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295.対面

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しかし、その気迫が保てたのは束の間で、アリーチェの背後に佇むアンジェロの姿を認めると、生気のない眼を目一杯見開いた。

「お、王太子………、……………っ?!」

慌てて飛び起きようとするが、ティルゲルの四肢と首を拘束する鎖により、その行動は阻まれた。
ガシャン、と金属同士がぶつかり合う激しい音が響き、ティルゲルの顔に苦悶が浮かぶ。

「…………久しいな、ティルゲル」

アンジェロはゆっくりと鉄格子へと歩み寄り、ティルゲルに向かって穏やかに語り掛ける。
しかしその表情は氷のように冷たいものだった。

「な…………、何故っ?死んだ筈では…………っ!」

予想だにしなかった人物の登場に、ティルゲルは激しく動揺しているようだった。
平常時のティルゲルならば上手く取り繕って、アリーチェとの再会の時と同様に『よくぞご無事で』などと心にも無い言葉を口にしながら涙を流して見せただろう。
だが、ティルゲルはアンジェロに対して『殿下』という尊称もつけず、心配していたという素振りすら見せなかった。

「………私が無事だと、何か都合が悪い事でもあるのかい?」

皮肉をたっぷりと含んだ言葉をティルゲルに投げかけると、アンジェロはわざとらしく微笑んだ。

「…………ぁ…………」

微かな呻きが聞こえたが、それ以上の返事は聞こえてこなかった。
すると二人のやり取りを見守っていたルドヴィクが衛兵に声を掛けた。

「これでは埒があかん。其奴の鎖を外してやれ」
「………は、しかし………」

良いのですか?と言わんばかりに、命じられた騎士が躊躇いがちにルドヴィクを見遣る。
だがルドヴィクの態度は全く揺らがなかった。

「拘束を外した所で、其奴には何も出来ない。そもそもその拘束具は、辱めという意味合いが強いものだから、なくても全く問題はない。…………それに万が一、逃げ出したり、我々に危害を加えるような素振りを見せた時は、容赦なくその四肢を切断する」

穏やかで、優しいルドヴィクにしては珍しく攻撃的な発言に、アリーチェははっとしてルドヴィクを見た。
表情からは窺えなかったが、ルドヴィクの深いエメラルド色の隻眼が静かな怒りを湛えていることに気が付いた。
彼も彼なりに、ティルゲルに対して憎しみを持っているのだろう。
そのまま黙っていると、仕方なさそうに騎士達が牢へと入り、ティルゲルの鎖を外した。
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