全てを諦めた令嬢の幸福

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諦めた令嬢

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   王子にかけられた闇魔法の術式はとても複雑だろう。それは私以外の上級魔法士には歯が立たなかったから。でも私は違う……だって私には特別な“力”があるから。


  
   私の“解呪できる”と言った言葉に、その場は張り詰めた空気になった。

「ほん、とうに……?」

「はい。
多分ですが……不可能ではないと思います。」

「そっか……」

   私の言葉に王子はほっとしたようだ。今まで期待してはダメだったのだろう。だからだろうか、王子の目の端には涙が溜まっていた。

「よかったな…ベル」

「うん、ありがとう。叔父上。
シルヴィア…頼む。
私の目を治してくれ……」

「はい、わかりました。
お顔、失礼します……」

   私は王子の目元に指で触れた。

   (触れた感じは…何も感じない。)

   私は左眼の魔眼の“力”を使った。魔眼の使い方は簡単だ。ただ眼に魔力を流すだけ。だが、魔力を流しすぎてはいけない。魔力を流しすぎると眼に負荷がかかり、失明してしまうから。だからこそ精細な魔力調整が必要だ。

   (なる…ほど…これは城に仕える上級魔法士でも気づかないわけだわ……)

   魔眼を使ったことで王子の呪いの内容が明白になった。否、魔眼を使わなければ明白にならなかっただろう。

「この呪いは…悪意のあるものですね……」

「シアくん、どこまでわかったんだい?」

「まず術式が施されている場所は眼球の裏です。
術式は2つあります。」

「2つかい?」

「はい。
古代語を用いて複雑にしているだけで、実際使用されている術式は2つだけです。」

「古代語っ!?」

「使用されている術式は“拘束”と“促進”です。
今は眼だけで済んでいますが、何年か経つと体全身にこの呪いが広がるように術式が組み込まれています。」

「あの……シルヴィア」

「なんでしょうか?王子」

「もし、それが体全身に広がったら…私はどうなるんだ?」

「そうですね…
まず、この呪いでは闇魔法の1つである“影”を使用しています。
本来、ただの闇魔法だけなら害はありませんでした。
ですが、拘束と侵食の術式を用いたことで影で体全身を締め上げていくようにしてあります。
最終的には心臓を縛り殺すようになっていますね…」

「縛り…殺す……」

「はい、この闇魔法からは禍々しい魔力が感じ取れます。
早くに解いた方がよいでしょう…」

「し、シアくん」

「なんでしょうか?魔法師団長」

「古代語を用いた術式は解けるのかい?
古代語を扱える人はもぅ…ほとんど居ないはずだが…… 」

「……師匠に、教わりました」

「そうか……あの魔女なら有り得るな」

   半分本当で半分嘘だ…魔女である師匠から古代語を教わったことは本当だが…シルヴィアは元から古代語が読めた。魔眼を通して…

   (でも私はあえて話さない。この魔眼はあまりにも“見えすぎてしまう”だから、私は魔眼をあまり使わない為に師匠から古代語を習った。)

「この術式の解呪と闇魔法の反対属性、光魔法を使えば治せます。
解呪を始めますが…よろしいでしょうか?」

「あぁ、頼む」

   私は自分の魔力を王子の眼に流し込んみ反転の術式を編んだ。

   (“拘束”には“解放”の術式を…“促進”には”抑制“の術式を…)

   古代語で打ち消し合い術式を抹消する。これで闇魔法の影を助長するものはなくなる。

「…術式の解呪は出来ました。
次は光魔法で闇魔法の影を消します。
眩しいと思いますが、我慢してください。」

「あぁ、わかった」

   私は光魔法で王子の眼に光を当てた。

   光に当たった王子の眼は、黒眼から碧へ少しずつ変わっていった。そして光を当て続けて2分たった頃。王子の眼の中の黒が完全にきえた。

   (最後に浄化をした方が良いかもしれない…)

   私は最後に光魔法の浄化で王子の眼を清めた。


「終わりました。」

「ベルっ!!!」

「うわっ!叔父上!?」

   解呪と治療が終わった王子に大公殿下が抱きついた。

「良かった……本当に…よかった」

「叔父上…諦めないでくれてありがとう。
ずっとそばで支えてくれて…ありがとう。」
   
   あぁ、羨ましい……“家族”に大事にされる王子が。私には持っていないものを持っている王子が……。

   私は切望の眼差しを2人に向けていたのだろう。魔法騎士団長が私の頭を撫でた。

「シアくん…お疲れ様。
そして、ありがとう」

「…い、いえ…」

「王子に笑顔が戻ったのは君のおかげだ。
もっと自分を誇りに思いなさい」

「…はい」

   私は、抱き合っていた王子と不意に目が合った。

「叔父上…少し離してもらえない?」

「ん?あぁ…」

   薄暗い感情を抱いて見ていた私に済んだ王子の碧色の瞳が向けられた。そして…

「シルヴィア!
ありがとう!本当に…ありがとう!」

   王子は私に笑顔を向けた。私は滅多に自分に向けられない心からの笑みに戸惑った。

「え、あ、いぇ…」

「ねぇ、シルヴィアじゃなくてシアって呼んでもいい?」

「えっ……あっ、は、はい!」

「ありがとう、シア!
私のことはベルって呼んでね?」

「えっ…でも……」

「私はシアと友達になりたいんだ…だからダメかな?」

   (友達……)

   あぁ、そうだったんだ。そうなんだ。家族と婚約者以外の関係で“友達”があったんだ……

「いえ…ダメ、じゃないです…。べ、ベル?」

「うん!シア!
改めて助けてくれてありがとう!
これからよろしくね?シア」

「こちらこそ、よろしく…ベル」


   この日、私は初めて“友達”ができた。初めて師匠以外の人との関わりを作ることができた。

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