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四章

モラハラ再びと、決心9

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彼もわたしも淡白だったこともあり、結局妊娠しないままここまで来てしまった。夫があまり、子供が好きではなさそうだというのは結婚してからわかったのだけれど。

テーブルの向こうで店長さんは一瞬大きく目を見開いたが何も言わず、

「わかりました。それでは、ある程度勤務時間に幅を持たせても大丈夫そうですかね?」

と続ける。
「ええ、でも、あの、朝は早くても大丈夫ですが、午後はなるべく四時ごろまででお願いしたいのですが」
おそるおそるそう告げると、店長さんは頷いた。
「わかりました。他にご希望は?」

その後、職歴などをきかれ、あっという間面接は終わりになった。緊張してこわばった肩がふっと緩む。

「それでは、結果は数日以内にご連絡いたします」
「は、はい! よろしくお願いします」
 深く頭を下げる。終始事務的だった店長さんだが、ここで初めて表情を和らげた。
「決まったらすぐにお仕事に入って頂くことになりますが、大丈夫そうですか?」
「え? っと……。はい、それはもちろん」
「いやぁ、多分蔭山さん採用だと思うので、そんなに心配しなくても大丈夫だと思いますよ」
(緊張でガチガチになっていたの、伝わっちゃってたのかも。恥ずかしい)
わたしは耳に髪をかけながら、瞬きを繰り返した。
「あ、ありがとうございます」
「ま、この後オーナーとも話してからなんですけどね」

オーナー。ということは上月くんだ。

(やっぱり、伝わっちゃうのか……。履歴書の写真でバレちゃうだろうけど、なんだか照れ臭すぎる……っ。それにもし不採用だったら、すっごく気まずいな)




 背に腹はかえられぬと思い切ってきたものの、やっぱり馬鹿なことをしたかもしれない、複雑な気持ちになってきた。
 
 わたしは、あの夜の素晴らしい生演奏を思い出して、お店をもう一度見回した。

(でも、ここで……。皆が笑顔になっていた空間で働けたら、きっと楽しいだろうな)

そんなことを思っていると、背中で店のドアベルが軽やかに響いた。
「お疲れ様」
「あ、オーナー、お疲れ様です」

どきーんと心臓が震えた。
(この、声……!上月くんだ)

「黒田店長、今日面接あるって連絡くれたから、ちょっと寄ってみたんだ」

『先輩、いま、しあわせ?』

再会の夜の言葉が鮮明に甦る。
あのときと同じ、深い中低音の声が背中で聞こえた。

「ああ! そうなんですね。ちょうどよかった。いま、面接終えたばかりなんですよ。こちらが応募してきてくださった蔭山さ」

「あれ……。朝比奈先輩?」
「いや、ええと、蔭山さん……で、したよね?」
店長さんは訝しそうに履歴書を見る。
「……はい。蔭山、です」
「ちょ…… っと先輩ってば」
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