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17ダム対策

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 その日、砦の上にいた見張り役は、河の水が増え出していくのを見ることになった。どうして、河の水が増えてくるのか、見張り役にはまるで判らなかった。すぐに見張り役はリカードにこのことを報告した。

 砦に作られた皇子の部屋からでてきたリカードは、どんどん増えていく水を見て、「今度は水攻めなのか?」と言って、顔を強張らせていた。ここまで河の水が増えて見張り台そばまであがってくるのは、河の下流にダムを作って河をせきとめているに違いなかったからだ。

 リカードは新しく将軍に命じたネグレスとシルビアを広間に呼び寄せ、相談を始めた。すぐにシルビアは意見をのべ出した。
「わざわざダムを作ったのは、ムガール帝国からの物資搬入や援軍を寄せ付けないためではないと思いますわ。それは意味のないことは、よく分かっているはずです」
「では、なぜですか?」
「水位をあげ続ければ、間違いなく川の水は砦の中にまで流れ込んでくる。そうなれば、私たちはおぼれてしまいますわ」
「やはり、そういう作戦なのか!」
 リカードは唇をかみしめ腕を組んだ。
「やはり舟を作り、河をくだっていき、ダムを破壊するしかないですね」
 リカードの舟作りの指示を受けてネグレスは広間にから飛び出していった。

 やがて兵士たちは砦の部屋を壊し、そこにあった板や柱を使って舟を作った。次に兵士たちは舟にのり砦を後にしていた。だが、いくら経っても水面の高さは変わらない。兵士たちの数が少ないので簡単にダムを壊せずにいるのか、それともケンタウロスたちに兵士たちはすでに殺されてしまったのか、まるで分からなかった。

 ふたたび、広間に集まり会議が行われた。
「リカードさま、いかがいたしますか?」とネグレスは聞いていた。
「もう、一度、兵士たちを送ってくれ」
「はい、わかりました」と言って、ネグレスはひきさがっていった。将軍は兵士たちにふたたび砦の部屋を壊させ、部屋から取った柱と板で舟を作らせた。それにのって、五人の兵士たちが砦をでていった。だが、水の高さは下がることはなく、さらに上がり出したのだ。とうと水は見張り台の中にまで入ってきた。出入口に土嚢を積んで部屋の中まで水を入れないようした。間違いなく舟にのせた兵士は、今度もケンタウロスに殺されてしまったに違いなかった。

 その時のシルビアはムガール帝国の兵士たちの用意してくれた部屋に隠れているしかなかった。
「どうしたらいいのかしら?」とロダンやトムにシルビアは相談をした。
「やはり、河をせき止めているダムを破壊するしか方法はないと思われますな」と、ロダンが言った。
「でも、砦の中にいては、ダムを壊すことはできないわ」
「わかりました。私がダランガ国にいき、農夫たちを引き連れて河そばまでいきましょう。彼らにダムを破壊してもらうしかない」
 トムがそう言うと「それまで砦が水の中に沈まないでいられるかどうかですぞ」とロダンが言って額に縦じわを作っていた。
「私ならば、火の力でダムを破壊することができるわ。でも、ダムのそばに行くことができないとだめよ」
 そう言ってシルビアは唇をかんでいた。
「いや、シルビアさまがダランガ国に戻ってホウキを持ってくればいい。ホウキにのりさえすれば、どこへでも飛んでいけますぞ」
「私はホウキにのる魔法を知らないわよ」
「その方法は、ホウキにのって風を自分の足元に吹かせれれば、いいだけです」
「えっ、ほんとうなの」
「前にシルビアさまはホウキにのっておられましたぞ。ホウキにのれば、すぐに思い出されるはずじゃ。この危機をのりきるには、魔法王女シルビアさまにお願いをするしかない。ですが、シルビアさまをいざとなった時にお助けをするお供は必要ですぞ。トムを同行させていただきたい」
「分かったわ。ロダン。それじゃ、トム。一緒に来てちょうだい」
 シルビアがそう言うと、ロダンは魔法袋の口を開けた。シルビアはすぐに右足を袋の中に入れ、続けて左足も入れていた。その後、シルビアはするりと袋の中に入ったのだ。シルビアの姿が見えなくなると、すぐにトムも袋の中に飛び込んでいった。
「まずは、少しの間、待つしかござらんな」と言って、ロダンは魔法袋をみつめていた。
 
 その頃、ダランガ国の食材置き場にシルビアは戻ることができ、後を追ってトムも現れた。
「シルビアさま、いかがいたしますか?」
「できるだけ早くムガール帝国の北にいかなくてはならないわ。ともかく空を飛んでいけばいいのね。まずは、魔法用具室にいってみましょう」
 シルビアとともにトムは魔法用具室にいった。そこには、いろんな魔法道具が置かれていて、たしかにホウキも置かれていたのだ。
 並んでいるホウキから選んでシルビアは一本のホウキを手にとった。このホウキならば、二人をのせることができそうだと思ったからだ。ホウキは太い竹で作られていて、その先端は細かく割られている。そして太い柄の部分には風の波と思える模様がえがかれていた。
 ホウキをまたぎ、シルビアは風力の念を入れてみた。すると、ホウキの下側から風がでて、シルビアは空(くう)に浮いたのだ。念を強めると、さらに高く天井にぶつかりそうになるくらいの高さにシルビアは浮き上がっていた。
「前に進むにはどうすればいいのかしら?」
 わからないままに、シルビアは前に体を傾けてみた。それは、果歩だった頃に絵本でみた魔法使いはホウキにのると体を前に傾けていたのを思い出したからだった。するとどうだ。シルビアは前に進み、道具室の端まで飛ぶことができたのだった。

