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第6章 メイド in 我が家
第35話 新しいお仕事?
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サラさんが来てから一週間後のお昼過ぎ。俺は何とかブラック労働を抜け出すことに成功した。
確かに花の名前シリーズ、厳密にはこのシリーズの元になるシリーズはあと4冊残っている。だから翻訳を進めてはいるけれどまだまだ締め切りは遥か先になる予定。
なので翻訳作業の傍ら、次はどんな小説を訳そうか考えたり、陛下からの宿題である『宇宙の構造と時空間』を読み進めたりしている。
フィオナもロッサーナ殿下からの宿題をもうすぐ終わらせると言っていた。テディも『アルトリア』がもう少しで終わる処だ。
ただし今はこの事務室にもう1人いる。ミランダはいつも通り外回り中。だから4人目はミランダではなくサラ。テディが清書している『アルトリア』を横で読んでいるのだ。
「……これで最後ですわ」
テディが最後の1頁を書き終え、サラに手渡す。逆にサラからテディに数枚の紙が渡った。
「あ、確かにそうですわね」
テディがささっと書き直す。いつの間にかテディとサラによるダブルチェック体制が発足したらしい。
「こっちもこれで大丈夫かな。疲れた……」
フィオナがそんな台詞を吐いてくたっと突っ伏した。皆さんお疲れ様というところだ。
「今度はアンニュイな終わり方なんですね。でも綺麗だしこれが必然だったんだなって納得できる終わり方ですね」
「そうでしょそうでしょ。ここの余韻がいいのですわ」
テディ達の方も終わったようだ。そう思ったらサラが立ち上がる。
「ちょうどおやつの時間ですね。用意してあるから持ってきます」
「あ、私も手伝いますわ」
サラとテディ、2人でとことこと部屋の外へと消える。
「あの2人、最近はずっとくっついてるよね」
「話も合うみたいだしさ。まあいいんじゃないか」
「でも本まで手伝わせるなら、メイドの給料だけじゃ申し訳ないよね」
「それもそうだな」
確かにフィオナの言う通りだ。ならば以前ちょっと考えて断念した計画を実行に移してみよう。
「実は以前、向こうの世界の料理レシピの本を訳そうかと考えた事があるんだ。スティヴァレと向こうでは食材が微妙に違うからすぐ断念したんだけれどさ。サラに実際に作って貰って材料なんかを確認すれば翻訳できるよな」
「あ、それ楽しいよね。今までと違う料理も楽しめそうだし。それにそうやってこっちの作業を手伝ってもらえばこっちの分の給料を正式に上乗せできるし」
「だろ」
なんて話しているとテディとサラが戻ってくる。
「今日のおやつはプリンですわ」
大きめのマグカップ大という大きめのプリンが1人1個ずつ配られた。ほどよく冷たくてちょうどいい甘さで美味しい。
「そう言えば今、フィオナと何を話していましたの。新しい本の話のように聞こえましたけれど」
「前、ここの事務所をはじめてすぐの頃、料理本を翻訳したいけれど出来ないって話をしただろ。今ならサラがいるから出来るかなって」
「確かにちょうどいいですわ」
乗り気のテディ。
「私に出来るでしょうか」
ちょっと不安そうなサラ。
「何ならいくつか実際に作ってみれば? 確か以前、レシピ本を取り寄せたよね」
サラの叔父の軽食屋にメニューを教えた時だな。しかしあのレシピ本はあまり良くない。
「あれはお菓子専門だし作り方も面倒だしさ。だからもっとわかりやすいのを取り寄せた方がいいだろ」
写真満載のレシピ本だと日本円で1冊千円から二千円程度だろうか。俺は財布から小銀貨6枚を取り出して机の上に置く。
「日本語書物召喚! 写真たっぷりでわかりやすく比較的簡単かつ人気が出そうなレシピ本。起動!」
