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最終幕 九 「貴方は、シリアルキラーに会いたいですか?」
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九
四日間慣れ親しんだ客室では、リンが名残惜しさなど微塵も感じずに帰る支度を整えていた。荷物は少ないので、すぐに支度は終わってしまう。
「先生、もう明日からお休みでしょ?」
嬉しそうにリンが尋ねる。
ヒョウは椅子に座ったまま、リンへと微笑んだ。
「はい。夏休みにしましょう。」
リンの鈴が肯定の弾んだ音を響かせる。
最後にリンは支度の仕上げとして、室内を見回した。
「忘れ物は、なし!」
元気のよい確認。
そもそも忘れ物があるほど、二人に荷物はない。
「先生、準備できた!」
荷物の全てが入った小さなトランクを抱え、リンはヒョウの隣まで移動する。
「はい、お疲れ様でした。」
ヒョウは椅子から立ち上がることなく、リンに微笑を向けた。
いつまでも立ち上がる様子を見せないヒョウの態度に、リンが首を傾げる。
「先生、帰らないの?」
「ええ、まだ遣り残したことがありまして。」
ヒョウの返答に納得すると、リンはトランクをテーブルの上に置き、ベッドに腰掛けた。足をぶらぶらと動かし、リンはリズミカルに首を揺らす。
そこへ、タイミングを計ったかのようなノックの音が室内に届けられた。
コンコン
リンが急いで立ち上がり、扉まで走る。
「どなたですか?」
リンが扉の向こうに尋ねると、扉の向こうから礼儀正しい返答が返ってきた。
「僕です、竹川です。凍神さん、少しいいですか?」
ヒョウの返事を確認するためにリンが振り返ると、ヒョウは了承を表すように頷いた。
リンは了承を受けて、扉を開く。
「どうぞ。」
プロファイラー竹川を室内に招き入れると、リンはベッドの上という定位置に戻った。
椅子に座ったヒョウと向かい合う位置まで進み、竹川は立ち止まる。
「何かご用ですか?」
ヒョウは涼しげな微笑を竹川に向けた。
竹川は人懐っこい笑みを浮かべていた。
「いえ、あの、凍神さんとのお話は、とても参考になったんで、これからも出来れば、貴方の話をお聞きしたいんですけど、いいですか?」
おずおずと顔色を伺うようでいて、どこかおねだりしているような竹川。
ヒョウは微笑のまま頷いた。
「ええ、どうぞ。私の愚見で宜しければ、事務所の方にでも連絡して下さい。」
「有難うございます!」
竹川は思い切り頭を下げた。
「死の押し売り師の話が出来る人がいて嬉しいです!これからも、よろしくお願いします。」
「いえいえ。」
夏の日は長く、昼下がりから夕刻へ移行する時間になっても暑さが弱まることはない。外界では短い命の中で、精一杯の命の輝きを見せつけるように蝉が啼き叫んでいる。
何人かの探偵は既に屋敷を後にして、帰途に着いていた。最後の事後処理に追われていた霧崎も、既に屋敷にはいない。
「竹川サン。一つお聞きしてもよろしいですか?」
唐突にヒョウが尋ねる。
竹川は快く頷いた。
「どうぞ。僕に答えられることなら何でも聞いてください。」
力強く胸を叩く竹川に、ヒョウは何気ない口調で尋ねた。
「貴方は、シリアルキラーに会いたいですか?」
竹川の反応は数秒間の沈黙。その後、首を傾げた。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味です。」
ヒョウは微笑に変化一つ見せずに、悠然としていた。
しばらく考えた後、竹川は素直に答える。
「会いたいですね。聞きたいことがたくさんありますから。」
四日間慣れ親しんだ客室では、リンが名残惜しさなど微塵も感じずに帰る支度を整えていた。荷物は少ないので、すぐに支度は終わってしまう。
「先生、もう明日からお休みでしょ?」
嬉しそうにリンが尋ねる。
ヒョウは椅子に座ったまま、リンへと微笑んだ。
「はい。夏休みにしましょう。」
リンの鈴が肯定の弾んだ音を響かせる。
最後にリンは支度の仕上げとして、室内を見回した。
「忘れ物は、なし!」
元気のよい確認。
そもそも忘れ物があるほど、二人に荷物はない。
「先生、準備できた!」
荷物の全てが入った小さなトランクを抱え、リンはヒョウの隣まで移動する。
「はい、お疲れ様でした。」
ヒョウは椅子から立ち上がることなく、リンに微笑を向けた。
いつまでも立ち上がる様子を見せないヒョウの態度に、リンが首を傾げる。
「先生、帰らないの?」
「ええ、まだ遣り残したことがありまして。」
ヒョウの返答に納得すると、リンはトランクをテーブルの上に置き、ベッドに腰掛けた。足をぶらぶらと動かし、リンはリズミカルに首を揺らす。
そこへ、タイミングを計ったかのようなノックの音が室内に届けられた。
コンコン
リンが急いで立ち上がり、扉まで走る。
「どなたですか?」
リンが扉の向こうに尋ねると、扉の向こうから礼儀正しい返答が返ってきた。
「僕です、竹川です。凍神さん、少しいいですか?」
ヒョウの返事を確認するためにリンが振り返ると、ヒョウは了承を表すように頷いた。
リンは了承を受けて、扉を開く。
「どうぞ。」
プロファイラー竹川を室内に招き入れると、リンはベッドの上という定位置に戻った。
椅子に座ったヒョウと向かい合う位置まで進み、竹川は立ち止まる。
「何かご用ですか?」
ヒョウは涼しげな微笑を竹川に向けた。
竹川は人懐っこい笑みを浮かべていた。
「いえ、あの、凍神さんとのお話は、とても参考になったんで、これからも出来れば、貴方の話をお聞きしたいんですけど、いいですか?」
おずおずと顔色を伺うようでいて、どこかおねだりしているような竹川。
ヒョウは微笑のまま頷いた。
「ええ、どうぞ。私の愚見で宜しければ、事務所の方にでも連絡して下さい。」
「有難うございます!」
竹川は思い切り頭を下げた。
「死の押し売り師の話が出来る人がいて嬉しいです!これからも、よろしくお願いします。」
「いえいえ。」
夏の日は長く、昼下がりから夕刻へ移行する時間になっても暑さが弱まることはない。外界では短い命の中で、精一杯の命の輝きを見せつけるように蝉が啼き叫んでいる。
何人かの探偵は既に屋敷を後にして、帰途に着いていた。最後の事後処理に追われていた霧崎も、既に屋敷にはいない。
「竹川サン。一つお聞きしてもよろしいですか?」
唐突にヒョウが尋ねる。
竹川は快く頷いた。
「どうぞ。僕に答えられることなら何でも聞いてください。」
力強く胸を叩く竹川に、ヒョウは何気ない口調で尋ねた。
「貴方は、シリアルキラーに会いたいですか?」
竹川の反応は数秒間の沈黙。その後、首を傾げた。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味です。」
ヒョウは微笑に変化一つ見せずに、悠然としていた。
しばらく考えた後、竹川は素直に答える。
「会いたいですね。聞きたいことがたくさんありますから。」
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