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88.歪な気持ち(アデルバート視点)
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腕の中のシャトレーヌの温もりが、全身を駆け巡るようだ。
いや、温もりだけではない。彼女の体から微かに立ち上る香りが、私の、男としての本能的な部分を刺激する。
勿論女を抱いたことはあるが、このような気持ちになるのは初めてだった。
このまま、寝室に閉じ込めて抱いてしまいたくなる衝動を抑え、とにかく旅支度を解いて寛がせることにする。
急ぎ作らせたドレスは、昨日のうちに全て運び込まれていた。きっと何を着ても美しいだろうが、いつか私の瞳の色と同じ、深紅のドレスを着せてみたいと思った。
着替えを済ませて現れたシャトレーヌはやはり素晴らしく美しかった。
「このような素敵なドレスをたくさんご用意頂き、ありがとうございます。でも、あんなにたくさん用意して頂いてしまって心苦しいのですが………」
「気に入らなかったか?」
シャトレーヌは控えめな性格のようだ。そんなところも好ましい。
「いえ、どれも素晴らしいものばかりで、私のような者には………」
その言葉を聞いた途端に私は急に怒りが湧いてきた。
こんなにも素晴らしい令嬢なのに、何故そのように自分を卑下するのか。
両親か、或いは周囲の者にそう吹き込まれたのかは分からないが、彼女のその何気ない発言が無性に腹立たしかった。
私が怒りを顕にすると、シャトレーヌは怯えたように私を見た。
「怯えているな。私が怖いか」
「怖いと思う気持ちと、そうでない気持ちが半分ずつ、でしょうか」
私が問いかけると、シャトレーヌは答えた。私は意外な答えに少し驚く。
「そうでない気持ち?」
「噂で聞いていた黒焔公爵様は、人嫌いで残酷な方だと………。ですから、私はもっと冷たくあしらわれると思っていたのです。でも、公爵様はわざわざ出迎えまでしてくださって、こんなに素敵なドレスまでご用意下さっていたのが、少し意外で………」
「噂か」
私は髪を掻き上げた。
そんな私をシャトレーヌは見つめている。
「確かに私は人嫌いだ。他人と関わるのは面倒だし、殊に貴族達は五月蝿くて敵わぬ。それに戦や魔物討伐で身を立てているのだから、残酷とみなされるのは当然だろう。だが、私は別に好き好んで戦に身を投じているわけではない。迫る危険がある以上、それは取り払わなければならぬ」
私は少し、口元を歪めた。
「私は北の守りという役目を果たしているに過ぎない。出来ることなら私だって平穏に暮らしたいと思っている。グロリオサ公爵家になど生まれていなかったら、もっと違った暮らしが出来ただろうな」
そこまで話すと、シャトレーヌが微笑んだ。
「………おかしいか?」
「いえ、それは当然の感覚だと思います。やっぱり噂など、当てになりませんわね」
私は何だか照れくさくなった。
こんなにも、自分の事を、他人に話したことがなかった。
「………こんな事を話したのは、お前が初めてだな」
「私達は本日が初対面です。私は公爵様の人となりを存じませんので、色々教えて下さいませね」
優しい微笑みをシャトレーヌが浮かべると、我慢していた欲求が、私の中で爆発した。
「………それは、私を煽っているのか?」
「え………?」
私は徐にシャトレーヌの体を抱き寄せた。
そして、その細い顎を掴み、上に向ける。
「んっ…………!」
次の瞬間、私は彼女の唇を奪っていた。
初めはただ、唇が押し当てられているだけだったが、ゆっくりと腔内に舌を入れ、蹂躙し始める。柔らかな舌先が歯列をなぞり、舌を絡目とった。
何をしているのだ、と私の中の理性が頭を持ち上げたが、私は止めることができなかった。
いや、温もりだけではない。彼女の体から微かに立ち上る香りが、私の、男としての本能的な部分を刺激する。
勿論女を抱いたことはあるが、このような気持ちになるのは初めてだった。
このまま、寝室に閉じ込めて抱いてしまいたくなる衝動を抑え、とにかく旅支度を解いて寛がせることにする。
急ぎ作らせたドレスは、昨日のうちに全て運び込まれていた。きっと何を着ても美しいだろうが、いつか私の瞳の色と同じ、深紅のドレスを着せてみたいと思った。
着替えを済ませて現れたシャトレーヌはやはり素晴らしく美しかった。
「このような素敵なドレスをたくさんご用意頂き、ありがとうございます。でも、あんなにたくさん用意して頂いてしまって心苦しいのですが………」
「気に入らなかったか?」
シャトレーヌは控えめな性格のようだ。そんなところも好ましい。
「いえ、どれも素晴らしいものばかりで、私のような者には………」
その言葉を聞いた途端に私は急に怒りが湧いてきた。
こんなにも素晴らしい令嬢なのに、何故そのように自分を卑下するのか。
両親か、或いは周囲の者にそう吹き込まれたのかは分からないが、彼女のその何気ない発言が無性に腹立たしかった。
私が怒りを顕にすると、シャトレーヌは怯えたように私を見た。
「怯えているな。私が怖いか」
「怖いと思う気持ちと、そうでない気持ちが半分ずつ、でしょうか」
私が問いかけると、シャトレーヌは答えた。私は意外な答えに少し驚く。
「そうでない気持ち?」
「噂で聞いていた黒焔公爵様は、人嫌いで残酷な方だと………。ですから、私はもっと冷たくあしらわれると思っていたのです。でも、公爵様はわざわざ出迎えまでしてくださって、こんなに素敵なドレスまでご用意下さっていたのが、少し意外で………」
「噂か」
私は髪を掻き上げた。
そんな私をシャトレーヌは見つめている。
「確かに私は人嫌いだ。他人と関わるのは面倒だし、殊に貴族達は五月蝿くて敵わぬ。それに戦や魔物討伐で身を立てているのだから、残酷とみなされるのは当然だろう。だが、私は別に好き好んで戦に身を投じているわけではない。迫る危険がある以上、それは取り払わなければならぬ」
私は少し、口元を歪めた。
「私は北の守りという役目を果たしているに過ぎない。出来ることなら私だって平穏に暮らしたいと思っている。グロリオサ公爵家になど生まれていなかったら、もっと違った暮らしが出来ただろうな」
そこまで話すと、シャトレーヌが微笑んだ。
「………おかしいか?」
「いえ、それは当然の感覚だと思います。やっぱり噂など、当てになりませんわね」
私は何だか照れくさくなった。
こんなにも、自分の事を、他人に話したことがなかった。
「………こんな事を話したのは、お前が初めてだな」
「私達は本日が初対面です。私は公爵様の人となりを存じませんので、色々教えて下さいませね」
優しい微笑みをシャトレーヌが浮かべると、我慢していた欲求が、私の中で爆発した。
「………それは、私を煽っているのか?」
「え………?」
私は徐にシャトレーヌの体を抱き寄せた。
そして、その細い顎を掴み、上に向ける。
「んっ…………!」
次の瞬間、私は彼女の唇を奪っていた。
初めはただ、唇が押し当てられているだけだったが、ゆっくりと腔内に舌を入れ、蹂躙し始める。柔らかな舌先が歯列をなぞり、舌を絡目とった。
何をしているのだ、と私の中の理性が頭を持ち上げたが、私は止めることができなかった。
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