ちょっといい加減な条件だったせいか魔力の消費が多かったような気がする。それでも無事、5冊程カラー写真たっぷりの大判の本が召喚された。
「とりあえずこの中で、見た感じでいいから作ってみたい料理を選んでページを折っておいてくれないか。そのページを翻訳するから」
「綺麗で本物そっくりの絵の本ですわね」
「見てみていいでしょうか」
「遠慮せず選んで」
更に今召喚した本を全部渡す。
「これくらいの内容なら1ページ5分もあれば訳せるからさ。今日作ってみたいものがあったら言ってくれ。あと写真だけでどんな料理かわからないときは、言ってくれれば簡単に説明をするからさ」
「私も見てみていいでしょうか」
「僕も見たいな」
「なら一緒に選んでいただけますか」
3人でそれぞれ取り寄せたレシピ本をめくり始めた時。
「ただいまー」
ミランダが帰ってきた。
「そろそろ『アルトリア』や殿下からの仕事も終わったかなと思って……あれ皆、何を見ているんだ?」
「レシピ本だよ。サラにどれを作って貰おうかと思ってさ」
「実際に作ってスティヴァレにあった形でレシピ本にすれば面白いんじゃないでしょうか。そういう話で」
「確かに面白そうだな。どれどれ」
ミランダまでレシピ本読書会に加わってしまう。そのまま半時間程度経過した後。
「これだな。これを訳して作ってくれ」
ミランダがそう言って俺の処に本を開いて差し出した。見ると本格イタリア料理を簡単に作れる事を売りにしたレシピ本だ。
「いいけれど、何故この本なんだ?」
「スティヴァレの料理に近くて素材もほぼ同じ、そして簡単そうだけれど彩りもよくて美味しそうだからさ。これならきっと売れると思うぞ。本形式にしなくてもさ」
「どういう事でしょうか?」
「こういうレシピを必要としている層ってあまり図書館に行ったりしないだろ」
あ、確かに。
「それって料理レシピの本は売れないって事かな?」
「本として高価なまま売るとすれば難しいだろうけれどさ」
ミランダは明らかに何かを思いついている感じだ。
「まあ任せてくれよ。しっかり商売にしてくるからさ。そんな訳で、まずはこことこことこことここと……」
彼女は俺に訳すページを指定する。
「まずは翻訳した後、実際に作って具合を確かめてから清書じゃなくていいからレシピとして書き残しておいてくれ。それ以上は後で説明するからさ。あと一気に全部を仕上げる必要はない。ただ出来れば5種類くらいは今週中に実際に作って欲しいな。
それじゃ、とりあえず仕上がった仕事を届けてくる」
いつの間にかまとめ終わっていたテディの清書とかフィオナの原稿とかを持って、ささっとミランダは消える。
「何を考えているのかな、ミランダは?」
「わかりませんわ」
「でもあれ、絶対に何かお金になる事を思いついているよね」
サラをのぞく3人でうんうんと頷きあう。
「それじゃまずは訳しておくか」
レシピ本を訳す事自体は簡単だ。分量とかを間違えなければ。
白砂糖とか一般的でない食材は注釈をつけた後、原本通りに訳しておく。この辺は俺よりサラが代用品を考えた方がいいだろう。
オリーブオイルとかワインとかはスティヴァレにほぼ同じものがある。肉や魚、野菜関係も大体大丈夫だ。
ハーブ類はまあ、ちょっと違うのは仕方ないな。香辛料は結構厳しいが、まあその辺はサラに工夫して貰おう。
カルパッチョとか何種類かのスパゲティ、グラタンやピザからガスパッチョ等のスープまでささっと一気に訳す。
レシピ本に翻訳のメモを挟むという感じで、一気に20ページ程訳し終わった。メモを挟んだままの本をサラに渡す。
「取り敢えずこんな処かな。ミランダが何を企んでいるかわからないけれどお願いしていいかな」
「わかりました。早速夕食から作ってみます」
さて、地球のイタリア料理がここスティヴァレではどうなるか。