 思わず、シルビアは微笑んでいた。だが、長いドレスは風に飛んで顔の前でゆれてじゃまになる。
「トム、やはり冒険者の服に着替えないとだめわ」
 念をといてシルビアは床におりると、ホウキを手に持ったまま衣服室にむかった。そこでトムに手伝わせズボンをはき茶色の帽子をかぶり同じ色のチョッキを着ると、身も心もしまってくる。いままで、この服を着て魔獣退治をしてきたからだ。もちろん、腰には火魔法を起こせる剣をさしていた。身支度がととのったシルビアはトムを連れて、宮殿をでた。

 そこでホウキをまたいだシルビアは「ともかく実践よ。思い出すしかないわ」と言っていた。トムはうなずき、トムもホウキにまたがりシルビアの背にしっかりと抱きついた。
 シルビアが念を入れ続けると、二人は浮きあがり、足元に庭園の花壇が見えていた。
「まず城の石塀をのりこえなければいけないわ」
 シルビアは額に縦じわを作り念をさらに強めた。ホウキの下から強い風がおきて、ホウキは高く浮き上がり、石塀をこえた。一瞬、シルビアが気をゆるめると落下を始め、地面にぶつかりそうになった。すぐにシルビアは念をふたたびいれ風をふかせた。そのおかげで、ホウキは浮力を取り戻し、風が大地を押していた。
「さあ、ムガール帝国の北にむかうわよ」
「シルビアさま、砦のある方はあちらです」
 ロダンから借りた羅針盤を見ていたトムが指さした方にむかってシルビアは体を倒した。
 シルビアは、ホウキのスピードをあげた。早い。馬を全速力で走らせるのとまるで変わらない早さだった。
 青い空の下をホウキは飛んでいく。眼下に見えていた街並みはすぐにつきていた。遠くには山脈が見え出し、手前の大地は草が生えているだけだ。それも短い草がまばらに生えていて、ほとんどが渇いた黄色い土で覆われていた。気をゆるすと、ホウキは大地に落ちてしまいそうになる。その度にシルビアは気を入れて念じ続けたのだった。
 やがて、眼下の大地の草が増え出し、それも長い葦に変わっていた。ついに葦も見えなくなり、下に見えるのは水だけになっていた。

 間違いなく、シルビアたちは河の上を飛んでいた。そこは河原が見えないほど水をためていたのだ。やがて河をせきとめるために石をつんだダムが見えてきた。
「よくこんな物が作れたわね」
「これは、河の半分に石を積み続けておき、半分は水を流して置く。そして、積み上げた石を一気にくずして河をふさいだのでしょう」
「たくさんの石を運ぶなんて大変なことだわ」
「ケンタウロスたちは、馬ですからね。それぞれが荷車を簡単に曳くことができる。きっと私たちが思うよりも容易いことだったに違いありません。でも、それを行えるだけのケンタウルスの数が必要です。戦って数を減らしていたはず、どこから、集めたのですかね?」
「ともかく、このダムを壊してしまわなければならないわ」
「一番下の岩を粉々にできれば、水の圧力でダムは決壊すると思いますよ」
「やってみるわ」
 シルビアは剣を腰からぬいて右手にもった。そして、その手を伸ばして剣先を一番下にある大岩めがけて念を送ったのだ。剣先から火柱が飛び出し、岩にあたった。岩は真っ赤に燃えたようになったが、すぐに元の黒い岩に戻り、無数のヒビが入っていた。岩はくだけ、そこから水が無数の糸を作り、吹き出していった。その後、水が大きな流れを作り、ダムは崩壊していった。
 シルビアは火の力を使う方に念を入れていたので、風の力を起こすための念を弱らせてしまったのだ。その結果、シルビアたちは、河の中に落ち出していた。シルビアは風のための念を必死にこめ出した。その時に、右手にもっていた剣を落としそうになったりもしていたのだ。でもホウキの下から強い風が吹き出してくれ、シルビアたちがのるホウキは水面すれすれに飛んで河岸にたどりつくことができた。だが着地はうまくいかず、シルビアたちを草の上に転がっていた。

 シルビアたちは立ちあがり、流れていく河をみつめた。濁流となっているが、水位はどんどんと低くなっていく。
「これで砦を水の下に沈めることはもうできないわ」
 シルビアの言葉にトムはうなずいていた。
 だが、ケンタウロスたちを完全に倒したわけではない。これからどうすべきなのか、シルビアにも分からない。
「まずは、リカードさまの所に戻りましょう」
 シルビアはトムと一緒にホウキにのると、一気に空に飛びあがった。眼下に前と同じに戻っている河が見えていた。さらに北西にむかって飛ぶとリカードたちがいる砦は前と同じ七メートルはある石塀に囲まれていた。
 シルビアたちが砦の頂におりたつと、リカードがすぐにシルビアの前にやってきた。
「シルビアさま。有難うございました。ロダンからお聞きいたしましたぞ。ダムを壊し砦の周りにあふれていた水をとりはらってくれたのですね」
 リカードの笑顔を見て、シルビアも笑顔になり思わずうなずいていた。

「今度は、こちらが攻める番ですよ。ここからよく見えるでしょう。連山を前にして、椀のように膨らんでいる森が。あれを私たちはお椀森と呼んでいる。どうやら、ケンタウロスたちは、お椀森からやってくるようなのですよ。あそこが彼らのアジトに間違いはありません。これからの戦いは、私たちにまかせください」
 シルビアはふたたびうなずいていた。

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