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皆で、守る!
しおりを挟む勇者の村の人たちは、すんごかった。
ご老体も、ちっちゃな子も、殆どがチチェと一緒に走って来た。
さすがエルフの血をひく、魔法が使えて、勇者を輩出する村の人たちだ。
覗き込んでいたジァルデと一緒に、僕も仰け反る。
4次元は、時が止まってるからね。
過去をのんびり見ていても、今は大丈夫!
怪我をしていたり、病気だったり、どうしても走りたくない人たちだけを、
エォナがよたよた転移させてくれる。
一緒に帰って来た風磨は、泣いてた。
『めちゃくちゃ酔った』
村の人たちも、げえげえしてた。
『いやでも、転移できたから!
エォナ、すごい!』
チチェに手放しで褒められたエォナは、ちいさな頬を真っ赤にして、
とろけて笑った。
『よっしゃ!
じゃあ、避難訓練しとこう!
たぶん、何か、すげーのが来るから、来たら皆で速攻で、キュトたんの家のなかに退避!』
拳を掲げる風磨に、エォナも頷く。
『キュトたんが、入る人に応じて広がる家にしてくれています。
この家から、あまり離れないでください。
何か来たらすぐ家に入って。できたら、家から出ないで』
エォナの言葉に、勇者の村の人たちは緊張の眉で頷いた。
『なんか、きた?』
獣人さんが顔を覗かせて、チチェとエォナが、村の人を獣人さんに紹介する。
『ほええ! 獣人さんだ!』
『すげえ!』
『これ、精霊の樹か!?』
『精霊の泉か!?』
『ほぁあああ!』
『すげえ!!』
あんぐり口を開けた勇者の村の人たちは、感動が落ち着くと、皆でキュトの家の
なかに戻った。
息をひそめる。
攻撃に、備えた時だった。
ズガァアアアァァアンンンン――――――!!!
爆音と衝撃が、轟いた。
『ぎゃあぁあああ!!』
家のなかの皆が、跳びあがる。
世界最高峰、伝説の魔導士キュトの、渾身の魔法防御さえも揺るがせる攻撃に、
風磨の目から涙が溢れた。
『こ、こここここわ……!!
ひぃいいい!!』
泣きながら、風磨がステータス画面を確認する。
スキル即死回避Lv99
風磨の目が、文字を何度も確かめた。
『み、みみみみみんな、おおお俺の後ろに――――!!』
風磨は、ぶるぶる震えてる。
涙目で、たぶん股間も湿り気味だ。
でも泣きながら、風磨はキュトの家の前に立った。
『俺が、絶対、絶対、防いでやるんだから――――!!』
皆を守るように腕を広げる風磨を、歪んだ闇のいかずちが襲う。
ドガギャギャギャギギギギギーーーーーー!!
凄まじい衝撃と、耳を劈く爆音に泣く、Lv1の風磨は、死なない。
『お、おおおお俺は……お、俺は、主人公だ!!
み、みみみみ皆を、絶対、絶対、守る…………!!』
風磨の身体を取り巻くように、金の光が、舞いあがる。
風磨が翳す人さし指が、
ズガァアァアアンンンン――――――!!
風磨目掛けて落ちるいかずちを、止めた。
雷撃に逆立つ髪で、泣きながら、風磨が叫ぶ。
『めちゃくちゃちびった――――!!』
息をのんでいた皆が、吹きだして笑って。
チチェが風磨の隣に、並び立つ。
『だめだ、出るな――――!!』
止める風磨の隣で、チチェの身体から、金の光が舞いあがる。
栗色の髪は、金の髪に。
栗色の瞳は、金の瞳に。
勇者の色をまとい、輝いた。
『俺も、闘う。
皆を、俺を、エォナを守るために』
拳を掲げるチチェを守るように、エォナがチチェの前に出た。
『僕も、闘う。
皆を、にいちゃを、守るために』
栗色の髪は、金の髪に。
栗色の瞳は、金の瞳に。
ちいさな身体から、勇者の力、金の光が噴きあがる。
『お、俺らも、闘う!』
『やってやらあ!』
『いくぞ、皆!』
勇者の村の人たちの身体から、金の光が舞いあがる。
ゴアァアアオオォオオオンンン――――――!!
突き刺さる歪んだ闇のいかずちを、皆の身体から舞いあがる金の光が、止めた。
『僕たちが、未来を、変える――――!!』
キュアァアアォォオ――――!!
エォナが翳す手から噴く金の光が、歪んだ闇を、貫いた。
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