国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

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本編(アルフォンシーナ視点)

99.嫌な予感

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薄い夜着が足に纏わりつくのも厭わず、アルフォンシーナは足早に廊下を進んだ。
行動も装いも、淑女としてはあるまじきものだったが、今はそんな事すらもどうでもいいと思えるくらい、アルフォンシーナの頭の中はベルナルドの事でいっぱいだった。

本当に、あの鉄錆の匂いがベルナルドの血の匂いだったとしたら、あれだけの広い空間に充満する程の出血だったということになる。
彼がどこを負傷しているのかは全く分からないが、受傷した部位によっては生命の危険に関わるかもしれない。

てっきりビアンカの手当の為だと思い込んでいた侍女たちの行動も、ベルナルドの怪我のためだとすれば、全て辻褄が合う。

だが、あれがベルナルドが流した血と決まったわけでもない。
もしかすると、ビアンカを救出する際に誰かを傷つけ、返り血を浴びただけかもしれない。
ーーーだが、そうだとしたら着替えもせずに執務室にいるだろうか。
明らかな矛盾を感じながらも、アルフォンシーナは僅かな希望に賭けながら、立ちはだかる重厚な扉を叩いた。

「………旦那様?アルフォンシーナでございます」

彼の返事がありますようにと祈りながら声を掛けるが、彼女の期待は見事に裏切られる。

「………旦那様?いらっしゃらないのですか?」

もう一度ノックをしながら声を掛けるが、やはり返事はなかった。
アルフォンシーナは諦めようかとも思ったが、それでは何のためにここまでやってきたのか分からない。
迷いながらも、真鍮製のドアノブに手を掛け、力を込めた。

「失礼致します」

遠慮がちに声を掛け、扉の隙間から顔を出すが、やはり返事はない。
ゆっくりと扉を開けると、アルフォンシーナは室内へと足を踏み入れた。

部屋の中は相変わらず暗く、ベルナルドの執務机の燭台だけに明かりが灯っている。
にも関わらず、部屋の主の姿は見えない。
そして室内には、先程と同様にーーーいや、それよりもずっと濃度の濃い鉄錆の匂いが漂っていた。

(………たまたま、席を外していらっしゃるだけならばいいのだけれど………)

そう思いながらも、まるで何かに引き寄せられるかのようにアルフォンシーナは執務机の方へと近づいていく。

「……………う………」

執務机のすぐ傍まで来ると、微かな呻き声のようなものが聞こえた気がした。
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