「楽しみだね」
「そうですわ」
テディとフィオナは本当に楽しみという感じの表情だ。サラはちょっと緊張している感じだけれど。
確かに花の名前シリーズ、厳密にはこのシリーズの元になるシリーズはあと4冊残っている。だから翻訳を進めてはいるけれどまだまだ締め切りは遥か先になる予定。
なので翻訳作業の傍ら、次はどんな小説を訳そうか考えたり、陛下からの宿題である『宇宙の構造と時空間』を読み進めたりしている。
フィオナもロッサーナ殿下からの宿題をもうすぐ終わらせると言っていた。テディも『アルトリア』がもう少しで終わる処だ。
ただし今はこの事務室にもう1人いる。ミランダはいつも通り外回り中。だから4人目はミランダではなくサラ。テディが清書している『アルトリア』を横で読んでいるのだ。
「……これで最後ですわ」
テディが最後の1頁を書き終え、サラに手渡す。逆にサラからテディに数枚の紙が渡った。
「あ、確かにそうですわね」
テディがささっと書き直す。いつの間にかテディとサラによるダブルチェック体制が発足したらしい。
「こっちもこれで大丈夫かな。疲れた……」
フィオナがそんな台詞を吐いてくたっと突っ伏した。皆さんお疲れ様というところだ。
「今度はアンニュイな終わり方なんですね。でも綺麗だしこれが必然だったんだなって納得できる終わり方ですね」
「そうでしょそうでしょ。ここの余韻がいいのですわ」
テディ達の方も終わったようだ。そう思ったらサラが立ち上がる。
「ちょうどおやつの時間ですね。用意してあるから持ってきます」
「あ、私も手伝いますわ」
サラとテディ、2人でとことこと部屋の外へと消える。
「あの2人、最近はずっとくっついてるよね」
「話も合うみたいだしさ。まあいいんじゃないか」
「でも本まで手伝わせるなら、メイドの給料だけじゃ申し訳ないよね」
「それもそうだな」
確かにフィオナの言う通りだ。ならば以前ちょっと考えて断念した計画を実行に移してみよう。
「実は以前、向こうの世界の料理レシピの本を訳そうかと考えた事があるんだ。スティヴァレと向こうでは食材が微妙に違うからすぐ断念したんだけれどさ。サラに実際に作って貰って材料なんかを確認すれば翻訳できるよな」
「あ、それ楽しいよね。今までと違う料理も楽しめそうだし。それにそうやってこっちの作業を手伝ってもらえばこっちの分の給料を正式に上乗せできるし」
「だろ」
なんて話しているとテディとサラが戻ってくる。
「今日のおやつはプリンですわ」
大きめのマグカップ大という大きめのプリンが1人1個ずつ配られた。ほどよく冷たくてちょうどいい甘さで美味しい。
「そう言えば今、フィオナと何を話していましたの。新しい本の話のように聞こえましたけれど」
「前、ここの事務所をはじめてすぐの頃、料理本を翻訳したいけれど出来ないって話をしただろ。今ならサラがいるから出来るかなって」
「確かにちょうどいいですわ」
乗り気のテディ。
「私に出来るでしょうか」
ちょっと不安そうなサラ。
「何ならいくつか実際に作ってみれば? 確か以前、レシピ本を取り寄せたよね」
サラの叔父の軽食屋にメニューを教えた時だな。しかしあのレシピ本はあまり良くない。
「あれはお菓子専門だし作り方も面倒だしさ。だからもっとわかりやすいのを取り寄せた方がいいだろ」
写真満載のレシピ本だと日本円で1冊千円から二千円程度だろうか。俺は財布から小銀貨6枚を取り出して机の上に置く。
「日本語書物召喚! 写真たっぷりでわかりやすく比較的簡単かつ人気が出そうなレシピ本。起動!」
ちょっといい加減な条件だったせいか魔力の消費が多かったような気がする。それでも無事、5冊程カラー写真たっぷりの大判の本が召喚された。
「とりあえずこの中で、見た感じでいいから作ってみたい料理を選んでページを折っておいてくれないか。そのページを翻訳するから」
