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閑話 密約?(ルドヴィク視点)※読まなくても本編には影響ありません

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「………ああ、それと」

少しの間を置いて、アンジェロが思い出したかのように再び口を開いた。
まだ何かあるのか、と言わんばかりにルドヴィクが顔を顰める。
だが相変わらずアンジェロはそれに気が付かないふりをしているようだった。

「もう一つだけ条件を追加させて貰えるならば、アリーチェを世界一幸せな王妃にすることも、私からの取引に加えて貰いたいな」

次いで紡がれた言葉の優しさに、ルドヴィクは一瞬息を止め、それからゆっくりと頬を緩めた。

『世界一幸せな王妃』ーーー。
ルドヴィクはその言葉を深く噛み締める。
アリーチェを世界一幸せな王妃に出来たとしたら、自分は間違いなく世界一幸せな国王になるだろう。
そう思うと何だか感慨深かった。

自分の意思とは関係なく就いた王という地位。
一時は自らの中に流れる血を忌々しく感じた事もあった。
だが、王という地位にあったことでアリーチェの命を救い、図らずも彼女の愛を得ることが出来たという事実に、今は寧ろ『イザイア国王』という立場にあることを誇らしくすら思えた。

「………承知した。必ず成し遂げると、約束する」

『努力する』でも『可能な限り』でもなく、はっきりとした意志の籠もった返答に、今度はアンジェロがはっと目を見開き、それから満足そうに微笑んだ。

ばかり押し付ける形で、申し訳ない」

形ばかり心苦しそうに、アンジェロが肩を竦める。しかし微塵もそう思っていないことは表情からも見て取れた。

「………カヴァニスの新国王陛下は想像以上に食えない御方だな」
「何を仰います。イザイアの国王陛下は正義感に溢れ、誰よりも強く、しかし奢らず、そして慈愛に満ちていらっしゃるではありませんか。『国王』としての経験も豊富ですから、是非とも色々と学ばせて下さい」

ケチのつけようがない程に完璧な笑顔を見せると、アンジェロが畏まって頭を下げた。
ここ数日でルドヴィクとアンジェロは打ち解け、互いに気安い言葉を交わせる間柄になっていたせいか、丁寧な言葉遣いをされると妙な感じがした。

「………これからも、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしく」

何と切り返せば良いのか分からず、ルドヴィクははにかみながら右手を差し出す。
アンジェロは迷いなくその手を握ると、深く頷いた。

カヴァニスの屋敷の一室で行われた約束は、二人だけの秘密となったのだった。
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