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第2章 ゼノアでの新生活

第10話 台所番の奮闘

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 台所番としては自分の荷物より先に台所の整備だ。冷蔵用の保冷庫内にある氷ボックスに魔法で氷を作り、中に肉だの魚介類だの野菜だのを入れて魔法で冷やして閉める。
 冷凍用の保冷庫は安物の蒸留酒を庫内上部の氷入れに入れた後魔法で凍らせ、後は冷凍品を入れた後同様に魔法で中を冷やして閉めればいい。
 どちらも魔法なしで2日くらいは持つ大型標準品だ。

 あとは麦だの米だのパスタだのパンだの常温で大丈夫なものを戸棚へ。岩塩各種やハーブ類やオリーブオイル等も並べて使いやすいように。

 ついでにもうすぐ昼だからささっとパスタ料理でも作っておこう。早く食べたいし疲れているからメニューはイワシとニンニクと松の実とあり合わせのハーブで作ったアバウトなパスタ。

 この手の安直料理は前世で休日に良く作ったな。パスタがメインだと米を炊かないでいいし材料費も安くて済むし楽なんだ。その辺はこの世界でも同じ。

 付け合わせとかスープとかメインはどことか言うなよ。そう思いつつ作ったところで皆さんやってきた。どうやら匂いにつられた模様だ。

「お昼ご飯でいいのかな?」

 フィオナさんが台所をのぞく。

「簡単だけれどさ。運ぶの手伝いよろしく」

 隣の食堂風の部屋にテーブルがあるのでそこへ持っていって昼食開始。

「専任のコックでなくてもちゃんと料理はつくれるのですね」

 元御嬢様が怪しい事を言いながらフォークを手に取る。

「他のおかずとかは無しだけれどさ。この程度なら簡単だろ」

「充分ですわ」

「というか美味しいよな、これ」

「同意かな」

 喋りながらも皆さん結構勢いよく食べている。
 グラム数不明ながら親指と人差し指で丸をつくり1人前としたから全体量は結構多めの筈だ。普通に考えると1人あたり1.5人前~2人前位はあると思う。
 1人当たり平皿山もりでそれでも余ってフライパンごと持ってきている状態だ。

 なのに皆さん自分のを食べ切ってフライパン内の方まで手を伸ばしている。これは夕食も多めに作った方がいいな。今後は2人前のつもりで作ることにしよう。

「ところでこれを作ったという事は、アシュノール君は部屋の片づけはまだかな」

「ええ。台所の整理と昼食をやっていましたから」

「なら片づけたら皆でアシュノールさんの部屋整理を手伝いましょうか」

「そうですわね。私達は一通り終わりましたから」

 おっとそれは申し訳ない。

「いいですよ。自分でやってもそれほどかからないと思いますし」

 あ。何か3人の間に目線で会話が行われた気配がしたぞ。

「いや、出来れば仕事部屋とか事務室もセットしたいからな。仕事の要になるアシュノール君の手は出来るだけ早く空けたいところだ」

「そうそう。食事の片づけは僕がやっておくからテディとミランダ、手伝ってあげてよ。僕も終わったらすぐ合流するから」

「そうですわね」

 何だろう。微妙に何かを感じる。しかしこの時の俺には彼女たちが何を企んでいるかまだわかっていなかった。

「それじゃごめん、片付けはフィオナさんに御願いしていい?」

「洗って片づける位なら大丈夫だよ」

「ならフィオナ頼む」

 そんな訳で俺達は部屋を出る。

「確か3階と4階に小寝室と小部屋がありますよね」

 俺としては端っこの出来るだけ皆さんから遠い部屋がありがたい。何せ同じ屋根の下にこの3人がいると思うと健康な若い男性として色々ある訳だ。だから少しでも遠い方がと思うのだけれど。

「ちゃんとアシュノール君の部屋はとっておいてある。安心してくれ」

 ミランダさんがそう言うなら小寝室の1つかな。だったら皆とちょい近いよな。そう思いつつ階段を上り、もう一回階段をのぼり、3階廊下へ。

 ここまでくると4階の小部屋ではなく3階の小寝室だな。俺としては4階の使用人室で充分なんだけれど仕方ないか。そう思いつつミランダさんの後をついてある部屋の扉をくぐる。

 あれ? この部屋はちょっと……

「もっと小さい部屋でいいですよ。この部屋じゃ俺にはちょっと広すぎて落ち着きませんから」

 案内されたのは大寝室だ。広い部屋に縦か横かわからないような幅が広いベッドがある。しっかりした机があったりちょっとしたお茶用のテーブルがあったり。
 正直な所貧乏性の俺にはちょっと良すぎる部屋だ。

「アシュノール君がここの要だからさ。堂々とこの部屋にいればいい」

「そうですわ。それにこの位広い方が……」

 テオドーラさんとミランダさん、なにやら2人でにやりと笑って頷く。その笑みが肉食獣が獲物を捉えた際の笑みに見えたのは気のせいだろうか。

「それにアシュノールさんの荷物、もうこの部屋に運び込んでありますのよ。ですから今更他の部屋へ持っていくのも面倒ですわ」

 確かに。多分この階の小寝室3部屋は彼女達が使っているだろうから、引っ越すとすれば4階の小部屋のどれかだ。しかし階段を上って荷物を持っていくのは面倒くさい。

「それじゃ荷物をこの部屋にしまいますか」

 ミランダさん、俺がいい悪いを言う前から俺の荷物を整理し始めた。どうやらこの部屋が俺の部屋というのは既定路線らしい。
 これくらいの事は諦めよう。仕方ないので俺も荷物の整理に入る。

「ベッドのマットと布団は魔法で消毒しましたから問題ないと思いますわ。シーツはフィオナが交換したのでこのままでも大丈夫な筈です」

 至れり尽くせりだ。
 しかしやっぱり、テオドーラさんやミランダさんに俺用になるベッド近くにいられるとどうも若い男子としては色々想像してしまいそうになる訳だ。努めて考えないようにしているけれど。

 何せ今日からここで3人と一緒に暮らすんだ。これくらいの事は平気にならないと。少なくとも見かけだけは邪念を持っていないように見せないとな。
 俺はそう思っていたのだけれども。
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