「綺麗で本物そっくりの絵の本ですわね」
「見てみていいでしょうか」
「遠慮せず選んで」
更に今召喚した本を全部渡す。
「これくらいの内容なら1ページ5分もあれば訳せるからさ。今日作ってみたいものがあったら言ってくれ。あと写真だけでどんな料理かわからないときは、言ってくれれば簡単に説明をするからさ」
「私も見てみていいでしょうか」
「僕も見たいな」
「なら一緒に選んでいただけますか」
3人でそれぞれ取り寄せたレシピ本をめくり始めた時。
「ただいまー」
ミランダが帰ってきた。
「そろそろ『アルトリア』や殿下からの仕事も終わったかなと思って……あれ皆、何を見ているんだ?」
「レシピ本だよ。サラにどれを作って貰おうかと思ってさ」
「実際に作ってスティヴァレにあった形でレシピ本にすれば面白いんじゃないでしょうか。そういう話で」
「確かに面白そうだな。どれどれ」
ミランダまでレシピ本読書会に加わってしまう。そのまま半時間程度経過した後。
「これだな。これを訳して作ってくれ」
ミランダがそう言って俺の処に本を開いて差し出した。見ると本格イタリア料理を簡単に作れる事を売りにしたレシピ本だ。
「いいけれど、何故この本なんだ?」
「スティヴァレの料理に近くて素材もほぼ同じ、そして簡単そうだけれど彩りもよくて美味しそうだからさ。これならきっと売れると思うぞ。本形式にしなくてもさ」
「どういう事でしょうか?」
「こういうレシピを必要としている層ってあまり図書館に行ったりしないだろ」
あ、確かに。
「それって料理レシピの本は売れないって事かな?」
「本として高価なまま売るとすれば難しいだろうけれどさ」
ミランダは明らかに何かを思いついている感じだ。
「まあ任せてくれよ。しっかり商売にしてくるからさ。そんな訳で、まずはこことこことこことここと……」
彼女は俺に訳すページを指定する。
「まずは翻訳した後、実際に作って具合を確かめてから清書じゃなくていいからレシピとして書き残しておいてくれ。それ以上は後で説明するからさ。あと一気に全部を仕上げる必要はない。ただ出来れば5種類くらいは今週中に実際に作って欲しいな。
それじゃ、とりあえず仕上がった仕事を届けてくる」
いつの間にかまとめ終わっていたテディの清書とかフィオナの原稿とかを持って、ささっとミランダは消える。
「何を考えているのかな、ミランダは?」
「わかりませんわ」
「でもあれ、絶対に何かお金になる事を思いついているよね」
サラをのぞく3人でうんうんと頷きあう。
「それじゃまずは訳しておくか」
レシピ本を訳す事自体は簡単だ。分量とかを間違えなければ。
白砂糖とか一般的でない食材は注釈をつけた後、原本通りに訳しておく。この辺は俺よりサラが代用品を考えた方がいいだろう。
オリーブオイルとかワインとかはスティヴァレにほぼ同じものがある。肉や魚、野菜関係も大体大丈夫だ。
ハーブ類はまあ、ちょっと違うのは仕方ないな。香辛料は結構厳しいが、まあその辺はサラに工夫して貰おう。
カルパッチョとか何種類かのスパゲティ、グラタンやピザからガスパッチョ等のスープまでささっと一気に訳す。
レシピ本に翻訳のメモを挟むという感じで、一気に20ページ程訳し終わった。メモを挟んだままの本をサラに渡す。
「取り敢えずこんな処かな。ミランダが何を企んでいるかわからないけれどお願いしていいかな」
「わかりました。早速夕食から作ってみます」
さて、地球のイタリア料理がここスティヴァレではどうなるか。
「楽しみだね」
「そうですわ」
テディとフィオナは本当に楽しみという感じの表情だ。サラはちょっと緊張している感じだけれど。
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