2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

20話

「伊崎は付き合ってる人はいるのか？」突然の質問に伊崎は困惑しながらも答えた。

「いるよ。」

「そっか……。」

伊崎と付き合えてる人は大切に扱われているんだろうなとつくづく思う。俺とは大違いだなと自嘲気味に笑う。

「来週にでも、退職届を出すよ」

ベンチから立ち上がると伊崎にそう告げる。これからは病院と家の往復になりそうだなと遠くを眺めながらそう考え込む。

「絶対治るように毎日祈るわ」涙を堪えているのか、それとも寒さからなのか鼻先が真っ赤になっている伊崎。

「……頑張るよ。」ボソリと呟く。




伊崎と公園で別れた後、俺は冷えた体を温めようと急ぎ家路を歩く。住宅街の角を曲がった先で俺は思わずピタッと足を止めた。目の前には腕組みをして歩いているカップルがいた。女性は誰か分からなかったが男の背中は見覚えがあった。

「…秀次……」

和気あいあいと傍から見れば幸せそうなカップル。だが、今の俺からすればただの浮気現場。数分前の知らなかった自分に戻りたい。針に刺されるような痛みが胸の奥からする。


「っ……！」俺はそれ以上何も視界に入れたくなく、いつの間にか家とは真逆の道を走っていた。


「ハァハァ……ハァッハァ」結局戻ってきたのはさっきの公園。乱れた息を整えながら両手で自分自身の身体に抱きつく。

「あと何回あの現場を見れば、慣れるんだろう…」

こんなにも自分の心はか弱いのかとつくづく思う。胸の奥がまだツキツキと痛む。そして、しばらくの間体力が回復するのを待ってホテルへと向かう。






━━━━━━「はい、申し訳ありません。」

次の日、ホテルから出勤した俺は昨日の影響か病気の影響でなのか分からないが頭痛が朝から酷かった。家に帰れば薬はあるが、帰りたくはなかった。
 部長に早退する旨を伝え、俺は足早に会社を出た。電車に揺られている間俺は両親の墓参りに行こうと考えた。電車を降り、近くの花屋で花を買うと墓地へと向かった。

墓地へ着くと、両親の名前が刻まれた墓石を眺める。本当は俺よりも長生きするべきだった人。俺が両親を殺してしまったー。そんな事を考えていると、後ろから砂利を踏む音が聞こえ、俺の数メートル後ろで止まった。


「ここに何の用で来たんだ」憎悪を含んだような低い声が聞こえる。

俺は後ろを振り返る。目の前の俺が憎いとでもいう様な表情の男性と女性が立っていた。

「伯父さん、伯母さんお久しぶりです」2人の視線に耐えかねて頭を下げる。唇をグッと噛む。

「お前が死ねばよかったのに、何故のこのこと兄さんの墓参りに来ているんだ。」

「そうだよ！小さいお前を嫌々世話建てして、大学で家を離れて清々したのに、また顔を見るなんて恩知らずな男だね！」

2人の言い分にグッと堪えながら耐える。

やっぱり来るべきじゃなかった……。今までは伯父さんや伯母さんが来る時間帯を把握してずらして来ていたが、今日は運が悪かった。俺は、両親に手向ける様の花を胸元に握り締めたまま伯父さんや伯母さんに「失礼します。」と言って墓地を離れた。