U C LAでつかまえて

H・カザーン

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ファット・サルズで昼食を

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「え、二人が待っててくれるの?」
 その日オレが、ダニエルについていったレストランは、ウエストウッドの「ファット・サルズ」だった。
「ファットとかって、すっげえタッチーな名前じゃん」
 ダニエルは、オレの言葉が聞こえなかったふりをしている。
 あ「タッチー」ってのは、非常に敏感なっていうか、触れてほしくないって意味ね。体重を増やさないように気をつけなくてはならないダニエルは、避けるべきレストランなはずだが、確かにここのサンドイッチはうまい。ものすごく大きなフィローに、味付け肉やチーズと野菜を大量に挟んだ、かぶりつくのに苦労する大きさのエクストラ・ヒーロー・サンドイッチ――通称ファット・サンドイッチ――はオレたちのキャンパスでも有名だ。グリルした肉と一緒に、チーズスティックや新鮮なサラダをはさむんだ。店の名前がファットというからには、チーズやソーセージなんかのカロリー高めのものがここの人気メニュー。フランスパンの他に、薄いフィローで、ミートとサラダを巻いたラップサンドもおすすめかな。
 店内はカウンター席と四人がけの木のテーブルが五つ、あとテラス席がいくつかあるだけの、アメリカにしてはわりと小さなレストランで、たいていいつも満員だ。

「ハーイ、ガイズ」
 シャーリーンとサラは、オレたちを見ると、テーブル席から手を上げて合図した。
「順番待ち、ごくろうさま」
 彼女たちのおかげで並ばずにテーブルにつけた。サンキュー。
 それにしても目の前に座ってるこの子たちは、そういう高カロリーなメニューを食べても全然太らないんだよね。今日もジーンズのすらりと長い脚が目立っている。
「えっと俺は、ファット・バッファローね」と、ダニエル。
「ぁあんだよ? だってバッファロー味のやつは、ファットサイズのしかメニューにないもん」
 普通より大きいのを頼んで、全員から冷たい視線を向けられた彼は、必死で言い訳してる。「ここのメニューはフィロー(Filo)をヒーロー(Hero)って書くんだね」とかなんとか言いながら。
 他の三人が頼んだグリルドチキンのラップサンドも運ばれてきて、オレたちはいっせいに食べ始めた。野菜サラダも一緒に包んであるけど、たった今巻いてくれたばかりだからラップサンドもクリスピーだと、女の子たち二人とも嬉しそう。
 ダニエルのサンドイッチも、フィローの上にバッファロー味のチキンやチーズ、野菜なんかが入ってるんだけど、フィローに厚みがあって、結構でかい。ワックスペーパーで包んだのが、直接トレーに乗せられてるため、見た目はそれほどボリュームを感じないかもしれないが、普通のお皿に乗るのかなってくらい大きい。いや、ダニエルは幸せそうだけど。
「ハーイみなさん、今日はここウエストウッドのファット・サルから、世界で一番大きなサンドイッチを紹介します。その名も、ビッグ・ファット・ファティー!」
 店内では、マイクを手にした女の子と、デジタル一眼レフをかまえたカメラマン男子が、シェフにインタビューを始めた。なんか、UCLAの学生ユーチューバーっぽい。キッチンから出てきた料理人のサル――彼の名前が店名の由来になっている――が壁のメニューをガシッと指差す。
「店内のみでオーダーできる、ビッグ・ファット・ファティー! チャレンジ!! テイクアウトはダメ」
「……それじゃ、このチャレンジっていうのは、40分間以内に食べたら、無料になるんですか?」
「もちろん! 一人で全部食べきったら、その場で100ドル返金するよ」
「でもなんか、ものすごい量ですね」
「3パウンド(1360グラム)のチーズステーキ、チーズバーガー12枚、パストラミ、チキンスティック、クリスプベーコン12枚、チーズスティック12本、フライドエッグ、ポテトフライ、オニオンリング20個が数種類のソースとぜーんぶ一緒に、30インチのガーリック・フィローの上に……」
 それを聞いていたサラが、シャーリーンに尋ねた。
「え、30インチって?」
「76センチじゃない?」
 いやちょっとそれ、食えるのかよ!?
「14281カロリーだって!」
 スマホの画面を見て驚く女の子たち。
 それ、一週間分のカロリーに等しいぞ!
 シェフのサルは、満面の笑みを浮かべて宣言した。
「合計13パウンド(5897グラム)のサンドイッチを、40分以内に一人で完食すること!」
「じゃあ、私、たっぷり運動してお腹すかせてから友達つれてきて、みんなで一緒に食べようかなぁ。あ、賞金はいりませんから」
「ダメダメ」
 シェフが両腕をクロスさせて、大げさにバツのサインを作る。インタビュアーは笑いころげた。
「え~っ! チャレンジじゃないと、オーダーできないんですか?」
「ビッグ・ファット・ファティーは、チャレンジのみのメニューです。100ドル以上の商品がサンドイッチの上に乗ってる、ビッグ、ジャイアント、大サービスのメニュー!」
「ええ、そんなの、今まで成功した人はいるんですか?」
「おう、もちろんいるよ! 数人だけど」
 シェフは、過去の勝者たちの名前を配したサンドイッチが作られた、エピソードを語ってくれた。
「Wow! ありがとうございました」
 シェフへのインタビューの後、その女の子はオレたち四人のほうを向いた。視線はおもにシャーリーンに注がれてたけど。やっぱり映像に映えるのは、ハニーブロンドの美少女だから。あ、なんとなく、こっちのテーブルにインタビューにやってくる気配がする。
 なのにシャーリーンってば、うつ向いて、オレの陰に隠れてしまった。
 マイクを持った彼女は、こういう場面にも慣れている様子で、別のテーブルの客にインタビューを始め、シャーリーンは彼女たちがこっちに来なかったので、ようやく顔を上げた。
「もし、あなたたちが出演したかったんだったら、ごめんなさい」
「いや、気にしないで。オレもああいうの苦手だから」
「そーだよな、キャメロンは特に前に被害に……アオゥ! いっ……」
 オレの右足の直撃は、ダニエルを即座に黙らせた。
 ――言うなよ!
 目で制止すると、今自分の口にしようとした話題がどれほどまずかったかを自覚したのか、サンドイッチを頬張って、一生懸命に咀嚼している。
「そんなに美味しい?」
「……あ、もう、なんて言ったらいいか……。君のはグリルドチキンだっけ?」
 こいつがテーブルの下で脚を踏まれたことなんか何にも知らないサラの問いかけに、便乗して、ダニエルはサンドイッチの話題に変更してた。
 わりい、いちおう力加減はしたんだけど。だけどシャーリーンの前で、ユーチューバーだった以前のガールフレンドの話をしようとするなんて、まったく君らしくないよ、ダニエルくん。

