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全力で、救ったよ!
しおりを挟む『やった!?』
『すげえ!』
『さすがエォナ!』
『俺の勇者!』
チチェがエォナを抱きしめて、喜んだ時だった。
貫かれた歪んだ闇が、一層激しさを増し、チチェを貫こうと駆けてくる。
『にいちゃ……!』
『止める――――!!』
ドァアオオォォオオンンンン――――!!
前に出た風磨を、歪んだ闇の渾身の一撃が襲う。
大地を揺るがす衝撃に、風磨の身体が、吹き飛んだ。
『風磨――――!!』
髪が逆立ち、涙でぐしゃぐしゃで、股間は湿り切りの風磨は、HP 1/15
それでも、死なない。
よれよれしながら、立ちあがる。
『……ぜ、絶対に、死なない主人公だから……!
できる、ことが、あるんだよ――――!!』
ズガァアアァアンンンン――――!!
皆を守るように腕を広げる風磨を、降り注ぐ闇のいかずちが、吹き飛ばした。
皆の身体から、金の光が舞いあがるのに。
エォナの金の光が、歪んだ闇を、幾度も貫くのに。
歪んだ闇は、止まらない。
グアァアアオオォォオオオ――――!!
攻撃すればするほど、膨れあがる。
憎しみをぶつけたら、より酷い憎しみが、返ってくるように。
皆の身体から、金の光が、消えてゆく。
エォナが掲げる指が、ふるえた。
瞳から、金の光が、消えてゆく。
『……ひめ、さま……』
あふれる涙が、エォナの頬を、伝い落ちた。
「ジア――――!!」
僕が叫ぶより早く、ジァルデの銀煤色の爪が、時空を切り裂いた。
ゼドのちっちゃな村が、闇黒に覆われていた。
精霊の樹が、皆を守ろうと枝を伸ばしてくれているのに、暴風に軋んでいる。
襲い来る歪んだ闇を、風磨が、エォナが、チチェが、最後の力で止めていた。
「クロ――――!!」
僕が叫ぶより早く、僕を乗せたクロが、皆の前へと躍り出る。
ズガァアアアオオォォンンンン――――――!!
皆を貫こうとした、歪んだ闇のいかずちを、闇の光に輝く僕の指が、止めた。
涙でぐしゃぐしゃの風磨が叫ぶ。
「おっっせえんだよ――――!!
し、ししししし死ぬかと思ったあぁあああ!!」
わあわあ泣く風磨の股間を見つめた僕は、頷いた。
「風磨たん、めちゃくちゃ頑張ってくれて、皆を守ってくれて、ありがとう」
僕の言葉に、真っ赤になった風磨は、こくりと頷いて、涙を拭った。
「エォナ、チチェ、皆を守ってくれて、ありがとう」
「ひめさま……!」
金の光を失くしたふたりを、抱きしめる。
「僕が、全力で、皆を救う――――!!」
僕を乗せたクロが、天を翔る。
ギャギギギギィイイイイ――――!
降り注ぐ歪んだ闇のいかずちを、僕の指が止めた。
襲う衝撃も、身を裂く激痛も、もう、こわくない。
だって、これは、僕のなかにあるもの。
僕が切って捨てたかった、だからこそ膨れあがる、かなしい怒り、
くるしい憎しみ。
攻撃するから、膨れあがる。
闇は、敵じゃ、ないんだよ。
僕のなかから、闇の光が、噴きあがる。
僕の腕は、歪んだ闇を、抱きしめた。
身を裂く苦しみを、心を焦がす憎しみを、抱きしめる。
どんなレトゥリアーレも、愛するように。
どんな僕も、愛したいから。
「どんな闇も、愛してる」
僕の指から、愛があふれて。
闇の光が、世界をつつんだ。
歪んだ闇が、やさしい闇に、つつまれる。
漆黒の光に、歪んだ闇が、とけてゆく。
風が、戻る。
光が、降る。
精霊の樹が、輝いた。
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