【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

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第七幕 予感 一

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   第七幕 予感

     一

 広間では、警部とプロファイラー、名探偵と女探偵が集い、今か今かと作戦会議の時間を待っていた。
 いや、会議の開会時刻を待っているというのは、適切な表現ではないのだろう。その証拠に、開会を待ちわびているというには、警部の顔はストレスに汚染されていた。
「まだかね、霧崎君。私達だって、あまり暇ではないのだが。わざわざ君の情報を聞きに、この会議に集まっているのだよ。早く始めてしまおう。」
 イライラと貧乏ゆすりをしながら、後一歩のところで喚き散らすのを理性がとどめている。警部は、この待ち時間が許せないようだ。
 対する霧崎は、警部の機嫌を何とか宥めようと骨を折っている。
「しかし、警部。昨日、俺からアイツを誘ったんですから。もう少しだけ待って下さい。例えば、アイツだって、情報収集していて止むを得なく遅れているのかもしれませんよ。」
「そんなわけないだろ!」
 警部の扱いに困っている霧崎と苦虫を噛み潰したような警部。今、名コンビの連携状態はピンチに陥っている。
 他にテーブルを囲むのは、女探偵とプロファイラーだが、二人はそれぞれ、特に退屈した様子もイライラした様子もなく、ただ自分のペースで時を過ごしていた。
 持参したノートパソコン相手に、集中しているプロファイラー竹川は、名コンビの信頼関係に入りそうになっている亀裂にも興味を示さず、キーボードを叩いている。警部の八つ当たりなどにも慣れている様子で、今更騒ぎ立てることなどないとでも言わんばかりだ。
 もう一人の参加者、女探偵琉衣は、二人のやり取りに構わず、特に何をするでもなくキレイに塗装された自分の爪を玩んでいた。
「あんな奴、いない方がマシだ。霧崎君、君は何故それが分からないんだ?」
「いえ、でも、頼りになる奴ですよ。」
 他の事柄では意見の一致を見る名コンビだが、ことヒョウに関してのみ、双方の主張は真っ向から対立していた。
「なあ、横山君。アイツは、本当に作戦会議に出るって言っていたんだろう?」
 対処が困難な警部から視線を外し、逃げるように琉衣に尋ねる霧崎。
 琉衣は爪から霧崎に視線を移して、笑顔で頷いた。
「はい!凍神さんは、そう言ってましたよ。」
 名探偵に従順な琉衣は、補佐役として役割をこなすように名探偵の質問に答える。
「ほら、大丈夫ですよ、警部。」
自信を見せながら警部に頷いてみせる霧崎。
しかし、警部はそんなことで納得しなかった。
「君は奴の恐ろしさを知らないんだ。あんな奴、いるだけで人類の不幸が加速するんだ。奴が顔を出すたびに、いったいどれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ?」
 何か恐ろしい体験談でも、夏に相応しい怪談でも話すような調子で、警部は独り言のように呟く。
 霧崎は困ったように肩を竦めた。
「そんなこと言っても、警部。今回の依頼は調査だけですよ。事件だって、一ヶ月前に終わってしまっているんです。それで、どうやって人が死ぬんですか?連続殺人事件の渦中にいるのとは訳が違うんですよ。」
 しかし、どんな言葉も警部には届かない、警部のヒョウへの悪感情を憎悪を恐怖をやわらげる言葉などありはしない。血圧を上げながら、顔を真っ青から真っ赤にして、警部は力説する。
「蚊帳の中にいるということが問題なんだ!奴は、どこからでも悲劇の種を見つけて来るんだぞ!そういう最低な奴だ!霧崎君、そんなことを言っている間に、誰かが死ぬぞ!」
「おやおや、素敵な噂話ですね。私も混ぜていただくわけにはまいりませんか?」
 警部の力説に自然に割り込むように、涼しげな声音が広間に響く。
最後の出席者の登場に、広間の全員が顔を上げた。
「どうやら遅れてしまったようですね。お待たせしてすみませんでした。」
 まるで主賓のような態度で、広間の中央へと進み出るヒョウ。
 何よりも目を引くのは、リンを抱き上げているところだろう。
「凍神!やはり来てくれたのか!」
 警部に向き合っていたはずの霧崎が、いつの間にかヒョウを歓迎している。
「協力してくれるというわけだな?これで何よりも心強い!」
 熱く語りかける霧崎は、ヒョウがリンを抱き上げていなければ肩でも抱き合いそうな勢いで喜んでいる。
 リンをソファに降ろし、ヒョウは冷めた視線で霧崎を見つめる。
「協力すると言った覚えはありませんよ。会議に参加するだけです。」
 つれないヒョウの返事にもかかわらず、霧崎はこの場にヒョウが来たことだけで満足しているようだった。
「まあ、いいだろう。会議に参加するということは、お前の斬新な意見を聞かせてくれるということだしな。」
 そして、霧崎は全員に向けて自信に満ちた笑みを浮かべ、開会を宣言する。
「じゃあ、全員揃ったところで、会議を始めよう。」
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