「あのね、パパが、嫌がると思うの」
 キャンパスに帰る道すがら、シャーリーンはこっそりオレに打ち明けてくれた。
 ダニエルとサラは、ビッグ・ファット・ファティーに挑戦するかどうかで騒いでいる。今日食べたファット・バッファローでさえ、平らげるのにちょっと無理してたくせに、ダニエルってば……。もうあいつらのことは放っておこう。
「あの……だって、見ず知らずの人が私の画像を見るのとか、どうなのかなって……」
 ……だよね。なにしろこの世の中には、クレイジーな奴は無数にいるんだもん。そんなのがシャーリーンの画像を見るのを、アターニー(弁護士)・グレンヴィルが、許すはずがない。
 そしてなんかものすごい重大なことでも打ち明けるような面持ちで、シャーリーンは再び口を開いた。
「キャメロン、前髪伸ばしてるの?」
「あ、うん」
「長いのも、きっと似合うと思う……」
 この前オレが不安そうにしてた時には、とてもしっかりした女の子になって支えてくれた。でもさっきみたいに、繊細な部分が強くあらわれることもある。そのすぐ後なのに、前髪のわずかな変化に気づいてくれる……彼女。
 いろんな表情が、どれもかわいい。
 ――君といると、どうしてこんなにも……、シャーリーン。


 その晩オレが授業を終えて部屋へ戻ってくると、ダニエルはベッドに座り、スマホの画面に見入っていた。
「なあ……」
「ぁんだよ?」
「痛くなかった?」
 顔を上げ、メガネをくいっと中指で押し上げて、こっちを睨みつける。
「すげえ痛かった」
「ごめん、ちょっと力入れすぎた」
「……ケガはしてないけどな!」
 彼は怒っている風を装いながらも、オレが昼間踏んだ右足の指を動かしてみせた。本気で腹を立てていないのは、あの場にふさわしくない話題を持ち出してしまったのをわかっているからだろうか。
 冗談交じりにピローを、オレの腹めがけて放り投げてきた。
 これから寝るのに必要な枕を、つい放ってしまったガキんちょっぽいルームメイト。
 オレはピローを投げ返す。
 いや、こうやってふざけたいわけじゃなくて、オレとしては、ほんとはもっと真剣に聞いておきたいことがあったんだ。こいつのことで。
  ここ最近、ダニエルとサラが寮のカフェテリアで二人で食べてるのをたびたび見かけて、オレはずっと気になってた。そりゃあ確かにローレインは寮に住んでないけどさ、こいつが二人の女の子を、同時に相手にしてるんじゃないかって。いつかひとこと言わなきゃならないのかな。だってサラが傷つけば、きっとシャーリーンまで悲しんでしまうし、でもこいつがローレインを裏切るなんて絶対許さない。
 でもそんなの、どうやって切り出せばいいんだろう……。
 風の流れる音が聞こえる。
 その夜はいつになく、オレたちの部屋は静かだった。
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