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I think you(何してるの?) 3
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ラヴィが山を下りてラチアの家に到着したのは正午近くだった。
会いたいと逸る気持ちのまま巣を飛び出して来たものの、こうしてラチアの家の前に立つとなんだか会うのが気恥ずかしい。
会いに来た理由もすっかり頭の中から抜け落ちて『このままお礼の食べ物を置いて帰っちゃおうか』とも考えた。心の天秤が『帰ろう』と『会いたい』の間を彷徨っているのを表すように家の前で右往左往してたら、ラヴィの背後にある小屋の中からゴリッゴリッと何かを削る音が聞こえてきた。
以前ラヴィが里の人間に追われたとき、やみくもに逃げ込んだあの作業小屋だ。
『あ。ラチア、お仕事してるんだ』
てっきり家の中にいるのかと思っていたけれど、ラチアは小屋の中で仕事をしているらしい。作業小屋の窓に手をかけて背伸びをしながら中を覗くと、ラチアが油染みのある前掛けをつけて木片を削っていた。
『ラチアだぁ……』
ラヴィは久しぶりにラチアの姿を見て知らず知らずに口元を緩めた笑顔になっていた。
窓からはラチアの背中しか見えなかったれけど、後ろ姿を見ただけでほんわりと幸せな気分になったラヴィは、気付かれてないのをいいことにその後ろ姿をずっと覗き続けた。
『……そういえば、ラチアって何屋さんなんだろう?』
ラヴィはそれが不思議だった。
看病してもらっていたときにラチア本人は靴職人だと言っていたし、こうして実際に靴を作ってるから確かにそうなんだろうけれど、ラヴィがラチアの家に滞在している間にラチアの家を訪れてた人間は二人。
その二人ともが怪我人だった。
彼らはラチアに治療を頼んだけれど治療が終わると数枚の銅貨を置いてすぐに帰り、ラチアが作った靴には見向きもなかった。
本当はお医者さんじゃないのかな? とラヴィは思ってたけれど、ラチアは絶対に自分は医者だとは言わなかった。
『何か理由があるのかな……』
ラチアの背中を見つめながらぼんやりと考えていたせいで、ラヴィは横に立て掛けてあった箒に足を引っかけてしまった。
『あ!』
カサッ。
箒が草の上に倒れた僅かな音に反応してラチアが振り返り、窓から顔を出していたラヴィと目が合った。
「オマエ……」
ラヴィを発見したラチアは、ほんの一瞬で複雑な表情の動きを見せた。
最初は驚き。次に喜び。最後はなぜか困惑の表情。
「どうしてここにいる?」
ラチアに手招きされたラヴィはおずおずと作業小屋の中に入って訪問の理由を述べた。
「え? あ、その……。こないだのお礼をしてなかったから……」
ラヴィは抱えていた食料をラチアに見せてぎこちなく微笑んだ。
久しぶりに会ったせいか、なんだか緊張してしまう。
「お礼?」
ラチアは差し出されたお礼の食料を見ると再び驚いた表情をして、ますます苦しそうに顔を歪めた。
「そんなことはしてくれなくていい。俺はオマエに二度と山を下りてくるなと言ったはずだ」
「でも……」
きっと喜んでくれるはず。
そう思ってお礼を持ってきたのにラチアは全然喜んでくれない。
ラチアのこんな反応はラヴィにとって予想外で、だんだんと悲しい気分になってきた。
「ラチア、怒ってる? ボクが持ってきた食べ物……これじゃ少なかった?」
「そうじゃない。そういうことを言ってるんじゃないんだ」
ラチアは額に手を当てて「えー」とか「うーん」とか唸りながら悩んでいる。
「じゃあ、なに? 何がダメだった? 足りなかったのは何?」
「だから、そうじゃなくてだな……」
ラチアが首の後ろを掻きながらどう説明しようかと悩んでいた、その時――。
会いたいと逸る気持ちのまま巣を飛び出して来たものの、こうしてラチアの家の前に立つとなんだか会うのが気恥ずかしい。
会いに来た理由もすっかり頭の中から抜け落ちて『このままお礼の食べ物を置いて帰っちゃおうか』とも考えた。心の天秤が『帰ろう』と『会いたい』の間を彷徨っているのを表すように家の前で右往左往してたら、ラヴィの背後にある小屋の中からゴリッゴリッと何かを削る音が聞こえてきた。
以前ラヴィが里の人間に追われたとき、やみくもに逃げ込んだあの作業小屋だ。
『あ。ラチア、お仕事してるんだ』
てっきり家の中にいるのかと思っていたけれど、ラチアは小屋の中で仕事をしているらしい。作業小屋の窓に手をかけて背伸びをしながら中を覗くと、ラチアが油染みのある前掛けをつけて木片を削っていた。
『ラチアだぁ……』
ラヴィは久しぶりにラチアの姿を見て知らず知らずに口元を緩めた笑顔になっていた。
窓からはラチアの背中しか見えなかったれけど、後ろ姿を見ただけでほんわりと幸せな気分になったラヴィは、気付かれてないのをいいことにその後ろ姿をずっと覗き続けた。
『……そういえば、ラチアって何屋さんなんだろう?』
ラヴィはそれが不思議だった。
看病してもらっていたときにラチア本人は靴職人だと言っていたし、こうして実際に靴を作ってるから確かにそうなんだろうけれど、ラヴィがラチアの家に滞在している間にラチアの家を訪れてた人間は二人。
その二人ともが怪我人だった。
彼らはラチアに治療を頼んだけれど治療が終わると数枚の銅貨を置いてすぐに帰り、ラチアが作った靴には見向きもなかった。
本当はお医者さんじゃないのかな? とラヴィは思ってたけれど、ラチアは絶対に自分は医者だとは言わなかった。
『何か理由があるのかな……』
ラチアの背中を見つめながらぼんやりと考えていたせいで、ラヴィは横に立て掛けてあった箒に足を引っかけてしまった。
『あ!』
カサッ。
箒が草の上に倒れた僅かな音に反応してラチアが振り返り、窓から顔を出していたラヴィと目が合った。
「オマエ……」
ラヴィを発見したラチアは、ほんの一瞬で複雑な表情の動きを見せた。
最初は驚き。次に喜び。最後はなぜか困惑の表情。
「どうしてここにいる?」
ラチアに手招きされたラヴィはおずおずと作業小屋の中に入って訪問の理由を述べた。
「え? あ、その……。こないだのお礼をしてなかったから……」
ラヴィは抱えていた食料をラチアに見せてぎこちなく微笑んだ。
久しぶりに会ったせいか、なんだか緊張してしまう。
「お礼?」
ラチアは差し出されたお礼の食料を見ると再び驚いた表情をして、ますます苦しそうに顔を歪めた。
「そんなことはしてくれなくていい。俺はオマエに二度と山を下りてくるなと言ったはずだ」
「でも……」
きっと喜んでくれるはず。
そう思ってお礼を持ってきたのにラチアは全然喜んでくれない。
ラチアのこんな反応はラヴィにとって予想外で、だんだんと悲しい気分になってきた。
「ラチア、怒ってる? ボクが持ってきた食べ物……これじゃ少なかった?」
「そうじゃない。そういうことを言ってるんじゃないんだ」
ラチアは額に手を当てて「えー」とか「うーん」とか唸りながら悩んでいる。
「じゃあ、なに? 何がダメだった? 足りなかったのは何?」
「だから、そうじゃなくてだな……」
ラチアが首の後ろを掻きながらどう説明しようかと悩んでいた、その時――。
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