。
「ユリウス殿下、マリア・マードック嬢がお見えです。」
 執務室の前に立っていた護衛騎士が扉を開けてユリウスに向かって言う。
「通せ」
「はっ!」
 騎士に続いて入って来たマリア。
「ルーカスと会えたか?」
 ユリウスが地図に視線を落としたままで言った。
「はい。ルーカス様より伝言を預かって参りました」
「ああ」
 ユリウスはマリアへと視線を向ける。
「『ロッテは保護した』とお伝えしろと」
 マリアがそう言うと、ユリウスは頷いた。

「マリア、ロッテは…」
 ユリウスはそう言い掛けて、口を噤む。
「…いや、いい。ルーカスには、今夜半には陛下が戻られる。だから心配はいらないと伝えてくれ」
「承知いたしました。では、失礼いたします」
 マリアが礼をして、顔を上げた時、ユリウスと目が合う。
 ユリウスは僅かな微笑みをマリアへ向けた。

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「ルーカス殿がここに居ないのは妹君のせいでしたか」
 マリアが退出した執務室で、宰相が言う。
「俺が『妹を探しに行け』と命じたのだから、ルーカスに非はないぞ」
 ユリウスは執務机の上の地図に印を書きながらそう言った。
「ほう。殿下が命じられたのですか」
 顎に手を当ててユリウスを見る。ユリウスは地図を見ながら眉を顰めた。
「ああ。それより、この地区に損壊した建物が集中しているようだが…」
 ユリウスは地図の一画に指でくるりを円を描く。
「ああ…貧民街ですな」
 宰相は、その地域は簡素な構造の建物が多いので揺れに耐えられなかったのだろうと言う。
 頑丈な家や施設を建てるにはどうすれば良いだろう。
 家を建て、与えるのは違う。資金提供も貧民街の者にだけと言う訳にもいかない。
 建物を建築する際の基準を厳しくするか?そして、適した物には補助金や助成金を出すのはどうか。
 しかしルーカスが言っていた「ジシン」と言うものが何故起きたのか、これからも起きるのかがわからない事には対策も立てられないか。

 暫くユリウスが考えを巡らせていると、宰相が言った。
「殿下、少し休憩を取られてください」
 椅子にもたれて報告書を見ているユリウスは
「必要ない」
 と言う。
「張り詰めたままでは保ちませんよ?」
「陛下が戻られるまでだ。そう長い時間ではない」
「いいえ。着替えて、ヒゲを剃り、そして医療棟へ行き、お背中の傷を消毒して来てください」
 ユリウスは眺めていた書類を、その手からスッと取られ、書類を取った宰相を見やる。
 宰相は意味あり気に眉を上げた。
「何だ?」
「医療棟へ行かれたら、ついでに寄ってみたらいかがです?」
「寄る?」
「ルーカス殿の妹君の所へ」
「…は?」
「ついで、ですよ。ルーカス殿の妹君は婚約者候補ですし、医療棟へ行くなら、寧ろ寄らない方が不自然です」
 ニッコリと笑う。
「……」
 宰相が何故ロッテに会いに行けと言う?
 訝し気に宰相を見るユリウスに、宰相は言った。

「陛下も婚約内定を反故にし、ユリウス殿下の母上を娶られた事、ユリウス殿下はご存知ですか?」



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